27 May

アフターコロナの経営[シリーズ第5回]我が社はどれくらい借りられる?目安を知ろう

掲載日:2024年05月27日   
中小企業おすすめ情報

このシリーズでは「アフターコロナの経営」というテーマで、この時代を生きる経営者が持っておきたい視点、知っておきたい情報を取り上げています。前回(第4回)のコラムでは、コロナ融資の返済に苦しむ事業者が多い現状を受け、返済が苦しいときの対応に関する基礎知識を取り上げました。今回のコラムでは、アフターコロナもまだまだ資金調達を必要とする事業者が多いことを受け、「自社はあとどれくらい借りられるのか」を考えるときの目安を解説します。

アフターコロナも資金需要は尽きない

コロナ禍で大きなダメージを受けた事業者の多くが、徐々にお客様を取り戻して回復に向かっているのではないでしょうか。完全回復までの道のりで頼りの綱となるのは、やはり「手元資金」です。例えばコロナ禍で従業員が離れてしまった場合は、人材の採用・教育・定着に取り組む資金が必要です。施設設備の修繕やバリューアップが必要なケースもあるでしょう。アフターコロナに世の中に浸透したデジタルツールを導入するケースもあるでしょう。

コロナ禍の局面では主に「赤字の補填」という意味でコロナ融資が必要でしたが、アフターコロナに立ち直ろうとする局面では今度は「人材投資・設備投資」という意味で資金調達需要が増しているようです。

ここで経営者を悩ませるのが、「コロナ融資で借入が積みあがった状況下で、果たしてまだ借りられるのか?」ということです。

融資の審査は「返済能力」次第

金融機関が融資の審査で見るものは、一言で言えば返済能力です。この返済能力の評価材料となるものは多岐にわたり、例えば過去の財務状況、今後の事業計画、商品・サービスの競争力、担保や保証人、信用情報、経営者の力量や人柄や熱意、組織内の主要メンバーの力量、等があります。これらの多岐にわたる要素を総合的に評価されるので、「この事業者はいくらまで借りられる」といったことを一概にお伝えすることはできないのですが、一般的に目安とされるものはお伝えすることができます。

いくらまで借りられるか?目安その①:「稼ぐ力」

「その事業者が借りられる上限金額」の目安になるもののひとつに、「稼ぐ力」があります。端的に言うと「今の稼ぎ方で10年以内に返せる金額が、借りられる上限額である」とする考え方です。
具体的な金額は、以下の式で計算できます。

( 税引後当期純利益 + 減価償却費 ) × 10

これは直近の決算書の損益計算書の数字で計算できます。上記の式にある「税引後当期純利益」と「減価償却費」はいずれも損益計算書に載っています。

この式の計算結果は「債務償還年数」と呼ばれる指標で、「今ある借入金を事業の利益で返済していくとしたら、何年かかるか?」を示すものです。金融機関は基本的に「10年以内」を求めます。複数の借入先がある場合、ここでいう借入金とは、全ての借入先からの借入金の残高の合計金額です。

減価償却費を利益に加算するのは、費用のうち減価償却費は実際にお金が出ていく費用ではないからです。損益計算書上の利益が0円でも、費用として減価償却費が100万円計上されていれば、実際には100万円は手元に残る(返済に回せる)というわけです。

実際には利益の全額を返済に回せるわけではありませんし、手元に残るお金を正確に計算するにはもう少し専門的な計算が必要です。また、直近の利益が今後も続く保証はありません。この計算式は、そういったことを考慮しない簡便なものではありますが、一般的によく用いられるひとつの目安となっています。

いくらまで借りられるか?目安その②:「事業の規模」

別のアプローチから「その事業者が借りられる上限金額」を測る目安として、「事業の規模」があります。「その事業者が借りられる上限金額は、事業の規模、つまり売上規模による」とする考え方です。
具体的な金額は、以下の式で計算できます。

1か月の平均売上金額 × 6

この式は、「月商の6か月分」を意味します。非常に感覚的な目安ではありますが、金融機関は基本的に「適正な借入規模は月商の6か月分くらいまでで、それ以上になると事業規模に照らして過剰な借入と感じる」と考える傾向があります。何か月分が適正であるのかについては明確なガイドラインやマニュアルがあるわけではありません。正確な見立てをするには各事業者の業種・業態や経営状況を踏まえて個別に算定すべきところです。そんななかで簡単に測れる、慣習的に用いられている一般的な目安として「月商の6か月分まで」という考え方があります。

目安①や②をクリアしていない場合

上述の目安①や目安②をクリアしていないからといって資金調達ができないということではありません。それでも、上述の目安①や目安②をクリアしていない状態で資金調達がしたい場合に、「一般的には借入が大きいと評価されるかもしれない」ことを知っているかいないかは、成否を分けます。そのことを踏まえて、資金調達が必要な背景や返済の計画を金融機関により一層きちんと説明できるように準備しておくと、信頼を得やすいでしょう。

決算書の内容が思わしくない場合

上述の目安①でお示しした計算式「(税引後当期純利益+減価償却費)×10」は「債務償還年数」を算定するものでしたが、「税引後当期純利益+減価償却費」が赤字(マイナス)であったり少額すぎたりすると、算定不能(債務を償還することができない)となってしまいます。

また、売上が思うように伸びておらず、今後の拡大のために大きな設備投資を考えるケースなどでは、目安②でお示しした「1か月の平均売上金額×6」以上の資金調達が必要となることもあるでしょう。

このように決算書の内容が思わしくない場合は、過去の決算内容ではなく今後の事業計画で審査してもらえるよう金融機関にアピールすることになります。しかし、金融機関にとって、事業計画書で審査することは難易度が高いものです。決算書は過去実績に基づく確かな資料ですが、事業計画書は不確実な将来の構想を記した資料であるからです。事業計画書による審査で良い結果を得るには、金融機関の担当者や貸付責任者、支店長に前向きな姿勢で寄り添ってもらう関係性が重要です。そのためには日ごろから金融機関とのコミュニケーションをこまめにとって、良いときも悪いときも業況等の情報提供に努めるなど、良好な関係を維持しておくことが重要です。

冒頭で申し上げた通り「いくらまで借りられるか」は一概に言えないものです。しかし目安を把握する方法を知っておくと、自社の借入状況が一般論としてはどういう状況にあるのかを客観的に把握でき、適切な心構えや準備ができます。コロナ融資で借入残高が膨らんだ事業者は特に、この機に基礎知識を確認しておきましょう。

このシリーズは「アフターコロナの経営」というテーマで、次回以降もこの時代を生きる経営者が持っておきたい視点や情報を取り上げていきます。次回第6回のコラムでは、業績が回復したらコロナ融資は繰り上げ返済すべきかというテーマで解説します。

ABOUT執筆者紹介

経営コンサルタント 古市今日子

株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士

外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積み、2016年独立。
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営指導員などを務める。
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件

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