農家のための青色申告入門|農業所得用申告で節税・手続き・会計ソフト活用法
確定申告

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農業経営を安定して続けていくためには、作物の出来や市場価格だけに左右されない「数字に基づく経営管理」が重要です。日々の売上・経費・資産や負債の状況を把握し、収支のバランスを明確にすることで、次の作付けや投資判断がしやすくなります。そのための有効な仕組みが「青色申告」です。
本記事では、農業所得の青色申告の基礎から、手続き、必要な帳簿、会計ソフトを使った効率的な管理方法までわかりやすく解説します。
農業における青色申告とは?農家が知っておくべき基礎知識
農家が行う確定申告には「白色申告」と「青色申告」があります。中でも青色申告は、帳簿を正しくつけることを条件に、所得控除や損失の繰り越しといった大きな税制上のメリットが受けられる制度です。
農業は天候や市場価格など外部要因によって収入が変動しやすいため、こうした制度を活用して経営の安定性を高めることが重要です。ここでは、青色申告の仕組みと白色申告との違いについて整理します。
青色申告の概要
農業における青色申告は、日々の収支や資産・負債の状況を帳簿に記録し、その内容に基づいて確定申告を行う制度です。収量や市場価格が年ごとに変動しやすい農業では、お金の流れを正確に把握することが経営判断に直結します。
さらに青色申告には、税制上の優遇措置が認められています。複式簿記による記帳と期限内の申告を行うことで、所得金額から最大65万円の青色申告特別控除を受けることができます。
また、家族が農作業に従事している場合には、支払う給与を必要経費として認めてもらえるため、所得が一人に偏りすぎることを防ぎ、課税負担の調整に役立ちます。
加えて、災害や収穫量の低下、価格下落などで赤字が生じた際には、その損失を翌年以降の所得から差し引くことができるため、経営が不安定になりやすい農業においてリスクの軽減につながります。
一方で白色申告は、こうした控除や損失繰越といった優遇措置がほとんどありません。帳簿の作成自体は白色申告でも義務化されているため、「白色の方が手続きが楽」という状況はすでに無くなっており、実務の手間に大きな差はありません。しかし、税金面で享受できるメリットには明確な違いがあるため、長期的に農業経営を続けていくのであれば、青色申告を選択することが有利といえます。
青色申告については、こちらの記事でも詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
農業所得とは
農業所得とは、農産物や畜産物の販売によって得られた収入から、種苗費、肥料代、飼料代、農機具の減価償却費、燃料代などの必要経費を差し引いた金額を指します。税法上は給与所得や不動産所得とは異なり、「事業所得」として扱われる点が特徴です。農家の方は、農業によって得た収入を給与とは別に計算し、収支を帳簿に記録したうえで確定申告を行う必要があります。
農業所得で青色申告を行うメリット
ここでは、農家の方が青色申告を選択することで得られる主な利点について解説します。
節税効果がある
青色申告を行う最大のメリットは、「青色申告特別控除」による節税効果が得られることです。農業所得は事業所得として扱われるため、帳簿を正確に記録し、貸借対照表や損益計算書を作成して確定申告書に添付することで、所得から最大55万円の控除を受けることができます。
さらに、仕訳帳や総勘定元帳を「優良な電子帳簿」の要件を満たして保存し、e-Taxで電子申告を行った場合は、この控除額が最大65万円まで拡大されます。一方で、簡易な帳簿付けの場合であっても、一定要件を満たせば最大10万円の控除が適用されるため、経営規模や記帳環境に応じて節税効果を得ることが可能です。
家族の給与を経費にできる
青色申告では、家族に手伝ってもらっている場合、その労働に応じた給与を必要経費として計上できる点も大きなメリットです。青色申告者と同一生計で暮らし、年末時点で15歳以上の農作業や販売など事業に専念している家族(配偶者や親族)に支払った給与は、「青色事業専従者給与」として扱われ、事業の経費に算入できます。
これにより、所得を世帯内で分散でき、結果として課税所得を抑えやすくなります。ただし、給与額は労働内容や日数、事業規模、同業他社の給与水準などに照らして「適正な範囲」であることが求められます。
また、この制度を利用するためには、給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した人や新たに専従者がいることとなった人は、その開業の日や専従者がいることとなった日から2月以内)に「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署へ提出する必要があります。なお毎年提出する必要はなく、届け出の内容に変更がない限り、翌年以降の再提出は不要です。
将来の税金を軽減できる
農業経営では、天候不順や価格下落などにより赤字(純損失)が生じる年があります。青色申告をしている場合、この赤字は無駄にならず、将来の税負担を減らすことに活用できます。その年に発生した純損失を翌年以降3年間、発生した赤字額を順次、各年の所得から差し引くことができる「純損失の繰り越し」が認められています。
