生成AIは農業にどう活かせるのか?農家が現場目線で考えてみた。
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厳しさを増す農業を生成AIが救う?
天候変動や資材の高騰、そして人手不足――。近年、農業を取り巻く状況はどんどん厳しくなっています。昔ながらの勘や経験に頼るだけでは、なかなか立ち行かなくなってきたという声も聞こえてきそうです。そんな中、今注目を集めているのがAIを使った経営の効率化。なかでも会話形式で手軽に使える「ChatGPT」は、農業の現場でも活用できるシーンがたくさんありそうです。
「AIって難しそう」「特別な機械が必要なんじゃ?」と思われる方も多いかもしれません。でも、ChatGPTはスマートフォンやパソコンがあれば、誰でもすぐに始められます。例えるなら、いつでも相談に乗ってくれる“デジタルの相棒”のような存在です。そこで今回の記事では、農家歴15年の筆者が「どのようなシーンでChatGPTを活用できそうか?」を、現場目線で色々と探ってみたいと思います。
新人農家が作業の全体像を掴むのに役立つ
AIの活用法としてまず思い浮かぶのが「作業計画づくり」。たとえば、玉ねぎを栽培する場合、夏場の播種、苗の定植、除草、追肥、病害虫の発生を防ぐ防除作業、収穫に至るまで、ChatGPTに相談すれば一般的な農作業の流れに沿ったスケジュール案を作ってくれます。熟練農家であれば、すぐに作業全体をイメージできると思いますが、特に新規就農したばかりの人にとって、AIを使うことで「ざっくり全体像を把握する」ことができるのは非常にありがたいはず。
なぜなら、新規就農時の失敗の多くが「次の作業が分からず、段取りが後手に回ること」に起因するからです。まずはChatGPTにガンガン質問し、そのうえで不明点をベテランの先輩農家に聞くようにすれば、コミュニケーションもより円滑になり、最短距離で解決方法を見つける一助にもなると思います。
毎日の作業記録にもChatGPTが役立ちそうです。スマホの音声機能を活用すれば、「今日は畑の草刈りをした。午後は風が強かった」といった断片的な会話をするだけで、それをきれいに文章にまとめてくれます。紙のノートに記録する時間がないときでも、手軽にデータで残せるのはとても便利。特に補助金などの申請時には、日々の作業記録の添付が必須になっているケースが多いため、記録を付ける手間を省けるのは大きな利点だと思います。
病害虫の発生など異常が起きた時の助言も
ChatGPTは、作物に異常が出たときの“相談相手”としても活躍してくれます。たとえば、「葉が黄色くなって元気がない」「一部の株だけ枯れてきた」など、気になる症状を伝えると、考えられる原因(病気や虫、栄養不足など)をいくつか挙げてくれます。さらに、「最近の気温が高かった」「雨が続いていた」などの情報も加えれば、より精度の高いアドバイスが返ってきます。もちろん、最終的な判断は専門家に委ねるべきですが、「これはすぐに対応が必要かも」と気づくためのヒントになります。
特に新規就農したばかりの頃は、無数にある農薬からどんなものを選ぶのが最適なのか、皆目見当がつかないという場面がよくあります。熟練の農家であれば、具体的な農薬の商品名でネット検索し、詳しい使用条件などを調べられますが、新人だとなかなかそうはいきません。その点、ChatGPTであれば、ざっくりとした質問でもある程度の目星をつけて答えを探してくれるため、そこで得た農薬の商品名などをさらにChatGPTに質問したり、ネット検索したりすることで、熟練の農家と同じような情報に辿り着くことができるはずです。
6次産業化に取り組む農家はフル活用すべき
ChatGPTは、販売や宣伝の面でも大いに頼りになります。たとえば、過去の市場価格の傾向を調べたり、「今の価格は例年と比べて高いのか安いのか?」といったことも教えてくれます。また、消費者のレビューや声を分析して「今どんな野菜や加工品が求められているか」といったトレンドも掴めます。さらに、直売所で使うPOPの文章や、SNSに投稿する紹介文なども、「明るく親しみやすい感じで」「子育て世代向けに」「おじいちゃんおばあちゃんに伝わる言葉で」といったお願いをすれば、ピッタリの文面を作ってくれます。
