2023年分の年末調整の変更点と事務スケジュール
税務ニュース
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2023年分の年末調整計算事務に係る制度改正は、4点あります。今回はその変更ポイントを確認しつつ、年1回の事務を適切かつスムーズに進めていただくために、今後のスケジューリングについておさらいしていきましょう。
2023(令和5)年分の年末調整に関わる変更ポイント
(2) 国外居住親族に係る扶養控除要件の見直し
(3) 扶養控除等申告書 住民税に関する事項の記載項目を追加
(4) 個人住民税特別徴収税額通知が本人宛に電子化選択可能
(1) 住宅ローン控除
変更ポイント① 適用期限・控除率・控除期間
この変更は2022(令和4)年度税制改正を受けて適用されるものです。住宅ローン控除適用初年分は確定申告によらなければならないため、年末調整には2年目となる今年の分から影響します。
2022(令和4)年から2025(令和7)年までの間に入居した場合、下記のとおりに変更されています。
住宅の区分 | 居住の用に供した年 | 控除期間 | 各年の控除額の計算(控除限度額) |
---|---|---|---|
認定長期優良住宅 | 令和4年・令和5年 | 13年 | 年末残高等×0.7%(35万円) |
認定低炭素住宅 | 令和6年・令和7年 | 13年 | 年末残高等×0.7%(31.5万円) |
ZEH水準省エネ住宅(※) | 令和4年・令和5年 | 13年 | 年末残高等×0.7%(31.5万円) |
令和6年・令和7年 | 13年 | 年末残高等×0.7%(24.5万円) | |
省エネ基準適合住宅 | 令和4年・令和5年 | 13年 | 年末残高等×0.7%(28万円) |
令和6年・令和7年 | 13年 | 年末残高等×0.7%(21万円) | |
一般の新築住宅 | 令和4年・令和5年 | 13年 | 年末残高等×0.7%(21万円) |
令和6年・令和7年 | 10年 | 年末残高等×0.7%(14万円) |
※ ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、高断熱外皮(壁紙・窓など)でLEDなど省エネ設備を使用し消費エネルギーを減少させ、太陽光発電によりエネルギーを創ることでエネルギーの収支をゼロにしようとするものをいいます。
変更ポイント② 適用対象の所得要件
適用対象者の所得要件が「合計所得金額3,000万円以下」から「合計所得金額2,000万円以下」に引き下げられています。
変更ポイント③ 適用対象の住宅要件
床面積が40㎡以上50㎡未満である住宅の用家屋で2023(令和5)年12月31日以前に建築確認を受けたものについても、住宅ローン控除の適用ができます。ただしこの場合は、合計所得金額が1,000万円を超える年については適用されません。
(2) 国外居住親族に係る扶養控除
国外居住親族を扶養親族とするための要件が見直されました。
扶養控除の対象となる扶養親族の範囲から、「30歳~69歳の非居住者」が原則的に除外されます。
ただし、以下の3つの要件のいずれかに該当する場合は、従来どおり扶養控除の対象となります。
- 留学により国内に住所および居所を有しなくなった者
- 障害者
- 扶養控除の適用を受けようとする居住者からその年において生活費または教育費に充てるための支払を38万円以上受けている者
※1 国内居住親族と同じく、申告者本人と生計を一にする親族で合計所得金額が48万円以下である者という要件も満たさなければなりません。
※2 非居住者とは、日本国内に1年以上住所および居所を有しない者をいいます。
この見直しに伴い、「給与所得者の扶養控除等申告書」の記入方法と「給与所得の源泉徴収票」の記載方法が変更されています。
非居住者に該当する要件に応じて以下のいずれかの数字を記載します。
非居住者の親族要件 | 区分欄に記載する数字 |
---|---|
30歳未満または70歳以上 | 01 |
30歳~69歳の留学生 | 02 |
30歳~69歳の障害者 | 03 |
30歳~69歳の38万円以上送金を受ける者 | 04 |
※ 複数該当するときは、いずれかひとつを記載します。
