農業経営を安定化させる“守りの要”。「収入保険」について詳しく解説!
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日本の農業は、気候変動による自然災害や、市場価格の乱高下といった、個人の努力だけではコントロールしきれないリスクと常に隣り合わせです。こうした経営不安を解消し、農家が安心して生産に取り組めるように支えるのが「収入保険」です。
ただ、これから本格的に農業を始める新規就農者はもちろん、既存の農家のなかにも「そもそも制度が理解できない」「メリットがよく分からない」といった声が少なくないのが実情です。そこで今回は、そもそも「収入保険」がどんな制度なのかを紹介したうえで、そのメリットについて詳しく解説してみたいと思います。
小泉前農水大臣の発言で改めて注目を集めた「収入保険」
天候変動や資材の高騰、そして深刻な人手不足―― 。近年、農業を取り巻く環境は厳しさを増していますが、特に2024年から2025年にかけての「米」を巡る状況はかつてないほど大きな注目を集めました。記録的な猛暑による品質低下や需給のミスマッチにより、店頭での米不足と価格急騰が発生。いわゆる「令和の米騒動」が起こりました。
こうした局面を打開するため、2025年に農林水産大臣(当時)に就任した小泉進次郎氏は、これまでの農政のあり方に一石を投じました。小泉前大臣は米不足に対する「政府の責任」を認めつつ、従来の「減反(生産調整)」から「増産」へと舵を切る方針を明確に打ち出したのです。
しかし、現場の農家にとって「増産」は手放しで喜べるものではありません。最大の懸念は、作りすぎることによって米の価格が暴落する「豊作貧乏」のリスクです。そこで小泉前大臣は、この価格変動リスクを「農家個人の努力」に委ねるのではなく、「制度」で支えるべきだと主張。その具体的な解決策の柱として大臣が繰り返し強調したのが「収入保険」でした。
大臣は記者会見を通じて、増産によって米価が下がったとしても、収入保険があれば農家の手取りは守られることを明言しました。また、猛暑によるコメの品質低下に伴う減収も補填できる点に触れ、気候変動リスクへの有力な備えとして位置づけたのです。
収入保険は、従来の制度と何が違うのか?
その後、政権の交代がありましたが、「収入保険」が日本農業を支える基盤であることに変わりはありません。しかし、現場では「制度が複雑でよくわからない」といった声も根強くあります。そこでまずはこの制度がどのようなものか整理してみたいと思います。
収入保険の最大の特徴は、従来の「農業共済」のように品目ごとの「収量」を追うのではなく、農産物の「販売収入全体」を補償する点にあります。
- 幅広い補償範囲: 従来の共済は主に自然災害による収量減少が対象でしたが、収入保険は「市場価格の下落」「取引先の倒産」「怪我や病気による収穫不能」まで、経営努力では避けられない幅広い収入減をカバーします。
- 対象品目の網羅性: 米、野菜、果樹、花きなど、ほぼすべての農産物が対象です。精米や餅、梅干しといった簡易な加工品も含まれるため、6次産業化に取り組む農家にとっても心強い仕組みです。
- 手厚い公的補助: 掛け捨てとなる「保険料」の50%を国が負担し、補填に使われなければ翌年に持ち越せる「積立金」の75%を国が負担するという、公的制度ならではの手厚い補助があります。
FP資格を持つ農家の私も「収入保険」を強く推す理由
ここからは、新規就農した農家として15年のキャリアを持ち、2級FP技能士の資格も有する私の個人的な見解をお伝えします。結論から言えば、私は収入保険の制度開始当初から加入を続けており、本格的に農業経営を行うなら「使わない手はない」と思っています。
民間保険とは比較にならない「圧倒的コスパ」
