子どもと話したいお金と税金のはなし[第6回]:ペットに税金?新しい税金をつくるときのはなし。
おんすけと学ぶ税務情報
大人になるために避けてとおれない、けれど難しいお金や税金のこと。本コラムでは、経営者や経理担当者のみなさんが子どもとお話をするきっかけになるように、お金と税金のトピックについて、身近な事例を取り上げて解説します。
所得税や住民税など、税金にはいろいろな種類がありますが、新しい税金はどのようにつくられているのでしょうか?
第6回では、ペット税を取り上げて、新しい税金のつくり方にスポットを当ててみましょう。
ペット税とは?
海外では、ペットに税金を課している国があります。
その代表例は、ペット先進国ドイツ。
ドイツでは、犬を保有している者に犬税(Hundesteuer)が課されます。犬税は市町村税であり、ドイツのほとんどの自治体で導入されています。
ドイツの犬税は、当初、贅沢品に対する税金として導入された経緯があります。
現在では、犬税によりペットを安易に飼うことを防ぎ、結果として殺処分の抑制につながると考えられています。
また、犬税により徴収された税金は、街の清掃費用など、犬や愛犬家にかかわる費用のためにつかわれています。
日本でもペット税が導入されていた
ペット税は、海外だけの特別な税金ではありません。
実は日本でも、かつてペットに対する税金が存在していました。
昭和50年代まで、市町村税のひとつとして犬税が設けられており、自治体ごとに異なる課税方法が採用されていたのです。
飼育地域や飼育方法によって税金を課したり、税率を決めたりしている自治体もあり、たとえば京都府や群馬県では、日本原産の小型の愛玩犬である狆(チン)という犬種に対して、他の犬種よりも高い税率を設定していました。
日本の犬税は、徴税コストなどの問題により次々に廃止され、現在はペットに対する課税はされていません。
しかし最近でも、平成23年度税制改正に向けて、犬や猫などペットへの課税が検討されたことがあります。その背景には、ペットの無責任な飼育放棄などが多額の行政処分費用を生じさせているなどの課題がありました。
また、平成26年頃、放置フンに対する啓発や処理コストをまかなうため、大阪府泉佐野市が犬税の導入を検討していましたが、税負担の不公平が生じることや、徴税コストが市の大きな負担となる可能性が高いことなどを理由に、犬税の導入が断念されています。
しかし、環境美化や飼育放棄などの課題に対応するため、ペット税の導入が議論される可能性は、今後もあるといえるでしょう。
新しい税金はどのようにつくられる?
さて、ペット税などの新しい税金は、どのようにつくられているのでしょうか?
都道府県や市区町村などの「地方自治体」は、独自の税金をつくって住民から徴収することができます。
地方自治体に支払う税金を「地方税」といいますが、この地方税には「法定税」と「法定外税」の2つがあり、法律(地方税法)の定めがベースにある税金(法定税)とは別に、法律(地方税法)の定めのいわば外にある地方自治体の条例(税条例)により、オリジナルの税金(法定外税)をつくることができるのです。
地方自治体がオリジナルにつくることができる法定外税には、たとえば以下のようなものがあります。
- 宿泊税(東京都など)
- 産業廃棄物税等(三重県など)
- 核燃料税(福井県など)
- 別荘等所有税(静岡県熱海市)
- 歴史と文化の環境税(福岡県太宰府市)
- 狭小住戸集合住宅税(東京都豊島区)
宿泊税など、同様の税がいくつかの地方自治体で導入されているものもあれば、別荘地等所有税などのように、その地域に特有のものもあります。
総務省の資料によると、令和6年4月1日現在の法定外税(未施行のものは除く)は、合計67件(法定外普通税22件、法定外目的税45件)にのぼります。また、法定外税を実施している自治体の数は、55(34の都道府県、21の市区町村)とされています。
法律の許容範囲を超えてはならない
このように、地方自治体は、地域の実情に応じて、条例によりオリジナルの税金をつくることが認められています。
ただし、各自治体が独自の税金を「自由に」つくれるわけではありません。
独自の税金をつくるためには、地方議会での議決を経る、総務大臣と協議を行い同意を得る、税収の10分の1を継続的に超えることが見込まれる納税者からの意見徴収を行う、などのさまざまな手続きが必要です。
また、各自治体は「どんな税金でも」つくれるわけではありません。
各自治体は、法律の許容範囲を超えて独自の税金をつくってはいけないのです。
これは、日本国憲法において、条例はあくまで法律の範囲のみで制定できるとしているためです。実際に、ある法定外税をつくった条例が、法律の許容範囲を超えているため無効であると裁判で判断された事例もあります。
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
税金には、実にたくさんの種類があります。
このコラムをきっかけに、お住まいの地域にどんなユニークな税金があるか、調べてみてはいかがでしょうか。
ABOUT執筆者紹介
税理士 武田紀仁
クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。