また、「留学により国内に住所および居住を有しなくなった者(02)」と「38万円以上の送金を受けている者(04)」に該当する場合は、従業員は以下の証明用の確認書類を事業主に提出しなければなりません。
非居住者である親族の年齢等の区分 | 扶養控除申告書の提出時 | 年末調整時 |
---|---|---|
16歳~29歳または70歳以上 | 親族関係書類 | 送金関係書類 |
30歳~69歳の留学生 | 親族関係書類 留学ビザ等書類 |
送金関係書類 |
30歳~69歳の障害者 | 親族関係書類 | 送金関係書類 |
30歳~69歳の38万円以上送金 | 親族関係書類 | 38万円送金書類 |
※1 「親族関係書類」とは、次の1または2のいずれかの書類(日本語訳文も必要)で、申告者本人の親族であることを証するものをいいます。
- 戸籍の附票の写しなど日本国または地方公共団体が発行した書類および非居住者である親族の旅券(パスポート)の写し
- 外国政府または外国の地方公共団体が発行した書類(非居住者である親族の氏名、生年月日および住所または居所の記載があるものに限ります。)
※2 「送金関係書類」とは、次の1または2の書類(日本語訳文も必要)で、申告者本人がその年に非居住者である親族それぞれの生活費または教育費に充てるための支払ったことがわかるものをいいます。
- 金融機関が発行した書類(写し可)で、その金融機関が行う為替取引により非居住者である親族に支払ったことを明らかにする書類
- クレジットカード会社が発行した書類(写し可)で、非居住者である親族がそのクレジットカード会社のカードを利用して商品の購入やサービスの提供を受けたことに対する支払をしたことにより、その代金に相当する額の金銭を申告者本人から受領したことを明らかにする書類
※3 「38万円送金書類」とは、「送金関係書類」のうち申告者本人から非居住者である親族への支払金額合計が年間38万円以上であることを明らかにする書類をいいます。
(3)扶養控除等申告書 住民税に関する事項の記載項目
「給与所得者の扶養控除等申告書」における“住民税に関する事項”は、2022(令和4)年分までは16歳未満の扶養親族についてのみ記載すべき事項となっていました。今回の改正で、所得税では扶養控除の対象にならないが、住民税のみで扶養控除の対象となる配偶者・親族について記入することになりました。これにより、住民税の判定において寡婦またはひとり親に該当するケースに対応されます。
① 従来どおり16歳未満の扶養親族について記入します。
② 退職手当がある配偶者・扶養親族がいる場合に記入します。
※16歳以上の扶養親族で退職所得があることにより所得税では扶養控除の対象とならない配偶者・親族について、退職所得を除いた所得が48万円以下であれば住民税では扶養控除の対象となるため。
③ ①・②の配偶者・扶養親族がいて、申告者本人が寡婦またはひとり親に該当する場合に、□欄に〇印を記入します。
(4)個人住民税通知の電子化
2024(令和6)年度分以後、つまり今年以後の年末調整による給与支払報告を受けて市区町村役所から徴収される個人住民税について、従業員宛の特別徴収税額通知の電子化を選択することができることになりました。
ただし、以下の要件を満たさなければなりません。
〇 従業員本人に電磁的方法により提供することができる体制を有していること
年末調整をスムーズに進めるためのスケジューリング
年末調整といえば、寒くなり始める頃から事務を進めるイメージです。しかしながら事業主と従業員双方にとって煩雑化している計算事務への対応に加えて、電子化ツールの運用もあり、10月から準備を始めても早すぎるということはありません。事務の電子化を含めて事業主・従業員ともに混乱することがないよう、ぜひともこの時期から準備をしていきましょう。
ABOUT執筆者紹介
税理士 西原憲一
大阪市生まれ。大阪市立大学 商学部 卒業。監査法人系税務コンサルティング会社に勤務。
2000年3月 西原会計事務所を開設。2002年3月 FP総合事務所 ユナイテッド・エフピー・ファームを設立。2007年6月 株式会社UFPFに組織変更し、代表取締役に就任。近著に『マンガと図解でよくわかる インボイス 消費税の基本と手続きの仕方がわかる本』がある。
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