「投げ銭」はファンからの贈り物?「投げ銭」に関する税金の取扱いを解説。
税務ニュース
ネット配信者が多額の「投げ銭」を得るケースが急増する一方で、「投げ銭」を含む動画配信収入を申告しない配信者に税務調査が入るケースが相次いでいます。YouTubeのスーパーチャット(スパチャ)に代表されるオンラインの「投げ銭」を得た場合には、税金の種類などを状況・目的により判断しますが、基本的には申告が必要です。
「投げ銭」とは?
コロナ禍の影響でライブ活動ができないアーティストなどが、ネット上でライブ配信を行い、多額のオンライン「投げ銭」を得るケースが増えています。
オンライン「投げ銭」とは、映像・音楽・記事・イラストなど、アーティストやクリエイターがネット上で公開しているコンテンツに対して、視聴者やファンがオンラインで送金することをいいます。「投げ銭」というと、街頭やステージで活動するアーティストに対する「おひねり」をイメージする人も多いかもしれませんが、ネット上で活動するYouTuberやイラストレーターなどに対しても行われています。
また、「投げ銭」は金銭だけでなく、プラットフォームサービス内で流通する独自のポイントやアイテムで行われる場合もあります。暗号資産に関する業界では、暗号資産を「投げ銭」に活用する取組みも進められているようです。
アーティストやクリエイターを支える「投げ銭」
音楽、演劇、映像などのエンターテインメント業界では、ファンの存在が不可欠です。路上ライブをするミュージシャン、道ゆく人々にパフォーマンスを披露する大道芸人、動画配信をするYouTuberなど、金銭的な面で彼らを支えているのがファンからの「投げ銭」です。
また、相手に金銭などを贈ることを英語で「ギフティング(gifting)」といい、アーティストやクリエイターに対する応援や称賛としての「投げ銭」も「ギフティング」に含まれています。「投げ銭」には、パフォーマンスの対価としてだけでなく、「応援したい」という気持ちもこめられているのです。
「投げ銭」にはどんな税金がかかる?
「投げ銭」は事業所得または雑所得が基本
アーティストやクリエイターを支える「投げ銭」には、どのような税金がかかるのでしょうか?
「投げ銭」を得た場合には、原則として申告が必要です。しかし、所得区分や税金の種類については、その状況・目的により判断しなければなりません。
基本的には、事業に関連する活動で「投げ銭」を得たら「事業所得」、そうでなければ「雑所得」に該当します。
例えば、YouTuberが動画配信により継続的に「投げ銭」を得ている場合には,事業所得として申告が必要です。一方で、普段はサラリーマンなどの給料で生計を立てている人が、副業アーティスト・副業クリエイターとして「投げ銭」を得た場合や、趣味の延長で行った動画配信により「投げ銭」を得た場合は、雑所得に該当します。
雑所得に該当する場合、給与所得以外の所得合計が20万円以下であれば、基本的に確定申告は不要です。しかし、年末調整を行わない人や、医療費控除などの関係で確定申告をする人は、この20万円以下の部分もきちんと申告書に記載したうえで、確定申告をしなければなりません。また、所得税の確定申告が不要な場合でも、別途、住民税の申告が必要です。
「投げ銭」は贈与に該当する?
「投げ銭」は応援してくれるファンからの贈り物(プレゼント)であるため、贈与として申告したいと考える人もいるのではないでしょうか?贈与税は年間110万円まで税金がかからないためです。
しかし、アーティストやクリエイターに対する「投げ銭」を贈与として申告することは現実的ではないと考えられます。なぜなら、贈与は「自分の財産を『無償』で相手にあげること」で、「対価性がない」「身内から」といったものが典型例として想定されているためです。これに加えて、贈与税には「相続税を補完する」という性質があることも理由として挙げられます。
一般的に「投げ銭」は「チップ」と同じだと考えられます。そのため、贈与には当てはまらず、基本的に所得税の対象になります。確かに、アーティストやクリエイターに対する「投げ銭」には「応援したい」という動機があり、贈り物としての側面があることは否定できません。しかし、「投げ銭」は、サービスを受けたことに対する心づけとして相手に渡す「チップ」と同様に、基本的にはパフォーマンスや配信などの対価として渡されるものです。日本ではあまり馴染みがありませんが、外国で一般的なチップ収入は、所得税の対象となっています。
「投げ銭」の税金は状況・目的により判断
本コラムでは、アーティストやクリエイターを支える「投げ銭」について、その税金の取扱いについて解説しました。「投げ銭」を得た場合、その状況・目的により、所得区分や税金の種類を判断します。
副業で得た「投げ銭」を申告しないまま放置していた場合などは要注意です。本来申告すべきものを申告していないと、税務調査が入ってペナルティが課される可能性があります。「確定申告が必要だとは思っていなかった」「贈与になると思っていた」など「知らなかった」では済まされないのが税金のルールです。悩んだときは専門家や税務署に相談することをおすすめします。
ABOUT執筆者紹介
税理士 武田紀仁
クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。
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