新型コロナ感染症の後遺症「long COVID」の症状とリスクとは?
社会保険ワンポイントコラム
新型コロナ感染症に振り回された3年間もようやく一段落してきたような空気が世間には漂っています。人々の関心は、新型コロナ感染症そのものから、その後遺症の問題に移りつつあるように見えます。新型コロナ感染症の後遺症は、英語では long COVID、あるいはPost COVID-19 Conditionなどと呼ばれています。
2021年10月にWHO(世界保健機関)は「long COVIDとは新型コロナ感染症罹患から3カ月以内に始まり、少なくとも2カ月間続く状態。一般的な症状は、疲労、息切れ、認知機能障害などであるが、これらに限定されるものではない。症状はまた時間の経過とともに変動したり、再発する可能性もある。」と定義しています。
どういった症状があるのか、またその発症のメカニズムや治療法などについても不明な部分が多い状況ですが、これまでにわかってきていることを整理します。
症状の特徴
long COVIDを発症する割合は報告により10~50%とばらつきがあります。
症状は多岐にわたり、またデルタ株、オミクロン株など、どの系統のコロナに罹患したかによっても違いがあることも明らかにされつつありますが、大きく以下の4つにわけることができます。
- 全身症状(倦怠感、全身の関節痛など)
- 呼吸器症状(長引く咳、息切れなど)
- 精神・神経症状(記憶力・集中力の低下、不眠、うつ状態など)
- その他(嗅覚・味覚障害、下痢・腹痛といった消化器症状など)
なかでも一番多いのは疲労感と言われています。時間とともに徐々に軽快していきますが、新型コロナ感染症が治ってから1年たっても疲労感が取れない人が1割程度いるという報告もあります。労働者の中には、この疲労感のために従前と同じような仕事ができなくなる人もいます。
また、COVID-19 は小児で重症化することは極めてまれですが、2~6週後に発熱、腹痛、嘔吐、下痢、錯乱状態などが発症することがあると、最近わかってきました。これを「小児 COVID-19 関連多系統炎症性症候群(MIS-C)」と呼びます。
労働者に与える影響
職業人として考えたとき、どの症状が最も大きな障害になるかは仕事によって違ってきます。例えば料理人であれば味覚や嗅覚の障害は致命的でしょうし、肉体作業をメインに行う肉体労働者などにおいては倦怠感や息切れ等はパフォーマンスを下げます。デスクワーカーにとって大きな問題になるのは、精神・神経症状だと思われます。
私が産業医として経験した例を挙げます(プライバシー保護のため改変しています)。外資系のコンサルタント会社に勤めている中堅社員。新型コロナ感染症に罹患して数日熱やのどの痛みに苦しみましたが入院するまでには至りませんでした。その後職場復帰したのですが、従来通りの仕事ができなくなっている様子を心配した上司から勧められて、産業医と面談しました。
ご本人は、「以前のようにアイデアが出てこない。また出てきてもそれをパワーポイントにまとめたり、クライアント先で説明するのが非常に下手になった」と訴えていました。いわば頭の中にモヤがかかったような症状であり、brain fogと言われる状態です。さらに、以前と同じレベルの仕事ができなくなっていることへの焦りが彼自身を追い詰め、うつ状態を呈するようになっていました。
メンタルクリニックに紹介、休職してとりあえずうつ状態からは回復しました。しかしながら約6か月たっても能力低下は回復しませんでした。それなりの給料をもらっている社員でしたので、会社は戦力外と判断したのでしょう。退職勧奨を受けて、割増退職金をもらって退職されました。
最近になり、brain fog発症のメカニズムが少しずつわかってきています。どうやら一見治癒したように見えても実は脳神経系に新型コロナウイルスが生き続けているらしいのです。実際アメリカの研究によると、新型コロナ感染症にかかった人の約1割はbrain fogで職を失っているというデータが示されています。
long COVIDになるリスクを下げるには?
①ワクチンを接種する
ワクチンを打っている人は、打っていない人に比べて、long COVIDを発症する割合が少ないことがわかってきています。
②新型コロナウイルス感染症にかからない
こういった病態のリスク、長期予後、治療等については、世界中の研究者が今まさに必死に研究している最中で、次々と知見が変わっていくことでしょう。それでも、ただ一つおそらく確実に言えることは、新型コロナウイルス感染症は現在の平均的な日本人が思っているよりは怖い病気であり、かからずに済むならかからない方がいいということです。
新型コロナウイルス感染症は現在の新型ウイルス感染症等感染症から感染症法上の5類感染症に変更されることが決まりました。しかし行政上の分類が変わろうともウイルス自体の性質は変わりません。罹患しないように心がけることはこれからも大切だと私は考えています。
ABOUT執筆者紹介
神田橋 宏治
総合内科医/血液腫瘍内科医/日本医師会認定産業医/労働衛生コンサルタント/合同会社DB-SeeD代表
東京大学医学部医学科卒。東京大学血液内科助教等を経て合同会社DB-SeeD代表。
がんを専門としつつ内科医として訪問診療まで幅広く活動しており、また産業医として幅広く活躍中。
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