02 August

2024年10月より従業員数51人以上の企業が対象へ!短時間勤務者の社会保険適用拡大のポイント

掲載日:2024年08月02日   
社会保険ワンポイントコラム

2016年10月から、社会保険の加入対象がパート・アルバイトなどの短時間労働者へも広がりました。2016年当初「従業員数501人以上」だった企業要件は、2022年10月からは「従業員数101人以上」へ、そして2024年10月からは「従業員数51人以上」へと拡大されます。新たに適用対象者となる方の手続き漏れがないよう、適用要件や準備の流れは正しく理解しておきたいものです。

そこで今回は、社会保険の適用拡大のポイントを解説します。

適用拡大の対象企業とは

2024年10月から適用拡大の新たな対象となる企業は、従業員数が51人以上100人以下の企業です。ここでいう従業員数とは、「フルタイムの従業員数」+「週の労働時間および月の所定労働日数がフルタイムの3/4以上の従業員数」の合計で、パート・アルバイトを含みます。つまり、現在の厚生年金保険の被保険者数と考えていただくと良いです。

従業員数は月によって増減があると思いますが、直近12か月のうち6か月以上で前述の基準を上回ると、対象企業と捉えられます。また、労務に関する手続きの中には、事業場(支店・支社)ごとに制度適用判断や人数のカウントをするものも多くありますが、今回の「51人以上」とは、法人の場合は法人番号が同一であるすべての事業所の合計で見る点も留意したいところです。

新たに社会保険の適用対象となる従業員とは

前述の要件を満たす企業の場合、2024年10月からは、以下すべての条件を満たした従業員を新たに社会保険に加入させなければなりません。

①週の所定労働時間が20時間以上

契約上の所定労働時間数で判断し、残業時間は含みません。ただし、契約上は週の労働時間が20時間未満であっても、実労働時間が2か月連続で週20時間以上を超え、それが今後も続く見込みがある場合には、3か月目から加入対象となります。

②所定内賃金が月額8.8万円以上

所定内賃金とは基本給と諸手当を指し、残業代・賞与は含みません。また、手当の中でも、皆勤手当、通勤手当、家族手当に類するものも含みません。

③2か月を超える雇用の見込みがある

④学生ではない

休学中の方や夜間学生は、「学生ではない」と扱います。

今回適用拡大の対象となる企業では、これまで、フルタイム勤務以外の加入対象者の要件は「週の労働時間および月の所定労働日数がフルタイムの3/4以上」でした。例えば、フルタイム従業員の週の所定労働時間が40時間の企業で、週の所定労働時間が20時間の従業員がいたとします。2024年9月末まではこの従業員は社会保険の対象ではありませんが、10月以降は前述の要件をすべて満たせば社会保険の加入対象者になる可能性があるわけです。

10月までの準備の流れとは

適用拡大の対象企業では、以下の流れで準備を進めます。

①対象者の把握・対応方針の決定

新たに社会保険加入が必要な対象者(前述の4要件をすべて満たす従業員)を洗い出します。対象者が把握できたら、2024年10月までにどのようなスケジュールで周知・面談をしていくかを計画します。

今の給与のまま社会保険料の負担が増えると手取り額が減ることから、これを機に労働時間を増やしたり、正社員への転換等、キャリアアップを企業から提案するという方針も選択肢の1つです。あるいは従業員側から労働条件の変更希望が出ることもあるでしょう。労働条件の見直しとなると、契約書の締結し直しや、業務調整・配置調整等も必要になるため、なるべく早めに新規加入対象者への周知・個別面談等が開始できるとスムーズです。

なお、短時間労働者の労働時間延長や正社員への転換をする場合には、キャリアアップ助成金が申請できる場合があります。助成金は事前申請が必要な場合が多いので、この段階で情報収集をし、申請する場合には対応スケジュールに組み込んでおくと良いです。

また、社会保険料の事業主負担がどれほど増えるのかは、企業にとって気になる部分だと思います。厚生労働省が特設サイトで「社会保険かんたんシミュレーター」を公開しており、事業主負担の社会保険料がどの程度増えるのかの試算が可能です。

②社内周知・個人面談

①で決めた方針を元に、メールや社内サイトでの連絡、必要に応じて説明会も行いながら、新たに加入対象となる方に、法改正の内容を周知します。また、個人面談を実施し、2024年10月から社会保険の加入対象者になること、社会保険加入のメリット等を説明します。このとき利用できる資料として、厚生労働省が公開している従業員向けのガイドブックが便利です。10月以降の労働条件の変更が必要であれば、面談を通じて丁寧に合意形成していきましょう。

③社会保険の資格取得手続き

新たに社会保険の加入対象となる方の社会保険加入手続きを行います。手続きの方法は通常の入社手続きと同じで、資格取得日を2024年10月1日とした資格取得届を出します。

いかがでしたか。10月になって慌てて対応することがないよう、今からしっかりと準備しておきましょう。

ABOUT執筆者紹介

内川真彩美

いろどり社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士 / 両立支援コーディネーター

成蹊大学法学部卒業。大学在学中は、外国人やパートタイマーの労働問題を研究し、卒業以降も、誰もが生き生きと働ける仕組みへの関心を持ち続ける。大学卒業後は約8年半、IT企業にてシステムエンジニアとしてシステム開発に従事。その中で、「自分らしく働くこと」について改めて深く考えさせられ、「働き方」のプロである社会保険労務士を目指し、今に至る。前職での経験を活かし、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方のための制度設計はもちろん、誰もが個性を発揮できるような組織作りにも積極的に取り組んでいる。

 
原稿提供元株式会社ブレインコンサルティングオフィス「かいけつ!人事労務」

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