FPの視点で見ると、保険の本質は「滅多に起こらないが、起きたら致命的なダメージを受けるリスク」に備えるためのものです。民間企業の保険の場合、当然ながら企業の利益や人件費(付加保険料)が上乗せされており、期待値としては「加入者が損をする設計」になるのが一般的です。そのため、経済合理性の観点で言えば、保険は「必要最低限のみ加入する」がベターだと言えます。
しかし、収入保険は違います。国が保険料の半分、事務費の大部分、そして積立金の4分の3を補助しているからです。このような「圧倒的に加入者が有利な条件」の保険商品を民間で作ることは100%不可能です。私たち農家の経営安定のために、莫大な税金が投入されている「特別な保険制度」と言い換えてもいいでしょう。
実際に150万円の補填を受けた経験
また、私が加入を勧める理由の一つが、実際の自分自身もこの制度に救われた経験があるからです。数年前、天候不順と市場価格の下落が重なり、年間の農業収入が基準を大きく下回る事態に陥りました。その際、収入保険からおよそ150万円の補填金を受け取ることができました。
この150万円は、単なる「補填」以上の価値がありました。農業は巨額の初期投資を長期で回収していくビジネスです。売上が急減しても、機械のローンや地代、次期の種苗・肥料代の支払いは待ってくれません。まとまったキャッシュが支払われたことで、私は経営規模を縮小することなく、翌年も計画通りの作付けを続けることができました。もし未加入であれば、資金繰りに窮し、その後の経営継続が難しくなっていたかもしれません。
「攻めの農業」を可能にする精神的な安定剤
農業において最も難しいのは「販売」と「価格の維持」です。特に新規就農者が非農家からスタートする場合、後ろ盾がない状況でリスクを取ることは非常に勇気がいります。
収入保険に加入していると、「どんなに最悪な事態になっても、前年の約8割の収入は確保される」というセーフティネットが敷かれます。この安心感があるからこそ、新しい作物の導入や、販路の拡大といったリスクを伴う挑戦が可能になるのです。保険は守りのためのツールだと思われがちですが、実は「攻め」を加速させるためのブースターとしての側面も非常に大きいのです。
収入保険に加入するには「青色申告」が必須
このように非常に手厚い収入保険ですが、あえてデメリットを上げるとすれば、加入するためには「青色申告」が条件となっていることです。
新規就農したばかりの人や、これまで白色申告だった人にとっては、帳簿付けの作業は「難しそう」「面倒だ」と感じるかもしれません。しかし、農業経営を可視化することは、保険加入と同じくらい重要なこと。自分の経営が今どこにあり、何にコストがかかっているのかを把握せずには、持続可能な経営は望めません。また、青色申告には、白色申告では受けられない税制上の優遇措置もありますので、むしろ手間以上のメリットを享受できる人もたくさんいるはずです。
ちなみにソリマチの「農業簿記」を使えば、煩雑な日々の経理業務も快適に行うことができます。実際にやってみるとそこまでハードルの高い作業ではありませんので、ぜひ収入保険への加入をきっかけに「青色申告」への移行を前向きに検討してみてください。
持続可能な農業経営を実現するために
収入保険は、単なる掛け捨てのコストではありません。あなたの経営と、大切な家族の生活を、予期せぬ荒波から守り抜くための「最強の盾」だと言えます。
「自分には縁がない」と敬遠してきた人こそ、まずは地域の農協やNOSAIの窓口に連絡し、自分の経営ならどの程度の保険料で、どれくらいの補償が受けられるのか、具体的な試算を依頼してみて欲しいです。きっと今後の農業経営の安定化に大いに貢献してくれるはずです。
ABOUT執筆者紹介
ひらっち
大学を卒業後、ブラック企業で営業職を経験。その後、ほぼ未経験からフリーライターとして独立、さらに数年後、非農家から新規就農を果たし、現在はライターと農家の二刀流を実践中。2級FP技能士・APF、認定農業者。農業情報サイト『マイナビ農業』などで執筆するほか、自身のnoteでも「農業」「フリーランス」「お金」などをテーマに情報発信している。




