フリーランスがインボイスで損をしないために、今やるべきこと
税務ニュース
(1)インボイスが始まると、なぜ、免税事業者は損なのか
インボイス制度は、これまで消費税に縁のなかった免税事業者にもっとも影響を与えると言われます。確かにインボイス制度が、フリーランスにとって不利な改正なのは、否定できません。しかし税理士に依頼せず、自分で確定申告しているフリーランスも多く、ほとんどの方が消費税の仕組みには詳しくないと思われます。
そこでフリーランスの視点に立って、インボイス制度の基本といまフリーランスがやるべき事をお伝えします。
日本では、医療費など法律で定められた一部の取引を除いて、ほぼ全ての取引(=課税取引)に消費税が課税されます。消費税は、消費税を払った消費者ではなく、受け取った人(=納税義務者)が、申告し納税するのが特徴です。納税義務者は、受け取った消費税の全額ではなく、自分が支払った消費税を差し引いて納税します。払った消費税を差し引くことを仕入税額控除といいます。インボイスとは、自分が消費税を支払ったことを証明する書類なのです。
インボイス制度が始まる前は、商品を仕入れたり、交通費などの費用を払ったときは、領収書や請求書に記載がなくても、支払った金額には消費税が含まれていると考えて、仕入税額控除の計算をすることが出来ました。
たとえば1,000円で商品を仕入れたとしましょう。その場合は、次のように消費税を計算します。
納税義務者は、受け取った消費税から、91円をマイナスして納税することになります。しかしインボイス制度が始まると、インボイスに自分が払った税額が記載されていないと、仕入税額控除ができなくなるのです。
ところで、インボイスは誰でも発行できる訳ではありません。適格請求書発行事業者として登録をした人や会社だけが、インボイスを発行できます。そしてここがポイントですが、免税事業者は適格請求書発行事業者になることができないのです。そのため、免税事業者と取引をし、消費税をプラスして支払っても、その消費税相当分(上記の例でいえば、91円)を仕入税額控除できないため、結果として取引先の納税額が増えてしまうのです。
すると、どういう事が起きるでしょうか。取引先は、免税事業者のフリーランスとは取引しない、または消費税分だけ減額して支払いたいと考えるようになります。インボイス制度の導入で、免税事業者がもっとも影響を受けるのは、そういう状況が予想されるからです。
(2)免税事業者のとるべき対策とは?
ではインボイス制度が導入されたら、免税事業者はどのように対応すれば良いのでしょうか?
消費税の仕組みは複雑ですが、自分を守るためには、何より消費税やインボイス制度の仕組みを理解することが重要です。その上で、自分や取引先が具体的にどの程度の影響を受けるのかをシミュレーションし、取引先と交渉して契約の見直しをすることで、不利な影響を最小減に抑えるしかありません。
そこでまずは、インボイスの導入で、取引先がどの程度の影響を受けるかを検討します。インボイス制度が始まったからといって、すべての取引先がインボイスを必要とする訳ではないからです。
たとえばお客さまが消費者であれば、仕入税額控除のために登録番号入りのインボイスを発行する必要はありません。または取引先が小規模で、売上が5,000万円以下であれば、簡易課税制度を採用している可能性があります。簡易課税制度とは、仕入税額控除の計算にあたり、売上に固定の割合をかけて、納付税額を計算するものです。実際に払った消費税を差し引く訳ではないので、インボイスを取得する必要がないのです。
一方で、大規模事業者と取引していれば、必ずインボイスの発行を求められるので、フリーランスも確実に影響を受けるというわけです。
そこで、取引先の大部分が大規模事業者という場合は、まずインボイス制度が導入されたら、取引先が消費税分を減額する予定なのかどうかを確認する必要があります。皆さんへの支払い額を減額せず、これまでと同額を支払う企業もあるはずです。その場合は、これまで仕入税額控除ができていた金額相当分について、相手先企業の納税額が増えることになります。しかし資金に余裕がある場合は、フリーランスの皆さんの貢献度を考慮して、これまで通りの金額を支払おうと考える企業も少なくないと思われます。
交渉の結果、取引の内容や、相手先企業との関係性によっては、消費税分の減額は諦めなければならないこともあるでしょう。その場合は、自分がどの程度の影響を受けるのかをシミュレーションし、次のいずれかの道を選ぶことになります。
②登録事業者となって、原則的な方法で申告・納税するか
③登録事業者となって、簡易課税制度を使って申告・納税するか
①を選んだ場合
インボイスを発行することができません。したがって、消費税相当額分だけ、値下げを受け入れざるを得ない可能性があります。
②を選んだ場合
もらった消費税から自分が払った消費税を引いた金額を納税していくことになります。これまで免除されていた納税額相当分だけ、手取りが減少することになります。
③を選んだ場合
簡易課税制度を使って計算した消費税の金額を納税することになります。②の方法とどちらが有利な方を選択することができます。これまでより手取り額は減少しますが、目減りする金額を少なく押さえられる可能性があります。
ここでフリーランスがやるべき事は、自分の確定申告を見直し、登録事業者になった場合に、自分の手取り額がどの程度目減りするのかを予測することです。
①免税事業者のままでいる場合、②インボイス発行事業者になって原則的な方法で消費税を納税する場合、③インボイス発行事業者になって簡易課税を選択する場合の、どの方法を採用すれば、もっとも目減り額が少なくてすむかを検証しましょう。そのためには、1にシミュレーション、2にシミュレーション、3・4がなくて5にシミュレーションです。自分の身を守るためには、とにかくシミュレーションが全てと言っても、過言ではないからです。
ABOUT執筆者紹介
税理士 原尚美
税理士法人 Right Hand Associates 代表社員
Japan Outsourcing Service Co. Ltd..,(ヤンゴン事務所) 代表取締役
東京外国語大学卒業。TACの全日本答練「法人税法」「財務諸表論」を全国1位で税理士試験に合格。直後に出産するも、育児と両立させるため、一日3時間だけの会計事務所をスタート。現在は、60名規模(ヤンゴン事務所含む)の会計事務所に成長。税務のみならず事業計画書の作成や資金調達など地に足のついた経営支援を通じて、中小企業から上場企業の子会社まで幅広くサポートしている。ミャンマーに現地法人を設立し、中小企業の海外進出も支援している。
出版実績
「51の質問に答えるだけですぐできる事業計画書のつくり方」
「フリーランスがインボイスで損をしない本」いずれも日本実業出版
「人事・経理・労務の仕事が全部できる本」ソーテック社
「マンガでわかる管理会計」オーム社
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