05 November

コロナ禍で企業のマーケティング戦略が変わり「広告代理店」はどのようにDXという生存戦略を考えれば良いのか?

掲載日:2021年11月05日   
税務ニュース

この度のコロナ禍では、人々の生活様式が大きく変化し、消費行動も変わりました。消費行動の変化は、企業のマーケティング戦略を変え、その影響は当然に広告業界にも変化を与え、広告代理店の生存競争はより一層激しくなったようです。そんな環境において広告代理店は、どのようにDXという生存戦略を考えればよいのでしょうか。ビジネスモデルにおける財務的特徴から、顧客管理や案件管理という経営上の管理の目線で整理していきます。

広告代理店の基本的なビジネス構造

広告代理店は、メディアと言われる広告媒体が持っている広告枠を、広告代理店が仕入れて販売するモデルが主流です。顧客である広告主が広告代理店と付き合うメリットは、自社の戦略に沿った媒体の選定や広告運用など、マーケティング活動全般に対する支援が受けられることです。そのマーケティングを行う目的には、以下のようなものがあります。

  1. 販促広告:自社商品の市場への浸透や売上拡大
  2. 求人広告:自社の人材採用や定着のために、まずは求人への応募を獲得する
  3. コーポレート広告:自社のイメージ向上(多くの場合、自社社員や取引先等に対するイメージ戦略)

大手広告代理店のイメージに牽引され、派手で儲かる職業に思えるのか、広告代理店は新卒採用では人気職種のひとつです。確かに業界の頂点においてはそうかもしれません。しかし、実態としては、黒字企業割合が44%と、他のサービス業と比較しても儲けが出しにくい商売であり、一人あたりの給与も400万円程度と、決して高い水準ではありません。

同じ広告代理店でも、儲けが出ている会社とそうでない会社の間では、原価率に差があります。儲かっている会社では原価率が3-4割ですが、そうでない会社では5-6割になっています。要は同じ1億円の売上なら、儲かっている会社とそうでない会社には1‐3千万円の利益の差が生じます。原価率とは売上に占める原価の割合なので、儲かっていない会社では、以下のような問題が生じています。

1. 売上の要因

a. いわゆる安売りです。特定の広告媒体や広告枠の販売権を独占的に保有する広告代理店は少なく、同じ媒体を取り扱う競合が存在します。制作物で差をつけるという戦略はありますが、実際には同じ広告媒体で得られる広告効果に大差はないため、どうしても価格競争が避けられません。

2. 仕入の要因

a. 多くの広告媒体の仕入れ価格は、販売量に応じて掛け率が変動する仕組みになっています。そのため、販売計画が振るわないと仕入が割高になり、利益を圧迫することになります。

今後の代理店の動向

広告業界は、現在大きな転換期を迎えています。従来の花形であったマスメディアなどの広告媒体は、広告枠とクリエイティブ(原稿や動画などを指す形容詞を名詞化した業界用語)の組み合わせで効果を出していました。そのため、同じ広告枠であっても、クリエイティブの優劣で差別化ができました。しかし、現在台頭している google やfacebook、Amazon という購入や申込みなどの成果地点に非常に近い媒体では、どの広告代理店を経由して出稿しても(広告主が直接出向しても)効果に差が出にくくなっており、結果的に広告代理店としては価値の創出が難しく、収益を上げにくい状況になっています。この傾向はある一定の期間は継続すると思われます。

結果として、広告代理店という業態は厳しい時代になっていくのかも知れません。しかし、ヒトの好みが多様化する以上は、その人に商品やイメージを届けるために、企業がマーケティング自体をやめることはないと思います。こんな時代の中で、広告代理店はどのように生存のための戦略を見出していけば良いのでしょうか? DXという戦略の観点から考えてみましょう。

広告代理店の経営管理の基本

DX の戦略を整理するために、まずは広告代理店が基本的にどのような経営管理を要求されているか整理したいと思います。経営管理は、領域とその中の機能という単位で、以下のように整理できます。ここでは、広告代理店にとって重要な販売と生産の領域を中心に見ていきたいと思います。

※広告業の経営管理のイメージ(実際には事業者ごとの特徴があり差があります)

