03 September

高年齢者雇用安定法が完全施行へ!一体何が義務化される?

掲載日:2025年09月03日   
社会保険ワンポイントコラム

日本では、60歳以降も労働する高齢者が少なくありません。少子高齢化が進み、労働人口の減少が深刻な社会課題とされる中、2025年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(通称 : 高年齢者雇用安定法)」が改正されました。

この改正により、雇用制度の見直しが求められる企業は少なくありません。この記事では、高年齢者雇用安定法の最新の改正内容と、企業が取るべき対応について解説します。

法改正により65歳以降の雇用確保が完全義務化

高年齢者雇用安定法は、高齢者が安定して働ける就業機会を確保することを目的として制定された法律です。前身の法律である「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」は1971年の制定後、1986年に現在の名称に変更されており、それ以降も複数回の改正がされてきました。

最新となる2025年4月の改正では、「65歳までの雇用確保の完全義務化」が重要なポイントです。

65歳までの雇用確保が完全義務化されたことによって、定年を65歳未満に定めている企業は次の3つから、いずれかの高年齢者雇用確保措置を採用することが義務付けられました。

  1. 65歳までの定年引き上げ
  2. 65歳までの継続雇用制度の導入
  3. 定年制度の廃止

導入するのは3つの内の1つで良いので、定年の年齢を65歳まで伸ばすことは必須ではありません。ただし、定年を引き上げない場合は再雇用制度を導入するなどして、希望者全員に対して65歳までの雇用を保証することが求められる内容となっています。

同じく2025年4月に、雇用保険法が定める「高年齢雇用継続給付金」の縮小も実施されました。高年齢雇用継続給付金は、60歳以上65歳未満である雇用保険の被保険者の賃金が、60歳到達時点の月額賃金から75%未満に減少した場合に、一定条件を満たすことで支給を受けられる制度です。以前は最大で賃金額の15%が支給される制度でしたが、2025年4月以降はこの支給率の上限が10%に引き下げられました。さらに、高年齢雇用継続給付金は2030年に制度自体の廃止が予定されています。

多くの企業に就業規則の見直しが求められる

以前は65歳までの雇用確保は企業の努力義務とされており、対応は必須ではありませんでした。しかし、今回の改正により65歳未満の人材を継続雇用する制度がない企業には、就業規則の見直しが求められます。

就業規則を変更したら、労働基準監督署への提出が必要ですので、欠かさずに行いましょう。また、変更された就業規則内容を従業員へ周知することも忘れないように注意してください。

雇用確保が義務化されたことで、60歳以降も雇用を希望する人材の賃金や労働条件の見直しも求められるでしょう。一般的に再雇用後は給与が下がる傾向にありますが、賃金の減額は従業員の労働意欲の低下につながりかねません。企業からすれば賃金の負担が重くなる点は大きな課題となりますが、高年齢雇用継続給付金の上限が引き下げられたことも考慮して、60歳以降もできるだけ以前と同等の給与にできるのが理想です。

さらに、高齢者が働きやすい制度の整備も必要となるでしょう。年齢による体力の低下を見越して、時短勤務制度やフレックス制度を導入するといった対応が考えられます。

高齢者の能力が活きる仕組みづくりが企業のプラスとなる

少子高齢化が深刻化する現状を踏まえると、日本の労働人口が減少していくのは確実です。今回の高年齢者雇用安定法の改正には、労働できる年齢を延長させることで労働人口を確保する目的があります。60歳を過ぎても元気な方は大勢いますので、高齢者の人口が多い日本にとって、高齢者への労働環境の提供は経済を維持していくためにも重要です。

豊富な経験を持つベテラン従業員が企業に長く在籍することは、企業にとってプラスとなります。後進の育成など、60歳以上の従業員の能力を存分に活かせる適材適所の配置が実現できれば、高齢者の雇用が企業に大きく貢献してくれるでしょう。

高年齢者雇用安定法は2021年4月にも改正されており、その時の改正では70歳までの雇用確保措置が努力義務化されています。将来は70歳までの継続雇用が義務化されるかもしれません。今後は65歳以上になっても働き続けることが当たり前の世の中になっていくと考えられるので、今の段階から高齢者が働く未来を見越した職場環境づくりを検討しておくことが、企業にとって大切です。

ABOUT執筆者紹介

内田陽

株式会社ペロンパワークス・プロダクション

金融系の制作業務を得意とする編プロ、ペロンパワークス・プロダクション所属のライター兼編集者。雑誌や書籍、Webメディアにて、コンテンツの企画から執筆までの業務に携わる。金融関連以外にも、不動産や人事労務など幅広いジャンルの制作を担当しており、取材記事の実績も多数。

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