27 September

扶養の範囲内で稼働したい配達員、103万円の壁はあるのか?

掲載日:2022年09月27日   
税務ニュース

はじめに

配達員をされている方には、親や配偶者などの扶養から外れない様に調整しつつ稼働されているケースがあります。パートやアルバイトであれば、いわゆる「103万円の壁」という言葉が浸透しているお陰で、103万円まで稼いで良いと知っている訳ですが、配達員の場合、「103万円とはどの金額なのか」「そもそも配達員でも103万円は関係あるのか」という疑問が生じてきます。このため、「扶養から外れたくないが配達報酬はいくらまで上げて良いのか」という相談を受けることがあります。

そこで、本稿では、これらの疑問を解決し、扶養の範囲内とはいくらの売上高なのかを探って行きたいと思います。なお、説明を複雑にしないため、配達員は70歳未満で配達報酬以外の収入はないものとして進めて行きます。

そもそも103万円の壁って何?

まず、103万円の壁の成り立ちを説明します。

所得税に関して扶養に入るということは、生計をメインで支える親や配偶者などが扶養控除や配偶者控除の適用を受けること意味します。そして、これら適用を受けるには、扶養される側の所得が48万円以下でなければなりません。

ここで、所得は「収入-必要経費」で計算されますので、パート・アルバイト(すなわち給与)により所得48万円となる計算は、次の通りです。

給与収入103万円-給与所得控除55万円=給与所得48万円

*給与所得控除は、給与についての必要経費に相当します。

従って、「パートやアルバイトで103万円より稼ぐと扶養から外れて損をする」と言われてきました。事実、給与収入が103万円から1万円増加した場合、世帯全体では少なくとも5万円以上の税負担が発生します。

配達員の壁はどこにある?

結論から言うと、原則「人による」です。上で説明したように扶養に入る条件は、扶養される側の「収入―必要経費」が48万円以下です。必要経費の金額が人それぞれなので、配達報酬の上限も原則として人によることになります。とは言え、原則なので重要な特例があるので、次にそちらを説明します。

例外:家内労働者等の必要経費の特例(措法27)

扶養の範囲内で稼働する場合、稼働の規模が限定的なので、必要経費があまり計上されないケースはよくあります。この様なケースでは、「家内労働者等の必要経費の特例」を利用すると有利になります。この特例によると、実際にかかった経費の額が55万円未満のときであっても、所得金額の計算上必要経費が55万円まで認められます。名称から連想すると配達員に適用されるのか不安になりますが、配達員でも適用を受けられます。加えて、複数社にまたがって稼働している場合でも適用されます。

ポイントは、この55万円という金額です。これは、先に登場した給与所得控除55万円と同額です。したがって、実際に支出した必要経費が55万円未満の水準では、売上103万円以下が扶養の範囲内といえます。

一旦まとめ、配偶者控除・扶養控除

以上のことから、配偶者控除および扶養控除の適用を維持できる配達報酬は、

「とりあえず売上高103万円が上限と考えて良い。
必要経費が55万円を超えたら、『必要経費+48万円』が上限。」

ということになります。ただし、配偶者控除については別の規定があるので、もう少し稼働することが出来ます。次はそちらを説明します。

配偶者特別控除~もっと稼いで良い配偶者~

扶養控除は上限を超えるとスッパリ無くなってしまいますが、配偶者控除の場合には、上限を超えても配偶者“特別”控除と名前を変えて段階的に控除額が減少して行くことになります。両者の具体的な控除額などは表1、表2の通りです。

表1:配偶者控除

配偶者の合計所得金額 配偶者控除額
900万円以下 38万円
900万円超950万円以下 26万円
950万円超1,000万円以下 13万円

表2:配偶者特別控除

  配偶者の合計所得金額
900万円以下 900万円超 950万円超
950万円以下 1,000万円以下
配達員の
合計所得
金額
48万円超 95万円以下 38万円 26万円 13万円
95万円超 100万円以下 36万円 24万円 12万円
100万円超 105万円以下 31万円 21万円 11万円
105万円超 110万円以下 26万円 18万円 9万円
110万円超 115万円以下 21万円 14万円 7万円
115万円超 120万円以下 16万円 11万円 6万円
120万円超 125万円以下 11万円 8万円 4万円
125万円超 130万円以下 6万円 4万円 2万円
130万円超 133万円以下 3万円 2万円 1万円

注目して頂きたいのは、表2の配偶者の所得が900万円以下で、配達員の所得が95万円以下のケースです。実は、この区分においては、配偶者控除と配偶者特別控除の控除額は変わりません。しかし、配偶者特別控除の領域に入ると、それまでの様に5万円売り上げると5万円収入が増えると考える訳にはいかなくなります。配達員に、所得税が課されるためです。加えて、配偶者において控除額が減少する領域では、配偶者の税負担による収入の減少も影響します。そうしますと、税金により目減りする金額によっては、稼働の苦労が釣り合わないというケースも考えられます。

そこで、必要経費を55万円とし配偶者の所得税率を20%とした場合の、売上高と税金を考慮した収入を表3に示しました。表3の一番右は、売上が5万円増加した場合に、税金を考慮すると収入がいくら増加したかを示しています。

表3:売上高と税引後の収入

配達員合計所得 売上高 配達員税負担 配偶者税負担 税引後の収入 収入増加額
48万円 103万円 0 0 1,030,000 50,000
95万円 150万円 -70,994 0 1,429,007 42,448
100万円 155万円 -78,546 -4,084 1,467,370 38,364
105万円 160万円 -86,009 -16,294 1,497,608 30,238
110万円 165万円 -93,651 -31,504 1,524,845 27,238
115万円 170万円 -101,204 -46,714 1,552,083 27,238
120万円 175万円 -108,756 -61,924 1,579,320 27,238
125万円 180万円 -116,309 -77,134 1,606,558 27,238
130万円 185万円 -123,861 -92,344 1,633,795 27,238

気をつけるべきは、いわゆる「130万円の壁」です。配偶者がサラリーマンで、会社の社会保険に加入している場合、社会保険上の扶養の条件に「年間の収入見込額が130万円未満」というものがあります。したがい、これを超過すると、配達員は国民健康保険と国民年金に加入することになり、収入が大幅に減少します。なお、協会けんぽでは事業による収入から必要経費を控除して判断して良いことになっています。

以上のことから、配偶者特別控除については、130万円の壁に注意しつつ、目標とする収入額や、稼働可能な時間、税引後の手残りの効率などからご自身で判断すれば良いといえます。

まとめ

親など配偶者以外の扶養の範囲内で稼働
「とりあえず売上に103万円の壁があると考えて良い。」

配偶者の扶養の範囲内で稼働
「130万円の壁や税負担などを考慮しながら自身で適切な稼働水準を探る。」

ABOUT執筆者紹介

税理士 柳下治人

柳下治人税理士事務所
X(旧Twitter)

1978年埼玉県生まれ
明治学院大学経済学部 卒業
日本大学大学院経済学研究科修士課程 修了
税理士事務所勤務を経て柳下治人税理士事務所を設立

中小企業の経理、税務、経営のサポートやセミナー講師を手がけている。また、外国籍経営者やギグワーカーとも深く関わりを持ち、YouTubeにて「yagishitax税理士チャンネル」を運営し、UberEatsなどの配達員に必要な経理、申告のHowTo動画など税金にまつわる情報を公開している。

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