健康経営で社員は幸せになれるのか
社会保険ワンポイントコラム
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健康経営とは何か
健康経営とは、企業が社員等の健康管理を経営的な視点で考え戦略的に実践することです。企業は労働安全衛生法等で定められている最低限の健康管理を行うことは必要ですが、本来、個人の心身の健康管理は社員本人が行うべきものです。
しかしながら、最低限を守るだけでなく、積極的に社員等への健康投資を行うことによって、社員の活力や生産性の向上、組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されているのが健康経営です。健康経営に積極的に取り組んでいる企業として、経済産業省が創設した健康経営優良法人認定制度による認定社数は、2023年3月時点で、大規模法人約2,600社、中小規模法人約14,000社となっています。
健康経営は社員を幸せにするのか
健康経営は、あくまで経営戦略です。そのため、企業の業績向上が最終目的となります。企業は経営資源を投下するため、投資効果をもたらさないといけないのです。その視点が抜けると、単なる福利厚生施策となってしまいます。
では、その企業の健康経営に参画する社員は、心身ともに幸せになれるのでしょうか。例えば、空気清浄機を事務所に設置する、という施策はどうでしょうか。これは、花粉症に悩む社員や新型コロナ等の感染症に不安を感じる社員にとっては、気持ちよく仕事を行う環境になると思われます。
また、禁煙を熱望する喫煙社員に禁煙外来受診料を企業が補助することは、当該対象社員にとってはまさに心身ともに幸せを感じることでしょう。さらに、健康経営には、長時間労働を是正し、生産性を向上するような施策も含まれます。ノー残業デーを設けることや、産業医との面談を法定以上の条件で行うこと等です。
前2つのような福利厚生的・恩恵的な施策は社員の幸せ感を向上させるでしょう。しかし、働き方改革にも繋がる長時間労働対策等は逆に幸せ感を低下させる可能性もあるのです。なぜなら、生産性向上のために、社員は、その活動の裏で、時間やノルマに追われることや、職場の人間関係に悩む等の負の側面も現れることになるからです。
生産性の向上を突き詰めると、AIに置き換えられる場合も今後は増えてくることから、社員にとってモチベーションが下がる要因にもなります。つまり、健康経営を行うことで、本当に社員は心身ともに健康にいられるかどうか、その状態が幸せかどうか分からなくなる可能性もあるのです。
私は企業の健康経営を支援していますが、特に、先ほどの認定を取ることを目的とした健康経営活動は、社員のやることが増えただけで結局心身ともに疲れ果てた、という事例も見てきました。
そのため、健康経営が本当の意味で社員を巻き込み、企業と社員にとって幸せな活動となるには次の3点が大切だと考えています。
(1)全体をデザインする必要あり、木を見て森を見ず状態をなくす
具体的には、経営目的からブレイクダウンした健康経営戦略マップを作成する
(2)効果検証を行える客観的な指標を作る
効果が分からないと、取り組む社員もやる気が起こらない。
(3)幸福度も指標に入れる
企業が良かれと思って施策を実施しても、それが社員の幸せに繋がっていない可能性があるから。
※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
ABOUT執筆者紹介
三谷社会保険労務士事務所 三谷文夫
三谷社会保険労務士事務所
大学卒業後、旅館や書店等で接客や営業の仕事に従事。前職の製造業では、総務担当者として化学工場での労務管理を担う。2013年に社労士事務所開業。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重視したコンサルティングと、自身の総務経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚い。就業規則の作成、人事評価制度の構築が得意。商工会議所、自治体、PTA等にて研修や講演多数。大学の非常勤講師としても労働法の講義を担当する。趣味は、喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。