年の初めに2023年の注目ポイントをチェック!与党税制改正大綱を踏まえた今後の潮流について解説。
税務ニュース
あけましておめでとうございます!
昨年の2022年12月16日、与党税制改正大綱が取りまとめられたのは記憶に新しいところです。本コラムでは、税制改正大綱を踏まえて、2023年度税制改正の注目ポイントを確認するとともに、税制をめぐる潮流について、今後の方向性を占ってみましょう。
Contents
税制改正の目的とプロセス
税制は、経済社会の変化に対応できるよう、そのしくみが見直されます。税制改正の目的は、税負担の公平性の確保などの基本理念を踏まえながら、国民や各種団体の要望を反映させることにあります。
税制改正は「租税法律主義」という考え方のもと、立法の手続きが必要で、以下の手順で進められます。
まず、業界団体からの要望が集められ、各府省庁により税制改正要望として取りまとめられます。次に、政府税制調査会が税制改正要望を審議し、その後取りまとめられる与党税制改正大綱を踏まえて、「税制改正の大綱」が閣議に提出されます。閣議決定された「税制改正の大綱」に沿って、財務省と総務省が作成した改正法案が国会に提出されたのち、本会議で可決されて改正法案が成立し、改正法に定められた日から施行されます。
このように、本コラムで紹介する与党税制改正大綱は、税制改正の素案という位置付けになっています。
2023年度(令和5年度)税制改正大綱のポイントは?
昨年2022年12月16日、令和5年度与党税制改正大綱が取りまとめられました。その主要なテーマとして、以下のものが挙げられます。
② スタートアップ・エコシステムの抜本的強化
③ エコカー減税などの見直し・延長
④ 空き家特例の延長
⑤ 富裕層への課税強化
⑥ 相続時精算課税制度についての見直し
⑦ 暗号資産の評価方法等の見直し
このうち例えばNISAについては、若年期から高齢期に至るまで継続的な資産形成を行えるよう、非課税保有期間を無期限化し、恒久的な措置とすることが予定されています。また、つみたてNISAの投資水準を拡大することに加えて(年間120万円)、新たに「成長投資枠」を創設することで(年間240万円)、全体の投資水準が現行の年間120万円から3倍となる年間360万円に拡大します。これらの改正により、日本のNISA(Nippon Individual Savings Account)のモデルとなった英国ISA(Individual Savings Account)を上回る規模(年間約335万円)が実現すると政府は説明しています。
一方で、投資枠の上限引上げには慎重論もありました。上限が上がりすぎると、結局、誰のためのNISAなのかという問題になります。富裕層をより富裕にするためのしくみであれば、税制の基本理念の一つである公平性にかなわないためです。この点について、高所得者層に対する際限ない優遇とならないよう、年間投資上限額とは別に、生涯にわたる非課税限度額が現行の800万円から1,800万円に拡大された形で設定されました。
政府は「貯蓄から投資へ」の流れを推進したい考えです。NISA制度の拡充・恒久化について、幅広い層が資本市場に参加することを通じて、成長の果実を享受できる環境を整備することが重要であると政府は説明しています。
インボイス制度や電子帳簿保存法はどうなる?
事業者にとって最も気になるのは、インボイス制度と電子帳簿保存法に関するトピックではないでしょうか?
インボイス制度や電子帳簿保存法については、制度として予定どおり実施されますが、制度への移行にあたって混乱が生じないように、負担軽減措置や緩和措置が設けられる予定です。
まず、インボイス制度に関する負担軽減措置は、主に以下の2つです。
② 中小事業者の事務負担軽減(少額特例)
①は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であるインボイス発行事業者を対象として消費税の税負担を軽減する3年間の経過措置です。これまで免税事業者だった人がインボイス発行事業者になった場合、消費税の納税額を売上(課税標準額)に対する消費税額の2割に軽減できます。これは、納税額の激変緩和を図ることが目的とされています。
②は、現場の実務に配慮し、インボイス制度の定着を図ることを目的とした6年間の経過措置です。基準期間における課税売上高が1億円以下などの要件を満たした中小事業者を対象に、1万円未満の課税仕入(経費など)について、帳簿への一定の事項の記載のみで「仕入税額控除」が認められます。
加えて、振込手数料相当額を値引きとして処理する場合などの事務負担を軽減する観点から、少額(税込1万円未満)の返還インボイスの交付義務が免除されます。
次に、電子帳簿保存法については、以下のいずれかの場合において、税務調査などの際にデータのダウンロードの求めに応じることができるときは、「検索要件」を不要とする緩和措置が設けられる予定です。
- 判定期間の売上高が5,000万以下の場合
- 電子取引の記録の出力書面の提示または提出の求めに応じることができる場合(整然とした形式及び明瞭な状態で出力され、取引年月日や取引先ごとに整理されているものに限る)
その他の注目ポイントは?
このような項目に加えて、税理士ではない者が税務相談を行った場合の命令制度の創設など、不正行為を助長する助言をする者に対する措置も検討されています。いわゆる「脱税コンサル」と呼ばれているように、SNSなどで不適切な情報が氾濫している点などが懸念されているのでしょう。
また、複式簿記による記帳をさらに普及させ、個人事業者の記帳水準向上に向けた検討を行うとしています。この背景として、クラウド会計ソフトなどの普及により小規模事業者であっても手間や費用をかけずに記帳できる環境が整ってきている点が説明されています。しかし、裏を返せば、納税者にとっては記帳の中身が問われることになると考えられます。「クラウド会計ソフトを利用すれば、簿記の知識がなくても簡単に青色申告ができる」わけではない点には、十分に注意すべきでしょう。
さらに、防衛力の強化などに係る安定財源の確保について、今後も議論が行われていく予定です。
政府税制調査会資料から読み解く今後の潮流
今般、少子高齢化・人口減少の進展の速度は一層加速しており、社会的な課題は山積しているといえます。また、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行の影響もあり、人々の生活様式の変容、働き方の多様化など、日常生活も大きく変わってきています。
今後の方向性を占ううえで筆者が注目するのは、政府税制調査会における有識者の見解です。たとえ今回の改正案に盛り込まれなかったとしても、上記のような経済社会構造の変化への対応は、重要な課題として位置付けられるためです。
第16回の政府税制調査会の資料では、「税に関する総論的議論」として、これまでの有識者ヒアリングの内容がまとめられています。そこでは、「デジタル化が社会に与える影響」やそれに伴う「働き方の変化」が指摘されています。ここで、「働き方の変化」に焦点をあて、第10回の政府税制調査会の有識者ヒアリング資料を参照するならば、以下のキーワードを挙げることができるでしょう。
- 「雇用から自営へ」
- 「企業から個人へ」
- 「営利から非営利へ」
この点、社会的課題の解決のためには、NPO法人などの非営利組織体に加えて、フリーランスやスモールビジネスなどのフットワークの良いスタイルを選択した人達の活躍が期待されると考えられます。また、シェアリング・エコノミーの活用も重要であると考えられますが、これらの新しい経済事象に関しては税制が対応しきれていない部分があるという点についても、今回公表された与党税制改正大綱の中で示唆されています。
税制のみですべての課題に対応できるわけではありませんが、今後の方向性を占ううえでは、このような潮流をおさえておくことが重要だといえるでしょう。
おわりに
本年も社会とお金に関すること、そして、フリーランス・クリエイターやスモールビジネスをとりまく税のしくみを、やさしく解説していくことを心がけたいと思います。
改めまして、本年も筆者コラムをご笑覧いただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
ABOUT執筆者紹介
税理士 武田紀仁
クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。
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