フリーランス・クリエイターが立替払いした交通費等は源泉徴収が必要?
税務ニュース
前回は、報酬をもらったクリエイター(個人事業主)が確定申告を行う際の源泉所得税の把握方法について解説しました。今回は、会社等がクリエイターに報酬を支払った際の源泉所得税の取扱いについて解説します。
特に、デザイン料等とあわせて交通費や資料代などを支払った場合の源泉徴収の有無について取り上げます。
源泉徴収が必要な支払い
会社等がフリーランス・クリエイター(個人事業主)に報酬を支払う際、気をつけたいのが源泉所得税の取扱い。支払う報酬から源泉徴収(源泉所得税の天引き)が必要です。
源泉徴収が必要な報酬として、たとえば原稿料、イラスト制作料、デザイン料、講演料、著作権使用料などがあり、クリエイティブ領域における報酬の多くが該当します。
源泉所得税の税率は基本的には10.21%です。ただし、同一人に対して1回あたりの支払額が100万円を超える場合は、その100万円を超える部分については20.42%になります。たとえば支払額が150万円の場合は、20万4,200円が源泉所得税です(50万円 × 20.42% + 100万円 × 10.21%)。
クリエイターに支払う交通費等は源泉徴収が必要
フリーランス・クリエイターへの支払いには、デザイン料等の報酬本体のほかにクリエイターが立替払いした交通費や資料代などが含まれていることがあります。このような交通費等も源泉徴収の対象となるのでしょうか?
実は、請求書において「旅費」「車代」「謝金」「取材費」「研究費」などの名目で支払われるものであっても、源泉徴収の対象となります。たとえば、以下のようなものは支払いの際に源泉所得税の天引きが必要です。
- 講演料のほかに講師に支払う交通費
- 出演料のほかに芸能人に支払う宿泊費
- 原稿料のほかに資料収集の費用に充てるための取材費
- 講師料のほかにカルチャーセンター等の実技指導の講師に対して支払う材料費等
このように、クリエイターに依頼した業務の報酬と付随的に生じる交通費等をまとめて支払う場合には、原則として、交通費等も含めた報酬総額から源泉徴収を行うことになります。実質的にデザイン料等の報酬本体と同じような性質があると考えられるためです。
源泉徴収が不要な例外的ケース
例外として、報酬を支払う側(会社等)が交通費等を直接交通機関等へ支払った場合は、その交通費等について源泉徴収を行う必要はありません。また、報酬を支払う側(会社等)が直接支払うケースと「同視できる」場合も同様です。
たとえば、A社がフリーランス・クリエイターのBさんに報酬を支払うケースでは、以下のような場合に交通費等の付随費用の部分について源泉徴収が不要となります(デザイン料等の報酬本体部分については、もちろん源泉徴収が必要です)。
- A社が交通費等を直接交通機関等へ支払った場合
- Bさんが立替払いした交通費等について、A社宛ての領収書を発行してもらい、A社からデザイン料等とあわせて支払ってもらう場合
- A社が受講者から材料費等を預かり、区分経理したものをそのままBさんに支払ったことが明らかな場合
一方で、上記②のようにBさんが立替払いをした場合であっても、Bさん宛ての領収書で精算する場合には、立替払いした交通費等をデザイン料等の報酬に含めた報酬総額から源泉徴収が必要です。宛名がA社になっていない以上、A社が直接支払っているケースと「同視できる」とはいえないためです。
ポイントは領収書の宛名
このように、クリエイターが交通費等を立替払いする際に、報酬の支払い側(会社等)宛ての領収書を交付してもらうことがポイントです。これにより交通費等の源泉徴収漏れを指摘されるリスクも抑えることができます。
もちろん、この場合にBさんが立替払いした交通費等はA社の費用となるため、Bさんの必要経費にはなりません。また、インボイス制度における消費税の計算にも影響してくる可能性もあります。
そのため、会社等がフリーランス・クリエイターに依頼する際、交通費等の付随的な費用の立替払いを会社宛ての領収書を通じて行うときは、事前にクリエイターが自身の必要経費として処理しないよう説明を行うとともに、会社宛ての領収書(適格請求書)をクリエイターから回収し、保存しておくことが重要です。
ABOUT執筆者紹介
税理士 武田紀仁
クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。