職場の離職率低下につながる効果が!治療と仕事の両立支援について
社会保険ワンポイントコラム
治療と仕事の両立についての社会的背景
近年、医療の進歩により、がんのように以前は不治とされていた病気でも生存率が向上し、長期にわたって仕事との両立が可能になりつつあります。病気になったらすぐに離職しなければならないという状況から、治療を行いながら仕事を続けられる社会的環境へと変化しています。
しかし、疾病や障害を抱える従業員を支援するための社内体制が整っていない場合、従業員は仕事を続けたくても離職を選択せざるを得ません。これは企業にとっても人材の大きな損失といえるでしょう。
両立支援の内容
治療と仕事の両立支援の内容ですが、具体的には次のような柔軟な働き方ができる制度を設けた上で、私傷病の治療や療養を目的とした利用ができるようにします。
- 時差出勤制度
- 短時間勤務制度
- 時間単位の休暇制度・半日休暇制度
- フレックスタイム制度
- 在宅勤務(テレワーク)制度
- 休職制度
両立支援に取り組むことの効果
労働政策研究・研修機構(JILPT)の「治療と仕事の両立に関する実態調査(企業調査)2024年3月」によれば、上記のような制度を設け、私傷病の治療や療養目的での利用を可能としたことの効果として、次のような効果が報告されています。
- 制度利用に対して職場で協力する雰囲気ができた:23.3%
- 職場に多様性を受容する意識が浸透した:20.3%
- 社員全体の企業に対する信頼感が上昇した:17.5%
- 疾患を理由とする離職率が低下した: 15.8%
- 日常的に事業継続体制が構築された:10.2%
- 社員全体の離職率が低下した: 8.6%
実際に疾患を抱えている社員の離職が低下するとともに、社員全体の離職率も低下する効果があることが分かります。これは、職場で協力する雰囲気ができること、多様性を受容する意識向上などによって企業に対する信頼感が上昇した結果ともいえます。
両立支援を行う上でのポイント
(1)経営トップがやる気を示す
私の経験上、疾病を抱えた従業員が現れた場合、社長も「それは大変だ。会社としても支援していこう」と心情的に初めは動くことが多いです。しかし、実際に何か施策を行う場面になると、時間的・金銭的コストから徐々に後ろ向きになることも少なくありません。そのため、前述した制度構築や利用を行うに当たっては、経営トップが「我が社では治療と仕事の両立支援を行う」と宣言して下さい。それによって、職場内でも両立支援に対する意識が高まります。担当者は、経営トップを巻き込むことを意識するようにしましょう。
(2)ガイドラインを活用する
厚生労働省は「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を作成しています。病気の治療は、医療機関や主治医が行います。そのため、企業が両立支援を進めるにあたっては、医療機関や主治医との連携も大切になってきます。ガイドラインには、主治医との情報共有のための様式も紹介されており、両立支援全体の留意事項もまとめられていますので、大いに活用しましょう。
(3)「治療と仕事の両立支援ナビ」を利用する
厚生労働省が運営しているポータルサイトです。両立支援の取り組みに対する助成金の情報や、前述のガイドラインを含め各種情報がまとまっています。相談機関の連絡先も紹介されています。私は、産業医や産業保健スタッフがいない中小企業等で、経営者や担当者がひとりで悩まれている事例を多く見ています。相談機関に頼ることも大切です。
まとめ
少子高齢化が進む中、新規採用もままならない人材不足に悩む会社は、既存社員の高齢化も心配されるところです。高齢になってくると疾病リスクが高くなるのは当然です。疾病を抱え治療をしながら働く労働者が今後ますます増えてくることを見据え、治療と仕事の両立ができる職場づくりを行うことはますます大切になってきます。
ABOUT執筆者紹介
三谷社会保険労務士事務所 三谷文夫
三谷社会保険労務士事務所
大学卒業後、旅館や書店等で接客や営業の仕事に従事。前職の製造業では、総務担当者として化学工場での労務管理を担う。2013年に社労士事務所開業。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重視したコンサルティングと、自身の総務経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚い。就業規則の作成、人事評価制度の構築が得意。商工会議所、自治体、PTA等にて研修や講演多数。大学の非常勤講師としても労働法の講義を担当する。趣味は、喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。