01 December

管理職に昇格したら残業代不要?勘違いされやすい「管理監督者」を再確認

掲載日:2022年12月01日   
社会保険ワンポイントコラム

度々、「管理職には残業代が出ない」という言葉を耳にします。しかし、「管理職」とは誰のことを指すか正しく理解できているでしょうか。管理監督者の定義を勘違いしている会社も多くあり、その勘違いは未払残業代の観点からも実は大きなリスクです。

そろそろ来期の昇級・昇格を検討する時期を迎える会社もあることと思います。この機に「管理監督者」について再確認しましょう。

法律上の「管理監督者」とは誰か

労働基準法では、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」は同法の一部の適用が除外されています。これに該当する労働者を一般的に「管理監督者」と呼んでいます。「管理監督者」という単語から、「管理職」のことを指すと考える方も多いですが、実はそれは危険な間違いです。

設けられている役職の種類や各役職に与えられる権限は、会社によって当然異なります。そのため、管理監督者は役職名とは関係なく、実際にどのような役割・待遇だったかで判断されます。現在では、これまでの判例や行政通達などを通じて下記のような内容を総合的に見て判断するとされています。

  1. 経営上の判断事項において、経営者と一体的な立場にあること
  2. 労働時間や休日の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容であること
  3. 労働時間に自由裁量があり、通常の就業時間に厳格に拘束されていないこと
  4. 基本給や役付手当など、その地位にふさわしい待遇がなされていること

これを見ておわかりいただけると思いますが、数値で判断できるような明確な基準ではないため、管理監督者かどうかを誰が見ても白黒はっきりさせにくい点が難しいところでもあります。

そもそも、管理監督者の適用除外の規定ができた理由は、「経営者と同じような立場の労働者は経営上労働時間や休日の規制を超えて活動する必要があるから」とされています。そのため、裁判例では上記①が重視される傾向にあります。「部長」だが重要事項の決定権を持っておらず毎回上司に判断を仰ぐ、「課長」だが上司や会社の指示を部下に伝達するだけ、のようなケースでは、上記①を満たしているとはいえず、例え部下が何名もいたとしても労働基準法の「管理監督者」とは認められないでしょう。過去に「名ばかり管理職」という用語が話題になったことを記憶している方もいると思いますが、過去の裁判例では「店長」でも管理監督者ではないと判断されたケースもあります。

管理監督者は何の適用が除外されるのか

これまで説明した条件を満たし「管理監督者」と判断された労働者には、労働基準法の下記内容の適用が除外されます。

  • 法定労働時間(第32条)
  • 非常災害時の時間外、休日労働(第33条)
  • 休憩(第34条)
  • 休日(第35条)
  • 時間外、休日労働(第36条)
  • 時間外、休日労働の割増賃金(第37条の一部)
  • 年少者の労働時間、休日(第60条)
  • 妊産婦の労働時間、休日(第66条)

「管理監督者は残業代が不要になる」との部分だけが取り上げられることが多いですが、実際にはこれだけの内容が適用除外になるのです。逆を言えば、上記にないものは管理監督者でも適用されます。例えば、深夜業に関する部分は適用除外とされませんので、労働基準法上の深夜時間帯(22時~5時)に勤務した場合には深夜労働の割増賃金支払いが必要です。年次有給休暇も通常の労働者と同様に付与・取得させなければなりませんので、年5日の取得義務も適用されます。

誤った運用によるリスクとは

冒頭で、管理職だからと労働基準法上の管理監督者として扱うのは「危険な間違い」と説明しました。管理監督者として扱っていた労働者が実は管理監督者の要件を満たしていなかった場合、本来なら支払うべきだった時間外・休日労働の割増賃金を清算する必要が出てきます。この「未払残業代」を請求する権利の消滅時効はこれまで2年間でしたが、2020年4月の民法改正により3年間へ延長されました。

今後は、その他の債権の消滅時効に合わせ5年間へ延長することも検討されています。つまり、労働基準法上の管理監督者の要件を満たさない労働者を管理監督者と扱っている場合、数年分の未払残業代請求がされる可能性があり、消滅時効が延長されていくに伴いその金額も膨れ上がってきます。これは会社が抱えるリスクとしては非常に大きなものです。

現在は労働者も各所で様々な情報を取得できるため、消滅時効延長と相まって未払残業代請求も増えていくと想定されています。2023年4月からは、月60時間を超える法定労働時間超の割増賃金率が全事業場で5割へと引き上げられ、この問題を解消しないままだと会社が抱えるリスクは更に大きくなります。まずは自社で管理監督者として扱っている労働者の実態を見直してみましょう。

ABOUT執筆者紹介

内川真彩美

いろどり社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士 / 両立支援コーディネーター

成蹊大学法学部卒業。大学在学中は、外国人やパートタイマーの労働問題を研究し、卒業以降も、誰もが生き生きと働ける仕組みへの関心を持ち続ける。大学卒業後は約8年半、IT企業にてシステムエンジニアとしてシステム開発に従事。その中で、「自分らしく働くこと」について改めて深く考えさせられ、「働き方」のプロである社会保険労務士を目指し、今に至る。前職での経験を活かし、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方のための制度設計はもちろん、誰もが個性を発揮できるような組織作りにも積極的に取り組んでいる。

原稿提供元株式会社ブレインコンサルティングオフィス「かいけつ!人事労務」

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