若者の雇用継続を目指すために。従業員が社会保障への理解を深める意義~令和7年版「厚生労働白書」特集記事から~
社会保険ワンポイントコラム

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令和7年版「厚生労働白書」では、特集記事として「次世代の主役となる若者の皆さんへ~変化する社会における社会保障・労働施策の役割を知る~」が掲載されました。記事では、若者の社会保障への意識の現況、社会保障教育・労働法教育の意義などについて紹介されるなどクローズアップされています。
今回は、厚生労働白書の記事を手掛かりに、会社が、従業員に対し社会保障への理解を深めるためのポイントを解説します。
厚生労働白書で紹介されている「社会保障や労働施策を知ることの意義」~ミクロの視点から~
令和7年版厚生労働白書(以下、白書)では、若者が「社会保障や労働施策を知ることの意義」として、ミクロの視点から、5つの項目に分けて紹介しています(次図参照)。
社会保障や労働施策を知ることの意義について(令和7年度厚生労働白書から)
令和7年度厚生労働白書「第1部 次世代の主役となる若者の皆さんへ-変化する社会における社会保障・労働施策の役割を知る-」「第2章 第2節 社会保障や労働施策を知ることの意義」について、ミクロ視点とマクロ視点からそれぞれ考察し、ミクロ視点について、以下の(1)~(5)に分けて紹介しています。
(1)生活上の困り事の相談、解決ができるようになる
生活上の困り事を解決するためには、社会保障という仕組みがあることや相談することができることを本人や周囲の人が知っておくことが重要である。
(2)働いていてトラブルに巻き込まれたときに解決できる
働くときの基本的なルールや相談窓口を知っていれば、働いていてトラブルに巻き込まれたときに自分の身を守ることができる。
(3)万が一のときの備えができる① ~年金の事例~
思いがけない事故に遭ったときなどに備え、年金などの制度を知り、万が一のときに保障が受けられるようにしておくことが重要である。
(4)万が一のときの備えができる② ~通勤災害の事例~
働くときには、アルバイトを含め万が一の事故に備える労災保険があることを知っておくことが重要である。
(5)将来の自分を主体的に選択できる
ライフコースや働き方に応じた生活の状況も知った上で、主体的に将来の生活設計を行うことが重要である。
社会保障制度を軸に会社が「従業員の困りごと」へ対応するために~3つのポイント~
【ポイント①】従業員に馴染みやすい「社会保障制度」の啓発
年金、健康保険、雇用保険、労災保険など。日本は社会保障制度が充実していますが、その分、制度が複雑なため、理解をすることが難しいのも事実です。また、実際に社会保障の給付機会があると、自ずと関心が高まりますが、機会がなければ、どうしても関心は低くなってしまいます。
従業員が社会保障制度へ関心が高まる機会を適宜つくっていきましょう。
入社時などに、社会保障制度を説明する機会はあるかもしれませんが、その場面だけで制度の全体を理解すること、また、制度への関心を持ち続けることは難しい面もあります。
社内報や社内メルマガなどで、適宜、社会保障制度への理解を深める場をつくっていきましょう。
社会保険労務士などの専門家による研修、また、主には学生向けですが、厚生労働省の教材・動画を活用した研修などにより、理解を深める方法も考えられます。
【ポイント②】従業員へ分かりやすい「社内相談窓口」の設置
労働法には、ハラスメント、育児・介護休業、能力開発などを定めた法律があり、それぞれの法律の中で、相談窓口などの担当者・推進者を置くことも明記されています。
これらの法律があることで、さまざまなワークライフバランスを尊重することに繋がっていますが、一方で運用によっては窓口が複数となることで、その役割が縦割りになり、相談者が戸惑うことも考えられます。
相談者にとっては「困った場合に、社内のここへ相談すれば良い」と簡潔に分かりやすいことが望まれます。
従業員にとって、分かりやすい「社内相談窓口」へ向けた工夫をすることも一つの方法です。
会社の規模・実情などによって、工夫の方法はそれぞれですが、例えば次のような方法が考えられます。
- 包括的な対応ができるよう相談窓口を一本化する
- 各相談担当者・推進者の一覧を社内に掲示する
- 各相談担当者・推進者を横に繋ぐための統括役を置く など
【ポイント③】従業員が描きやすい「キャリア支援」の構築
社会保障のイメージとして、生活上の困り事・働く上でのトラブル・万が一の事故など『予期せぬ事態』への保障という側面が強いですが、将来の自分を主体的に選択できる『キャリア支援』の一面もあります。
キャリア支援としての社会保障を理解することで、従業員自身が主体的にワークライフバランスを描くことにもつながります。
例えば、次のような制度です。
- 雇用保険の「育児休業給付金」による育児と仕事との両立支援
- 雇用保険の「教育訓練給付金」による自己啓発などの促進
- 年金制度に組み込まれている「iDeCo(個人型確定拠出年金)」などによる将来設計 など
会社が、社会保障制度を『キャリア支援』の一面として活用を提案することで、従業員自身の主体的な社会保障制度の理解促進にもつながっていきます。
ポイント①~③をそれぞれ意識しながら(次図参照)、さまざまな従業員の困りごとなどへ対応していきましょう。そのような対応が構築されることにより、若者の不安を軽減し、若者自らがキャリアを描き、若者の雇用継続へと繋がっていきます。

ABOUT執筆者紹介
社会福祉士・社会保険労務士 後藤和之
昭和51年生まれ。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科卒業。約20年にわたり社会福祉に関わる相談援助などの様々な業務に携わり、特に福祉専門職への研修・組織内OFF-JTの研修企画などを通じた人材育成業務を数多く経験してきた。現在は厚生労働省委託事業による中小企業の労務管理に関する相談・改善策提案などを中心に活動している。