これにより、次の年に収入が回復した場合でも、繰り越した損失を差し引くことで、支払う税金を抑えることができます。
また、前年も青色申告をしていた場合は、繰り越す代わりに「前年にさかのぼって差し引く」ことも可能です(純損失の繰戻し)。さらに、自然災害などにより事業用資産へ大きな損害が出た場合は、繰越期間が最長5年に延長されることもあります。
農業は収入が不安定になりやすいため、赤字となった年にこそ青色申告を行っておくことで、翌年以降の経営を支える税務上の備えとなる点が大きな利点です。
積み立てたお金を経費にできる
青色申告を行う農業者のうち、「認定農業者」または「認定新規就農者」に該当する場合は、「農業経営基盤強化準備金制度」を利用できます。
この制度は、経営所得安定対策などにより受け取った交付金を、将来の農地取得や農業機械更新などに備える目的で積み立てた場合に、その積立額を必要経費として計上できる仕組みです。
通常であれば設備投資に備えて蓄えた資金は経費に算入できません。しかし、この制度を活用することで、積み立ての段階で所得税・住民税の負担を抑えながら、計画的に経営基盤を強化できます。
さらに、積み立てた資金を5年以内に取り崩して農地や農業用施設、機械などを購入した場合には、圧縮記帳が認められ、取得に伴う課税負担をさらに軽減できます。
収入保険に加入できる
青色申告を行う農業者は、農産物の種類にかかわらず収入全体を対象とする「収入保険制度」に加入できます。収入保険は、台風や豪雨などの自然災害による収穫量の減少だけでなく、市場価格の下落や需要の変動など、農業者の努力では避けられない収入減少を幅広く補償する制度です。
加入には、青色申告による収入実績が保険期間の前年に1年分必要であり、青色申告承認申請書を提出した翌年から加入が可能となります。補償は、前年を基準とした「基準収入」の75%を下回った場合に、下回った額の9割を上限として受け取ることができ、青色申告の継続年数が増えるほど、補償対象となる基準収入の割合が段階的に引き上げられます。
兼業農家が青色申告すべきケース
兼業で農業に取り組む場合、「農業で得た収入がどの所得に区分されるか」によって申告方法が変わります。農業による収入は、税法上「農業所得=事業所得」として扱われるケースと、「雑所得」として扱われるケースがあります。
収入の得方や規模、労力のかけ方によって判断されるため、まずは自分の営農がどちらに該当するのかを理解することが大切です。
農業所得は“雑所得”か“事業所得”かで判断する
家庭菜園の延長で作物を育て、直売所や知人に少量販売しているようなケースでは、一般的に「雑所得」として扱われます。一方、年間を通じて作付け計画を立て、耕作面積が一定以上あり、販売収入を安定的に得ている場合は「事業所得」と判断されることがあります。この判断には、営利性、継続性、労働量、設備の有無、農業が生活の中で占める比重などを総合的に見て判断します。
副業として農業を行う多くの方は雑所得に該当しますが、規模が大きくなってきたり、徐々に農業収入の割合が高まってきた場合は、事業所得へ移行することが可能です。
確定申告が必要になるケースと不要なケース
本業が会社勤めで給与所得者の場合でも、副業の農業で得た所得が年間20万円を超える場合は、確定申告が必要になります。ここでの「20万円」は収入ではなく「所得(収入−経費)」です。一方、副業所得が20万円以下であれば所得税の申告は不要となる場合がありますが、住民税は20万円以下でも原則申告が必要です。
また、医療費控除やふるさと納税の還付申告を行う場合は、副業収入が少ない場合でもすべての所得を申告します。
青色申告を選択するべきタイミング
青色申告を行うことで最大65万円の青色申告特別控除や、家族へ支払う給与の経費算入、赤字の繰越控除など、節税につながる制度が利用できます。
兼業から始め、将来的に営農規模を広げたいと考えている場合には、早い段階で青色申告に切り替えることで、経理の整備と税負担の最適化を同時に進められます。逆に、趣味の範囲で小規模販売を続ける場合は、雑所得として申告し、事業規模が大きくなった段階で移行するのが適切です。
農家の青色申告の始め方
農業所得で青色申告を行うためには、はじめに税務署への申請と帳簿管理の準備が必要です。青色申告は「正規の記帳を行うこと」を前提とした制度であり、その手続きは難しそうに見えるものの、基本の流れを理解すれば特別に複雑なものではありません。ここでは、青色申告を始めるために必要となる申請手続きと帳簿の準備について解説します。
手続きと帳簿準備
青色申告を適用したい年の3月15日までに、納税地を所轄する税務署へ「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。その年の途中(1月16日以降)に新規に農業を開始した場合は、開業日から2か月以内に提出することで、その年から青色申告の適用を受けることができます。
