12 August

経営相談の現場から[シリーズ第14回]トランプ関税に中小企業はどう備える?

掲載日:2025年08月12日   
起業応援・創業ガイド

筆者は経営コンサルタントとして、日々経営者の方々のお悩みを伺っています。このシリーズは「経営相談の現場から」というテーマで、中小企業経営者や個人事業主の方から実際にあったご相談内容を取り上げます。
今回は、最近ニュースを賑わせている「トランプ関税」について、建築設計事務所を立ち上げたL社長からのご相談を取り上げます。

「トランプ関税」の影響で大きな仕事が白紙に

L社長 「工場の建築設計専門の設計事務所を創業しました。昨年まで勤務していた大手設計事務所の下請けとして仕事を得ています。発注者は自動車工場や自動車部品工場が中心です。」

筆 者 「自動車工場の設計事務所ですか。工場の運営面も考慮した設計ノウハウがおありということでしょうか。」

L社長 「はい。工場の生産ラインの効率や安全性を考慮して設計するノウハウが重宝されています。」

筆 者 「それは素晴らしい強みですね。業績はどうですか。」

L社長 「それが、創業して早々、大きな赤字になってしまいました。自動車部品工場の拡張移転の設計という大きな仕事の予定があったのですが、工場の移転自体が白紙になってしまって。」

筆 者 「部品工場の設備投資が見送られたということですか。」

L社長 「そうなんです。元請けの話では、トランプ関税の影響で部品工場の会社の業績悪化が見込まれているということで、投資を抑える判断があったというんです。」

そもそもトランプ関税とは

筆 者 「トランプ関税の影響はまだ限定的ですが、中小企業にも少しずつ影響が出始めているようですね。」

L社長 「はい。わが社には関係のないことだと思っていました。想定外の事態で困っています。トランプ関税とはそもそも何なのでしょうか。」

筆 者 「2025年1月発足の第2次トランプ政権がアメリカの産業を保護するために課す関税措置のことですが、この関税が、アメリカに輸出する日本企業の業績に悪影響を及ぼすわけですね。」

L社長 「どうして日本企業の業績に影響するのでしょうか。そもそも関税って、誰が誰に払うものでしたっけ。日本企業が払うものではないですよね。」

筆 者 「はい、おっしゃる通り、日本企業が関税を払うわけではありません。関税は、輸入するアメリカの企業や消費者が、アメリカ政府に払うものです。日本企業の業績に影響する主な理由は、日本製品に関税が課されてアメリカ製品より割高感が生じると、アメリカでの売れ行きが落ちる可能性があるからです。」

トランプ関税は中小企業にも影響する?

L社長 「トランプ関税の影響を受けるのはどんな企業でしょうか。」

筆 者 「直接影響を受けるのは、アメリカへ輸出している企業です。あとは中国やメキシコへ輸出している企業も影響すると見られています。中国やメキシコはアメリカへの輸出が多い国なので、トランプ関税で国全体の景気が悪化する可能性があるからですね。」

L社長 「わが社が設計するのは自動車工場や自動車部品工場が多いです。それらの会社はアメリカへの輸出が多いですよね。彼らがトランプ関税を警戒してアメリカ向けの生産を減らすとしたら、工場への投資を抑えるのは当然の流れですね。」

筆 者 「はい。トランプ関税の影響はまだあまり顕在化していないようですが、アメリカへの自動車輸出額は既に減少していると報じられています。」

L社長 「中小企業でトランプ関税の影響を受けたという相談は、わが社のほかにもありますか?」

筆 者 「はい。自動車向けプラスチックパーツの金型製造会社、自動車関連の大口得意先をもつ物流会社(倉庫・運送)などの経営者様から、不安の声を伺っています。やはりL社長と同じで自動車産業の裾野産業ですね。これからも自動車に限らず、アメリカへの輸出企業が受ける影響が波及して、間接的に影響を受ける中小企業が増えていくのではないでしょうか。」

中小企業はトランプ関税にどう備える?

L社長 「私たち中小企業が出来る備えはあるでしょうか。」

筆 者 「できることなら、得意先を分散しておきたいですね。中小企業はどうしても取引先の構成が大口得意先に偏りがちですが、アメリカへ輸出する得意先への依存度が高いと、もろに影響を受けてしまいます。」

L社長 「耳が痛いですが、そうなんですよね。わが社の場合は下請け仕事だけに頼らず自社でも営業活動をして得意先を増やさなければなりませんね。」

筆 者 「新しい得意先を開拓する際は、併せて新たな製品・サービスにも挑戦することが多いですね。L社長の場合、自動車関連の工場設計に特化していることが強みになっていましたが、リスクに備えるには付帯サービスを広げることも視野に入れたいところではないですか。」

L社長 「そうですね。自動車工場設計は強みとして中核に据えつつ、自動車以外の工場の設計にも進出しなければ。いっそのこと新事業として倉庫や店舗の設計にも挑戦しようか。でもそうなると新しいCADソフトや機器類が必要になってしまうんですよね。資金が乏しいので躊躇してしまいます・・・。」

関税の影響を受けた事業者に対する補助金の優先採択

筆 者 「そういった投資を支援する補助金も検討してはいかがですか。トランプ関税の影響を受けた事業者が新サービス開発のために機械設備やシステムを導入する場合、審査において考慮される補助金があります。」

L社長 「本当ですか。どの補助金でしょうか、ぜひ知っておきたいです。」

筆 者 「今のところ、ふたつの補助金があります。」

<ものづくり補助金> 

  • 補助上限額・・・従業員規模等により最大4,000万円
  • 補助率・・・中小企業は 1/2、小規模事業者等は2/3
  • 2025年4月25日公募開始分より、米国関税措置の影響を受ける事業者を審査にて考慮する旨が公募要領に追記されている

<新事業進出補助金>

  • 補助上限額・・・従業員規模等により最大9,000万円
  • 補助率・・・1/2
  • 2025年4月22日公募開始分より、米国関税措置の影響を受ける事業者を審査にて考慮する旨が公募要領に追記されている

L社長 「補助金があれば店舗用CADの導入も前向きに検討できるかもしれません。こういう補助金のことを予め把握しておくのも、大切な備えですね。」

筆 者 「はい。トランプ関税の影響は、輸出企業ではない中小企業にもこの先徐々に波及する可能性があります。今のうちにできる備えを進めておきましょう。」

(注)本記事の内容は2025年8月時点のものです。米国の関税・輸入制限措置に関する最新の情報は、経済産業省の「米国関税対策ワンストップポータル」で確認できます。
(注)本記事の内容は実際にあったご相談内容をもとにしていますが、事業者様を特定できないように多少のアレンジを加えております。
ABOUT執筆者紹介

経営コンサルタント 古市今日子

株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士

外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積み、2016年独立。
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営指導員などを務める。
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件

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