電子保存の義務化と税務調査
税務ニュース
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電子保存義務化への対応は?
令和6年1月より、電子取引のデータ保存が本格的に義務化されます。電子取引とは、経理資料を電子でやり取りする取引をいい、電子メールで請求書を送受信したり、Amazonの領収書を電子データでダウンロードしたりする取引を言います。電子取引を行った場合、原則としてそのデータを改ざんされないようにしたり(真実性の確保)、所定の項目で検索できるようにしたり(検索要件)する措置を行った上で保存する義務が課されます。
現状、これらの措置を実施するとなると、システム対応など多大なコストがかかるため、所定の事由があれば紙で保存しても問題ないとされています。しかし、その期限は令和5年で切れることになります。このため、令和6年から電子保存が本格化すると言われる訳ですが、それでもまだ負担が大きいことを踏まえ、所定の要件を満たせば、上記の真実性の確保や検索要件を問わず、データを保存できるという特例が創設されています。大企業は別にして、多くの中小企業はコスト的にも労力的にも対応が難しいですから、ほとんどの企業がこの特例を使うと予想されています。
特例における3つの要件
この特例における所定の要件ですが、①相当の理由があって真実性の確保などが難しい場合で、②プリントアウトした紙も適宜保存をし、そして③保存している電子データを税務調査の際、調査官から求められればダウンロードして提供すること、とされています。
①相当の理由があって真実性の確保などが難しい場合
①の相当の理由ですが、金銭的な理由等で対応が難しい場合とされており、となるとこの要件に該当するのか税務調査で細かくチェックされると言われます。しかし、ほとんどの国税調査官は問題にしないでしょう。なぜなら、彼らにとっては事実関係を確認できるかが問題であり、データでなく紙でも事実関係は十分に確認できるため、敢えてデータで保存してもらう実益はないからです。一点、注意するとすれば、調査官が相当の理由がないのに特例を使っている、といった脅しをかけて税務調査交渉を有利に進めようとする可能性があります。このため、万一に備えてコストが高すぎて対応できないといった理由と、その証拠を用意しておくと都合がいいでしょう。
②プリントアウトした紙も適宜保存
次の②ですが、紙保存する場合、日付順や取引順にまとめておき、その元となった電子データを速やかに出力できるようにしておく必要があるとされています。紙でもらった領収書を特に整理しないで段ボールなどに入れておく、といった保存をする方もいますが、この特例を使うためにプリントアウトした紙についてはこのような処理は認められません。
きちんと整理しておくというのは税務調査対策上私たちにとっては非常に不利な状況を意味します。なぜなら、国税調査官が確認したい資料をすぐに見つけられることを意味するからです。資料を探す時間がかかり、十分な税務調査ができなかった、という事態はよく見られますが、特例を使う以上、このような事態を期待することは難しいです。
③保存している電子データを税務調査の際、調査官から求められればダウンロードして提供すること
最後の③ですが、これは非常に厄介です。保存している電子データをダウンロードされて持ち帰られるとなれば、そのデータを調査官は自由に加工することができます。こうなると、税務調査の問題点の検討がスムーズにできます。
それに止まらず、データをダウンロードされるのであれば、当然ながらパソコンも提示する必要があります。会社のパソコンの中にある不都合なデータを税務調査で把握されたため、多額の税金を取られたケースは非常に多くあります。このため、極力パソコンのデータはプリントアウトしておき、パソコンそのものは見せないというのが税務調査の王道ですが、これも通用しなくなります。結果として、税務調査前は、パソコンの内容を確認するのが必須になります。
まとめ
このように、令和6年1月からは税務調査上税務署に有利な状況が作られる訳で、税務調査リスクは従来よりも大きくなります。今まで以上に、脱税などの不正取引を行わない、というスタンスで日々の経理実務を行う必要があります。
ABOUT執筆者紹介
元国税調査官・税理士 松嶋洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。