申請後は、農業の収支を記録する帳簿を整えることが必要です。本来は貸借対照表と損益計算書が作成できるような正規の簿記による記帳が求められますが、農業者の場合にはもう少し簡易的な記帳でも認められています。具体的には、現金の出入りを記録する現金出納帳、取引先別の売掛・買掛を把握するための帳簿、農業にかかった費用をまとめる経費帳、機械・設備・車両などを記録する固定資産台帳を備えていることで、青色申告に必要な報告書類を作成できます。ただし簡易な記帳は青色申告特別控除の額が10万円に減額されてしまう点に留意しましょう。
また、帳簿や取引書類の保存期間にも注意が必要です。原則として帳簿は7年間保存する必要があり、請求書や納品書、見積書、送り状などの取引関連書類は5年間の保存が求められます。
青色申告承認申請書の書き方や注意点については、こちらの記事詳しく解説しています。申請書の提出がお済みで無い方はぜひ参考にしてみてください。
確定申告で必要な書類の準備
青色申告を行う際には、決められた書類を揃えて確定申告を行う必要があります。書類が不足していると控除が受けられない場合もあるため、事前に準備しておくことが重要です。農業所得の場合も、基本的な提出書類は他の事業所得者と変わりません。
確定申告で主に必要となる書類は次のとおりです。
- 確定申告書(第一表・第二表など)
- 青色申告決算書(農業所得の申告には「農業所得用」の書式を使用します)
- その他控除証明書など(必要に応じて)
- 本人確認書類(マイナンバーカードなど)
これらは税務署で紙の申告を行う場合にも、e-Taxで電子申告する場合にも必要になります。特に青色申告決算書は、日ごろの記帳がきちんと整理されているかどうかが反映される重要な書類です。申告直前にまとめて作るのではなく、日常的に帳簿を付けておくことで、スムーズに提出準備を整えることができます。
申告期間内に申告
青色申告は、定められた期間内に確定申告を行うことが重要です。農業所得を含む事業所得の確定申告期間は、原則として毎年2月16日から3月15日までとされています。この期間内に申告書類を提出しなければ、青色申告特別控除(最大65万円・55万円・10万円)の適用が受けられなくなる可能性があります。
そのため、帳簿付けや青色申告決算書の作成は、申告期限直前にまとめて行うのではなく、日常的に記帳しておくことが円滑な申告につながります。提出方法は、税務署窓口への持参・郵送・e-Taxによる電子申告から選べますが、近年は申告内容が自動反映される点や控除要件の観点から、電子申告を選ぶ農家の方も増えています。
青色申告を楽にする会計ソフトの活用
農業の確定申告をする際には、会計ソフトの活用がおすすめです。
メリットは主に5つです。
- 取引の記帳ミスを減らせる
- 帳簿が自動化できる
- 申告時の書類作成がスムーズになる
- 税理士や農協との連携がしやすい
- 最新の税制に対応した会計処理ができる
会計ソフトを使用しない紙やExcelでの手作業での入力の場合、作業が煩雑になりやすく、記帳漏れや計算ミスが発生しやすいです。
会計ソフトは、そのようなミスが起きにくく、確定申告時の申告書作成がスムーズにできるなどのメリットがあります。
ちゃんと使いこなせるか不安という人は、サポートが充実している会計ソフトを選ぶようにしましょう。
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こちらは追記不要です。もし気になる点ございましたらコメントにてご指摘ください。
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青色申告は、税金を減らすためだけの制度ではなく、日々のお金の流れを整理し、農業経営を安定させるための仕組みです。収支を記録することで、自分の農業がどのくらいの力を持っているのか、次にどんな投資が必要なのかが見えやすくなります。
さらに、特別控除や赤字の繰り越し、家族への給与計上、収入保険など、農業ならではの不安定さに備えることもできます。農業を長く続けていくためには、天候や相場だけに任せず「数字で考えること」が大切です。
青色申告は、その第一歩です。無理なくできる範囲からで構いません。できるところから整えていきましょう。
ABOUT監修者紹介
税理士、1級ファイナンシャルプランニング技能士
伴(ばん)洋太郎
BANZAI税理士事務所
大学卒業後、一般企業や税理士事務所での勤務を経て税理士試験に合格し、2018年にBANZAI税理士事務所を開業。個人事業主や中小法人を対象とした業務の経験が豊富で、業務のデジタル化支援やスモールビジネスの立ち上げや個人事業の法人化に数多く携わる。
著書「7日でマスター フリーランス・個人事業主の確定申告がおもしろいくらいわかる本」(ソーテック社)
ABOUT執筆者紹介
加藤良大
フリーライター
ホームページ・ブログ
歴12年フリーライター。執筆実績は26,000本以上。
多くの大企業、中小企業のWeb集客、
【農業に特化した会計ソフト】農業簿記
農業特有の制度にもしっかり対応、軽減税率制度もお任せください。簿記や会計に取り組む農業者様を、確かな機能と高品質なサポートでお手伝いします。万全な法令改正への対応はもちろん、発売当初からお客様の声をいかして改修を続け、使い込むほど指に馴染みます。

















