「サービス」と「雇用」の両方の視点が大事!障害のある方への『合理的配慮』の提供に大切なこと
社会保険ワンポイントコラム
障害のある方への『合理的配慮』の提供は、「サービス」を提供する場面でなく、「雇用」する場面でも必要な考え方です。
今回は、「サービス」「雇用」それぞれにおける『合理的配慮』の内容を整理し、両方の視点を大事にすることで『合理的配慮』の提供に大切なポイントを解説します。
障害のある方への「サービス」
まずは「サービス」の視点からです。
こちらの基本となる法律は「障害者差別解消法」です。
「障害者差別解消法」では、主に次の3つのことが定められています。
1.不当な差別的取扱いの禁止
企業や店舗などの事業者や国・都道府県・市町村などの行政機関等が、障害のある人に対して、正当な理由なく、障害を理由として差別することを禁止しています。
2.合理的配慮の提供
障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられた時に、負担が重すぎない範囲で対応するとしています。
3.環境の整備
行政機関等や事業者に対して、個別の場面において、個々の障害者に対する合理的配慮が的確に行えるよう、事前の改善措置として施設のバリアフリー化などに努めることを求めています。
上記2が『合理的配慮』ということになりますが、内閣府ホームページでは、次のような具体例が示されています。
- 意思を伝え合うために絵や写真のカードやタブレット端末などを使う。
- 段差がある場合に、スロープなどを使って補助する。
- 障害者から「自筆が難しいので代筆してほしい」と伝えられたとき、代筆に問題がない書類の場合は、障害者の意思を十分に確認しながら代筆する。
これらの障害者差別解消法における「合理的配慮の提供」は、これまで行政機関等は義務(事業者は努力義務)とされていましたが、法改正により、令和6年4月から『事業者も義務化される』こととなっています。
障害のある方の「雇用」
次に「雇用」の視点からです。
こちらの基本となる法律は「障害者雇用促進法」です。
「障害者雇用促進法」では、主に次の3つのことが定められています。
1.雇用分野での障害者差別を禁止
募集・採用、賃金、配置、昇進などの雇用に関するあらゆる局面で、障害者であることを理由とする差別が禁止されています。
2.合理的配慮の提供
事業主は、募集・採用時や採用後などにおいて、合理的配慮を過重な負担にならない範囲で提供する義務があります。
3.相談体制の整備・苦情処理紛争解決の援助
事業主は、相談窓口の設置など、障害者からの相談に適切に対応するために必要な体制の整備が求められます。また、事業主は、障害者からの苦情を自主的に解決することが努力義務とされています。
こちらも上記2が『合理的配慮』ということになります。「雇用」については既に事業主の「義務」となっていますが、厚生労働省リーフレットでは、次のような具体例が示されています。
募集・採用時
- 視覚障害がある方に対し、点字や音声などで採用試験を行うこと
- 聴覚・言語障害がある方に対し、筆談などで面接を行うこと
採用後
- 肢体不自由がある方に対し、机の高さを調節することなど作業を可能にする工夫を行うこと
- 知的障害がある方に対し、図などを活用した業務マニュアルを作成したり、業務指示は内容を明確にしてひとつずつ行なったりするなど作業手順を分かりやすく示すこと
- 精神障害がある方などに対し、出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること
『合理的配慮』の提供にあたって~3つのポイント~
~ポイント①~「サービス」「雇用」どちらかに偏り、どちらかを不十分にしないこと
例えば、障害のある方への「サービス」を追求していきたいと考えた場合に、専門的な知識・技術などが必要となることも考えられます。その専門性を追求するあまりに、「雇用」に関する『合理的配慮』の提供が十分行われないことに注意する必要があります。
仮に「サービス」に関する『合理的配慮』が高い水準で行われたとしても、そこだけへ没頭したり、知らない間に満足したりしないといったことです。それは「雇用」を追求するあまりに「サービス」に関する『合理的配慮』の提供が十分に行われないことも同じです。
~ポイント②~相手の立場に立って『合理的配慮』を俯瞰的に捉えること
障害のある方の立場に立つこと、さらには障害のある方の生活全体への『合理的配慮』にも思いを寄せることが大切です。
例えば「サービス」に関する『合理的配慮』が提供されることにより、相手の方が満足を得たとしても、「雇用」に関する『合理的配慮』が提供されなければ、生活全体の満足は得られないということです。
事業者全体が「サービス」「雇用」のどちらかの『合理的配慮』に偏っていれば、社会全体もどちらかに偏ることになります。会社の規模や業種などにより、求められる『合理的配慮』に違いが出ることは当然考えられますが、『合理的配慮』を俯瞰的に捉える視点も必要です。
~ポイント③~常に‘’多様性‘’を大事にすること
社会の中にあるバリアなどによって、日常生活や社会生活に相当な制限を受けている方が『合理的配慮』の対象といえますが、そのようなことは障害特性や障害者手帳の有無などだけで判断されるものではありません。
事実関係に基づき、相手の立場に立って‘’どのようなサービスが提供できるのか?‘’‘’どのような環境が働きやすいのか?‘’と常に考えることが大切です。
そして、その考えとなる対象は、障害のある方に限ったことではありません。妊娠中の女性・高齢者・外国人など、それぞれの立場によって制限を受けていると感じることも考えられます。
多様性を大事にし、‘’その人にとって、最も適切なサービスは何か?‘’‘’誰もが働きやすい職場環境を実現するには?‘’という視点を持ち続けることが、自ずと障害がある方への必要な『合理的配慮』の提供へとつながっていきます。
ABOUT執筆者紹介
社会福祉士・社会保険労務士 後藤和之
昭和51年生まれ。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科卒業。約20年にわたり社会福祉に関わる相談援助などの様々な業務に携わり、特に福祉専門職への研修・組織内OFF-JTの研修企画などを通じた人材育成業務を数多く経験してきた。現在は厚生労働省委託事業による中小企業の労務管理に関する相談・改善策提案などを中心に活動している。