– 販売領域

1. 顧客管理

広告代理店にとって一番重要性が高い経営管理機能は、顧客管理だと思います。そもそも広告とは、広告主が自社の経営の目的を達成するためのマーケティング活動のひとつであり、そのマーケティングの目的が最も重要な与件になります。広告代理店は、「どの顧客がどのような目的やマーケティング・プランを持っているのか」、「その時の予算やキーマンは誰か」という情報が無ければ、営業を開始することはできません。

またこれらの与件情報は、いち顧客に対して複数同時に存在することも多々あり(「商品の販促と求人を同時に行いたい」など)、それらを別の与件として管理できることが望ましいと思います。顧客管理の最小単位は与件であり、複数の与件をひとつの広告主に紐付けて管理できることが必要だと思います。

2. 案件管理

顧客管理で認識された与件のうち、自社が営業の対象とするものが営業案件です(このあたりの呼称は組織や業界によって差はあると思います)。案件管理は収益の管理のために重要です。広告営業は、見積書の提示や広告主側の社内決済など、1案件を受注するまでに営業期間という時間コストを要します。そして、同じ組織の中でも営業期間が1週間程度で回転している社員と、その倍以上の単位で回転している社員とが同時に存在することがよくあります。当然ながら前者と後者では、密度にもよりますが、2倍程度の営業成績の差が出ます。人件費という固定費の効率の問題とも言えます。

案件管理においては、少なくともヒアリング・提案・受注の3つのステップに対する予定日と実績日の管理が必要です。また、営業担当者ひとりずつの営業上の歩留まりを改善していくことが業績の改善に直結しますので、その歩留まり情報の取得も必須です(ヒアリング提案率や提案受注率)。

また、案件管理というと「いかに受注するか」という管理にのみ注目しがちですが、実際には「なぜ失注したのか」という管理も大切です。営業上の成果の3割は失注案件の掘り起こしにある、とも言われます。失注理由の分類はいくつかのグループに分けることができますが、その中に必ず入ってくるのが、与件に対する提案内容のズレ(方法、時期、予算 など)です。

広告代理店業に限らず、営業という活動においては、この失注理由がある程度の割合で存在し、多くの場合、それは些細なこととは言えません。ただ、与件ズレによる失注には、競合に負けるなどの失注理由と異なり、追加の営業活動により今後受注になる可能性が残っているという特徴があります。例えば、時期のズレであれば正しい時期に再提案する、予算のズレであれば正しい予算や費用対効果でハマる提案をする、という理屈です。

– 生産領域

3. 掲載管理

営業案件の内、受注できたものについては、掲載案件として広告掲載状況の管理をすることになります。そもそも広告主と広告代理店の契約では、掲載終了日が到来すれば自動で掲載が終了するものが多く、広告代理店はそれをもって案件終了とできる訳ですが、広告主は掲載終了日までに当初の与件を達成することが目的で出稿しています。つまり、その与件の達成状況次第では追加受注があったり、他案件の与件を聞き出せたりします。そのため、広告代理店側は営業活動として、広告主の与件の達成状況を、広告掲載期間のマイルストーンに沿って管理する必要があります。具体的には、掲載初週、一ヶ月などのサイクルにおいて、広告側で取得できる成果状況(表示回数、クリック数など)と、クライアント側で取得できる成果状況(販売や問い合わせなど)を結合して、予定通りの成果が出ているのか、出ていないのであればどうするのか、という検討をすることです。同一のクライアントからのリピート案件は、新規案件の⅕ 程度の人件費で受注できると言いますが、これも人件費の効率を上げるために重要な機能です。

広告代理店のDXイメージ

最後に、そのような広告代理店がどうDXして行けばよいのか、考えていきたいと思います。

1. 方針

まず、最初に必要になるのがDXの方針です。言い換えれば、「どの程度で収益性などの経営の目的を向上させるか」ということです。広告業の黒字比率などの状況から考えて、運転資金の借入返済等に苦戦している会社は多いでしょう。そのような場合は、それらの返済が可能な水準を最低限目指さなければいけませんので、顧問税理士などに相談をされると良いと思います。この方針を立てずにDXを進めることはお勧めできません。組織は適切に活動できませんし、経営者自身もDXがうまく行っているのか、それを図る指標が設定できません。