筆者は15年前に新規就農しましたが、それ以前から並行してライター業を続けています。ずっと文章を生業にしてきた立場から見ても、昨今のChatGPTの文章力の向上は目覚ましく、いまだにAIが事実に基づかない情報を生成する現象(ハルシネーション)が起こるものの、以前に比べてだいぶ少なくなった印象があります。
特に商品のキャッチコピーの生成などは、あっという間に数十もの案を提案してくれるため、「農協などに頼ることなく自分の力でお米や野菜を販売していきたい」といった農家にとっては、非常に心強い相棒になりそうです。
資材の価格比較や補助金申請時の文書作成も
そのほかにも、経費や資材を管理する際にも力を発揮してくれそうです。たとえば「30アールのビニールハウスで使える被覆資材を教えて」と質問し、メーカー別に種類や価格の比較表を作ってもらうことも。また、前年の資材購入リストを入力して「一番高騰した資材はどれ?」と聞けば、今後の購入計画や見直しの参考になります。
人材育成やマニュアルづくりにも活かせます。新人さんに作業を教えるときに「やるべきことを分かりやすく箇条書きにして」とお願いすれば、作業手順をまとめたチェックリストができあがります。さらに、外国人技能実習生向けには、「簡単な日本語で、ベトナム語訳もつけて」などと指示すれば、言葉の壁を超えた説明資料も作れます。
さらに、補助金や新制度の情報収集にも活用できます。たとえば、「農林水産省のスマート農業実装支援事業って何?」と聞けば、わかりやすく要点をまとめてくれますし、申請書を書くときに「事業の目的」などの文章のたたき台を考えてもらうことも。慣れない書類づくりもChatGPTを使えばずいぶんと楽になるはずです。
積極的に活用して新たな農業のカタチを見出そう!
もちろん、注意すべき点もあります。まず、個人情報や圃場のデータを扱う際は、慎重な取り扱いが求められます。また、農薬の使用や制度の申請に関しては、必ず公的な資料を確認し、誤情報に振り回されないようにすることも大切です。そして何より、AIをうまく使いこなすためには「どう聞くか」がポイント。具体的な条件や目的を伝えることで、より自分に合った答えを引き出すことが可能になります。
ChatGPTは、ただの文章生成ツールではありません。忙しい農業の現場で「ちょっとした疑問をすぐ解決したい」「もっと効率よく作業したい」というときに心強い味方になります。ChatGPTのようなAIをうまく取り入れていけば、作業の無駄を減らし、持続可能な農業経営を実現するための手助けになるはず。「AIなんて自分には縁がない」と思っていた方こそ、まずは気軽に試してみてはいかがでしょうか。
農業は「AIに最も代替されにくい産業の一つ」とも言われます。一部の先進農家では、AIを搭載した農業機械やシステムの導入が試験的に進められていますが、農業の現場は不確定要素が多く、極端な話をすれば、地域どころか土地ごとに条件が異なります。過去のデータを分析し、そこで得た情報をそのまま横展開して活動できるほど単純なものではありません。AIがさらなる進化を遂げ、「農業の救世主」となるのは、「まだだいぶ先の未来だろう」というのが筆者の印象です。
ただ、今回の記事で見てきた通り、農業にまつわる業務を細かく分解していくと、特に経営面や事務作業においては、AIを用いることでかなりの業務効率化が図れそうです。「最新のツールなんて覚えるのが億劫だから…」なんて言い訳しながら敬遠するのではなく、ChatGPTを積極的に活用する方法を模索していけば、自分なりの「新しい農業のカタチ」を見出す糸口になるかもしれません。
ABOUT執筆者紹介
ひらっち
大学を卒業後、ブラック企業で営業職を経験。その後、ほぼ未経験からフリーライターとして独立、さらに数年後、非農家から新規就農を果たし、現在はライターと農家の二刀流を実践中。2級FP技能士・APF、認定農業者。農業情報サイト『マイナビ農業』などで執筆するほか、自身のnoteでも「農業」「フリーランス」「お金」などをテーマに情報発信している。