法人成り後に失敗しない法人口座の選び方―コスト削減と融資を両立させる、会計士が教える実務戦略―
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法人成りをした直後、多くの経営者が最初に悩むのが「どの銀行で法人口座を開設すべきか」という問題です。「個人事業主時代から使っているメガバンクでいいのでは?」「安心感があるし、手続きも楽そう」
このように考える方は非常に多いのですが、実はその選択が、毎年数十万円単位の“見えないコスト”を生んでいるケースも少なくありません。
本記事では、公認会計士・税理士の立場から、法人口座の最適な選び方と、成長フェーズに応じた使い分け戦略を解説します。
なぜ法人口座を開設すべきなのか
まず大前提として、法人と個人は法律上「まったく別人格」です。個人口座を事業に流用すること自体が直ちに違法になるわけではありませんが、以下のようなデメリットが生じます。
- 会社と個人の資産が混在し、経理の透明性が低下する
- 税務調査時に「この支出は本当に会社経費か」という疑念を持たれやすい
- 金融機関や取引先からの信用力が弱くなる
一方、法人口座を開設することで、
- 資産管理が明確になり、経理・税務がスムーズになる
- 法人名義での取引実績が信用力につながる
- 将来の融資審査において有利に働く
といった実務上の大きなメリットがあります。
法人口座は「単なる入出金口座」ではなく、会社の信用の土台なのです。
創業期にまず開設すべきは「ネット銀行」
結論から言うと、創業期の法人がまず最初に開設すべきなのはネット銀行の法人口座です。ネット銀行には、従来の銀行にはない明確な強みがあります。
① 振込手数料が圧倒的に安い
最大のメリットは、振込手数料の安さです。
一般的に、メガバンクでは
- 他行宛振込(3万円以上):数百円
- さらに月額の基本利用料が発生
といったコストがかかります。
一方、ネット銀行では
- 月額利用料が無料
- 他行宛振込手数料が大幅に安い
- 振込件数に応じた優遇制度あり
といった仕組みが整っています。
例えば、毎月50回程度の振込を行う法人の場合、年間で30万円以上のコスト差が生じることも珍しくありません。これは単なる手数料の違いではなく、会社の利益そのものです。
② 口座開設が早く、手続きが簡単
ネット銀行の多くは、口座開設がオンラインで完結します。
- 店舗に行く必要がない
- 書類のやり取りが最小限
- 最短即日で開設可能なケースもある
時間に余裕のない経営者にとって、このスピード感は大きな価値があります。
③ 24時間365日利用でき、会計ソフトと連携可能
ネット銀行はインターネットバンキングが前提のため、
- 残高確認・振込がいつでも可能
- 給与振込や支払業務をスマホで完結
- クラウド会計ソフトとAPI連携
といった利便性があります。
特に、会計ソフトとのAPI連携により、取引明細が自動で取り込まれる=記帳作業の大幅削減が可能です。
これは人件費削減だけでなく、経営者自身の「時間」という最も貴重な資源を守ることにもつながります。
ネット銀行の最大の弱点「融資に弱い」
ここまでを見ると、「ネット銀行だけで十分では?」と思われるかもしれません。しかし、ネット銀行には明確な弱点があります。それが 融資に弱い という点です。
- 融資審査が厳しい
- 融資を受けられても金利が高め
- 担当者との関係構築がしにくい
事業を成長させる過程では、いずれ必ず「外部資金」が必要になるタイミングが訪れます。
この点を踏まえると、ネット銀行一本化はリスクがあると言えます。
日本政策金融公庫とネット銀行の関係
なお、以前はネット銀行口座を日本政策金融公庫の返済口座に指定できないケースが多くありました。しかし現在では、一部のネット銀行は返済口座として利用可能となっています。
日本政策金融公庫は、
- 政府系金融機関
- 創業融資に強い
- 無担保・無保証での融資実績が豊富
という特徴があり、創業期の資金調達において非常に重要な存在です。
公庫融資をきっかけに、その後、信用金庫や地方銀行からの融資につながるケースも多くあります。
融資を見据えるなら「地域密着型金融機関」
融資を本格的に考える場合、信用金庫や地方銀行といった地域密着型金融機関との付き合いが重要になります。
地方銀行・信用金庫の特徴
- 地域の中小企業支援が主目的
- 事業内容や経営者の人柄を重視
- 担当者との関係性が融資判断に影響
特に信用金庫は、利益追求よりも地域貢献を重視する傾向があり、創業期や小規模事業者に対して親身に相談に乗ってくれるケースが多く見られます。
口座を作るだけでは不十分
ただし、「口座を作った=融資が受けられる」わけではありません。重要なのは、
- 定期的に業績を報告する
- 試算表を提出する
- 事業内容を丁寧に説明する
といった 日頃のコミュニケーションです。
「お金が必要な時だけ来る会社」と「普段から状況を共有している会社」
銀行が助けたいのは、間違いなく後者です。
法人口座は“複数持ち”が基本戦略
実務上おすすめなのは、複数の法人口座を持ち、役割ごとに使い分けることです。
- ネット銀行:支払・振込用(コスト削減)
- 地域金融機関:売上入金・融資用(信用構築)
これにより、
- 日常コストを抑えつつ
- 将来の資金調達にも備える
という両立が可能になります。
さらに、融資時には複数行から条件を比較(相見積もり)することもできます。
※ただし、過度な相見積もりは関係悪化につながるため注意が必要です。
メガバンクはいつ使うべきか
メガバンクは、
- 全国・海外取引が増えた
- 会社規模が大きくなった
- 社会的信用力をさらに高めたい
といった段階で、「信用力を示すためのツール」として活用するのが現実的です。
なお、取引実績を積めば振込手数料の減免交渉が可能になるケースもあります。
まとめ:法人口座は“戦略的に使い分ける”
法人成り後の法人口座選びは、単なる好みや安心感で決めるものではありません。
- コスト削減
- 業務効率化
- 将来の融資
これらを総合的に考え、ネット銀行 × 地域金融機関の併用が最適解となるケースがほとんどです。
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ABOUT執筆者紹介
税理士・公認会計士 辻哲弥
税理士。公認会計士。
有限責任監査法人トーマツにて会計監査業務に従事。
23歳時、「日本一若い会計事務所」として”ACLEAN(アクリーン)会計事務所”を開業。スタートアップ、マイクロ法人を中心とした税務業務や補助金・融資等の資金調達支援、経理を対象とした業務改善コンサルティングを展開。
2023年に同事務所を”税理士法人グランサーズ”と統合。同法人の代表に就任。中小企業の税務顧問対応、内部統制構築支援、組織再編支援、事業承継・企業のクラウドサービス活用と経理効率化サービスも提供。また、自身のボディメイクの経験を活かした健康経営に関するコンサルティングも得意としている。YouTube「社長の資産防衛チャンネル」絶賛配信中!















