JA「建物更生共済」の保険料は年末調整で控除できる?所得税の扱いを確認しよう
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地方の方が加入している損害保険で多いのが、JA(農業協同組合)が扱っている「建物更生共済(たてこう)」です。この共済は、一般的な損害保険とかなり違います。そのため、税法上の扱いも複雑です。今回は、加入している方に向け、年末調整や確定申告における建物更生共済の掛金の扱いを解説します。
建物更生共済とは何か
建物更生共済とは、JAが扱っている共済制度です。火災や台風、地震といった自然災害で建物や動産が損害を受けたときに備える損害保険ですが、他の民間企業の損害保険と異なり、次のような特徴があります。
すべてが掛け捨てとはならない
多くの損害保険は掛け捨て型ですが、建物更生共済は「一部掛け捨て、一部積立型」となっています。また、「建物更生共済むてきプラス『建物』」のように、全額積立 となっている商品もあります。そのため、共済金の受取は、火災などの共済事故が発生した時だけではありません。共済満期時に、満期共済金・満期時割戻金・据置割戻金が受け取れます。
「積立」のある損害保険だから課税がややこしい
積立部分があるため、税法上も他の民間の損害保険と同じようには扱えません。満期を迎えたら、一時所得として扱われます。また、将来相続が発生したら、原則、相続財産となります。
建物更生共済の支払は所得税でどうなるのか
支払時の掛金の扱いを見ていきましょう。建物更生共済は、一般的な火災保険と違い、掛け捨て部分と積立部分の両方から成り立っています。
建物共済の掛金のしくみ
そのため、支払った掛金がどの部分なのかに注意しないといけません。「とりあえず丸ごと控除した」としてしまうと、まちがった計算になります。
掛け捨て部分の対象が自宅や家財(2007年1月1日以後の契約):地震保険料控除
共済の対象が自宅や生活に必要な動産ならば、共済掛金のうち掛け捨て部分は「地震保険料控除」となります。つまり、所得税・住民税を計算する際の所得控除となるのです。
なお、対象となる自宅や家財は掛金を払っている本人分に限りません。生計を一にする配偶者や親族の自宅や家財が対象なら、掛金は地震保険料控除にできます。
地震保険料の所得控除額
控除対象の掛金(年間) | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
---|---|---|
50,000円以下 | 年間の掛金全額 | 年間の掛金×1/2 |
50,000円超 | 50,000円 | 25,000円 |
ただし、地震保険料として扱われるのは、契約が2007年1月1日以降のものです。これより前のものは、「旧長期損害保険料」として扱われます。
●掛け捨て部分の対象が自宅や家財(2006年12月31日以前の契約):旧長期損害保険料
2006年12月31日以前に締結され、かつ共済期間が10年以上となっている建物更生共済は、所得税法上、経過措置が設けられています。そのため、旧長期損害保険料としての控除を選択できます。控除額の上限は次のようになります。
旧長期損害保険料の所得控除額
所得税 | 住民税 | ||
---|---|---|---|
年間の掛金 | 控除額 | 年間の掛金 | 控除額 |
10,000円以下 | 年間の掛金全額 | 5,000円以下 | 年間の掛金全額 |
10,000円超 20,000円以下 |
年間の掛金全額×1/2+5,000円 | 5,000円超 10,000円以下 |
年間の掛金全額×1/2+2,500円 |
20,000円超 | 15,000円 | 10,000円超 | 10,000円 |
ただし、2007年1月1日以降、保険料変更を伴う契約内容の変更があると、変更年の1月1日にさかのぼって地震保険料として扱われます。
なお、地震保険料と長期損害保険料の両方があるときは、それぞれで計算した額を合計したものを所得額から差し引きます。こちらも控除上限額があり、所得税は50,000円まで、住民税は25,000円までしか控除できません。
掛け捨て部分の対象が事業用資産:必要経費
共済の対象が賃貸用物件や個人事業用の建物や動産であれば、掛金はそのまま不動産所得や事業所得の必要経費となります。建物が居住用と事業用の両方なら、按分しなくてはなりません。
個人事業主が持ち家で飲食店を営んでいたとしましょう。自宅と店舗の専用割合が1:1なら、掛け捨て部分の掛金の半分は地震保険料に、残りの半分は事業所得を計算する際の必要経費となります。
掛け捨ての共済掛金が10万円で、自宅兼店舗の専用割合が1:1の場合
積立部分:共済金受取時の「一時所得の経費」
建物更生共済は、他の民間の火災保険と違い、積立部分もあります。この積立に対応する支払いは、地震保険料にも旧長期損害保険料にも事業上の経費にもなりません。将来満期金を受け取ったときの経費となります。
共済の満期金は税法上、「一時所得」に該当します。一時所得は次のように計算します。
この式の「収入金額」は満期金に、「収入を得るために要した費用」は支払った共済金の積立部分の累計となります。
つまり、今年払った共済金のうち積立部分は、年末調整や確定申告で控除しません。満期金をもらったときに、支払った金額を合算し、受け取った満期金から差し引くのです。
なお、一時所得とされるのは、満期を迎えて受け取ったときの話です。自宅や家財を対象としたものだけでなく、事業用の建物や財産を対象とした共済の満期金も一時所得となります。ただし、火災や事故といった共済事故が起きた際に受け取る共済金は、原則、非課税です。
建物更生共済の掛金に関する注意点
支払った掛金の扱いを大まかにまとめると、次のようになります。
建物更生共済の掛金の扱い
掛け捨て部分 | 積立部分 | |||
---|---|---|---|---|
財産の対象 | 控除・経費の種類 | 控除・経費計上のタイミング | 控除・経費の種類 | 控除・経費計上のタイミング |
自宅・家財 ・2007年1月1日から契約 |
地震保険料 | 支払った年分の年末調整・確定申告 | 一時所得の経費 「収入を得るために要した費用」 |
満期金を受け取った年分の確定申告 |
自宅・家財 ・2007年1月1日から契約 |
旧長期損害保険料 | |||
事業者用建物 | 必要経費 (事業所得・不動産所得) |
支払った年分の確定申告 |
この掛金については、次の2つの注意点があります。
二重計上に注意
建物更生共済の掛金でもっとも注意したいのが「二重計上」です。積立部分の掛金は、年末調整や確定申告で所得控除や必要経費にできません。
逆に、満期金を受け取ったときの確定申告で、過去の支払分をまるごと「収入を得るために要した費用」としてしまうと、所得額や税額をまちがえてしまいます。
控除や費用とすべき金額がどの部分に対応しているか、ていねいに確認しましょう。
一時所得の経費は「受取人が負担した掛金だけ」
積立部分の満期金は、掛金の支払者と受取人が違っていても、一時所得として扱われます。このとき注意したいのが「収入を得るために要した費用」です。
受け取った本人が何ら掛金を負担していないのなら、一時所得計算上、過去の掛金総額を「収入を得るために要した費用」にはできません。費用にできるのは、受取人本人が掛金を負担した部分に限られます。ご注意ください。
ABOUT執筆者紹介
税理士 鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒。ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。ZUU online、マネーの達人、朝日新聞『相続会議』、KaikeiZine、納税通信などで税務・会計の記事を多数執筆。著書に『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、共著)。
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