方針が決まれば、それを達成する戦略を考えることになりますが、DXの観点で、この戦略を「2.働き方」などの業務やプロセスの論点と、「3.道具」などのデータとデジタルの活用の論点に分けて整理すると良いと思います。

2. 働き方

戦略には従来の事業の深掘りというレベルのものから、業種転換というレベルのものまであります。しかし、ここでは比較的容易で、実際に多くの広告代理店が取り組めるであろう、①〜③あたりを対象に考えてみます。

この①〜③くらいの範囲に当てはまるものには、例えば次のようなものがあると思います。

1. リスティング広告などの運用業務を提供している場合であれば、指定されたキーワードの運用に加えて、周辺キーワードから分かるトレンド情報のフィードバックから、クライアントのマーケティング戦略全体の支援を行う

2. 求人広告の代理店であれば、採用数増加や定着率向上など、クライアントがその応募者を活用して達成したい、より上流にある人事採用戦略全体の支援を行う

これらに共通していることは、顧客管理や掲載管理という経営管理を重視することです。それは、広告の本来の趣旨である「広告主の目的を達成するためのマーケティング手法としての広告」というポジションに立ち返ることと同義ではないでしょうか? 広告主から見た場合に、広告代理店はマーケティングの支援者です。広告主が何に困っているのか、その時にどういう戦略で対処しているのか、などの情報を活用することが方針達成の足がかりになると思います。

また、「Ⅱ広告業の経営管理の基本」に記載した人件費の効率に関する経営管理は「重要だと分かってはいるけれど、実際にはできていない」ということがよくあります。社員の人事評価において、売上高という業績だけでなく、そのプロセスである与件量、案件化率、ヒアリング提案率、提案受注率、受注サイクル(日数)、リピート率などを成果として評価するような企業文化づくりを検討されてはいかがでしょうか。

3. 道具

上述の通り、広告代理店がDXの本丸として行うべきは顧客管理・案件管理などの経営管理です。そのための道具としてはkintone やsalesforce などのグループウェアが適切だと思いますが、顧客管理(CRM)や案件管理(SFA)の部分的な専門ソフトでも良いと思います。ただし、広告代理店の場合は、上述の 与件>営業案件>掲載案件 という移り変わりが管理できるか、という点についてご注意ください。そのような連続的な管理ができずシステムが継ぎはぎだらけになると、却って働きにくくなってしまいます。営業社員5名程度の小規模な組織であればソリマチの顧客王でも管理可能です。顧客管理や案件管理がそもそもどのようなものか、イメージできない場合は、無料トライアルで試していただくと良いと思います。

これらの道具の利用によって収益を出していくために、とにかく重要なことは「行動」と「日付」を管理することだと思います。例えば、提案の回答をいただく予定日があれば、漏れなくその日に採否の確認を取る、失注すれば再提案日などの失注管理をする、といった行動の管理です。そのため、顧客管理や案件管理のツールは、日付に対してアラートが出せるものが良いと思います(エクセルやアクセスでもカスタマイズすれば実装できますが、既製品を使う方が安いと思います。)

また、令和5年10月から始まるインボイス制度への対応を考えた場合に、広告主の要求から、広告代理店では適格請求書が発行できることが原則的に必須になると思われます。案件管理ソフトの中には、販売管理ソフトというポジションで請求書発行や債権管理などの経理業務にも対応するものがあります。ぜひそれらをご活用ください。こちらもソリマチの販売王などで試すことができます。

まとめ

広告代理店にとって厳しい時代であることは事実だと思います。しかし、その顧客である広告主が目的を持ってマーケティングを行う以上、そこに何らかの役に立てる要素があり、生き残りのための活路があると思います。月次での会計数値を参考に方針を立て、その実現のための戦略としてDXを行うことで、成長と発展を目指していただければと思います。

ABOUT執筆者紹介

小泉 直哉

株式会社ミッドランドITソリューション 取締役
一般社団法人 日本業務効率・情報安全研究機構 執行役員

士業事務所のデジタル・トランスフォーメーション(DX)について、事務所個別の最適化だけでなく、全ての事務所が使える理論体系への整理とその活用のための手法を研究・実践している。セキュリティや経理業務の領域等では特許等も複数有している。

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