14 August

費用負担は?受診後の対応は?雇入時・定期健康診断実施時のポイントを再確認

掲載日:2023年08月14日   
社会保険ワンポイントコラム

企業は従業員の健康確保のため、健康診断を従業員へ受診させることが義務付けられています。受診させるべき健康診断の種類や対象者選定、健康診断実施後の対応等、正しく運用できているでしょうか。

そこで今回は、「雇入時の健康診断」と「定期健康診断」実施時の基本のポイントを紹介します。

雇入時健康診断と定期健康診断

今回取り上げるのは「雇入時の健康診断」と「定期健康診断」ですが、実は、法律で義務付けられているものには下記のとおりの種類があります。まずは自社でどれが該当するかをチェックしておきましょう。

雇入時の健康診断

従業員を雇入れるときに義務付けられている健康診断です。時期は明確に定められていませんが、雇入れの直前あるいは直後とされています。なお、雇入れ3か月以内のものであれば、前職や自身で受けた健康診断の結果でも代用可能です。ただし、各健康診断には必須項目が定められています。雇入時健康診断の項目が網羅されているかの確認は必ず行いましょう。

定期健康診断

年に1回の実施が義務付けられている健康診断です。法律上は「1年以内ごとに1回」と定められているだけですので、具体的な受診時期は企業に委ねられています。とはいえ、「定期的な受診」の観点から、毎年決まった時期を設定することを推奨します。

健康診断を受けさせる対象者

雇入時と定期健康診断の対象者は、「常時使用する労働者」です。短時間労働者は、下記の条件をどちらも満たす場合に「常時使用する労働者」とみなされます。

① 「期間の定めのない契約」、「1年以上の有期契約」、「契約更新により1年以上使用されている」のいずれかに該当する
② 1週間の労働時間数が、通常の労働者の週所定労働時間数の4分の3以上である

なお、企業には対象者に健康診断を受けさせる義務がありますが、対象労働者にも健康診断を受ける義務があります(労働安全衛生法第66条の5)。労働に関する多くの法律では、労働者の義務を定めたものは多くありませんが、そのうちの1つが健康診断の受診です。「健康診断を受けたくない」と言う労働者の話を耳にすることがありますが、労働者にとっても義務付けられていることは、労使どちらも知っておきたいポイントです。

健康診断の費用と受診時間の扱い

健康診断を受けさせることは企業に義務付けられているため、費用は企業が負担すべきであるとされています。ただし、法律で定められている必須項目以外の項目は、希望により従業員の負担としている企業も多くあります。健康診断は保険適用外のため安くはありませんが、加入している健康保険によっては補助を受けられる場合もありますので、ぜひ確認してみてください。

また、雇入時・定期健康診断を受けさせる時間を労働時間とみなす必要があるのかも議論になりやすいです。労働局の通達では「当然には事業者の負担すべきものではなく労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可決な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい」とされています。労働者の受診を促すためにも労働時間とみなして賃金支払いをするのが一般的です。

ただし、健康診断の結果、精密検査が必要になった場合等の検査費用や賃金は、企業が負担する必要はありません。あくまで一次的な健康診断のみ、と理解していただくのが良いでしょう。

健康診断受診後の対応

実は、健康診断は受けさせるだけでは足りません。受診後には下記の対応が必要です。

健康診断の結果の記録

健康診断個人票を作成し、各健康診断で定められた期間(一般健康診断では5年間)、保存する必要があります。書式は厚生労働省が雛形を公開していますし、必要な項目が記載されていれば書式は問いません。また、健診を受けた機関によっては、会社控えが健康診断個人票として利用できる場合もありますので、検診を受ける機関に確認することを推奨します。

健康診断の結果についての医師等からの意見聴取と措置、保健指導

健診結果に異常の所見がある従業員について、健康保持に必要な措置について医師の意見を聞かなければなりません。その結果、必要であると認めるときには、該当従業員の作業の転換、労働時間短縮等の措置を講じる必要があります。
また、異常所見まではいかずとも、健康保持が特に必要な労働者に対しては、医師や保健師による保健指導を行うよう努めることも求められています。

健康診断の結果の従業員への通知

健康診断結果は、従業員に通知しなければなりません。会社宛てに結果が届くこともありますので、忘れずに本人に結果を通知しましょう。

定期健康診断結果の所轄労働基準監督署長への報告

常時50人以上の労働者を使用する事業者は、健康診断結果報告書を労働基準監督署へ提出しなければなりません。報告書の雛形は厚生労働省のホームページに掲載されており、電子申請の利用も可能です。

いかがでしたでしょうか。健康診断は雇入時の度に、ないしは毎年実施されるものですので、受診前後の作業リストや年間スケジュール等を作成しておき、実務上スムーズな運用ができるように準備しておきましょう。

ABOUT執筆者紹介

内川真彩美

いろどり社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士 / 両立支援コーディネーター

成蹊大学法学部卒業。大学在学中は、外国人やパートタイマーの労働問題を研究し、卒業以降も、誰もが生き生きと働ける仕組みへの関心を持ち続ける。大学卒業後は約8年半、IT企業にてシステムエンジニアとしてシステム開発に従事。その中で、「自分らしく働くこと」について改めて深く考えさせられ、「働き方」のプロである社会保険労務士を目指し、今に至る。前職での経験を活かし、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方のための制度設計はもちろん、誰もが個性を発揮できるような組織作りにも積極的に取り組んでいる。

 
原稿提供元株式会社ブレインコンサルティングオフィス「かいけつ!人事労務」

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