法人成りとは?個人事業主が自分で手続きするときの流れを解説②税務・労務の届出・申請
税務ニュース
登場人物
よっちゃん(以下「よ」):まゆこの夫。行政書士。仕事はできるが税金はくわしくない。特技は料理と釣り。夢は釣り三昧の日々。
まゆこ(以下「ま」):税理士・税務ライター。「こむずかしい税金をいかに分かりやすく表現するか」ばかり考えている。趣味は、よっちゃんのごはんを食べること。
「そろそろ法人成りしたい」。そんな風に感じるタイミングが個人事業主に訪れることがあります。個人事業主として行ってきた業務を法人に移す「法人成り」はどんな手続きが必要なのでしょうか。2回にわたって解説します。2回目の今回は税務・労務の手続きと注意点です。
登記したら税務・労務の手続きが必要…なぜ?
よ「個人の事業を法人化したら、税務や労務の手続きも必要になるよね」
ま「そうなの」
よ「あらためて考えると面倒くさいよね。会社作って終わったら、そこで終わりにしてほしい」
ま「そうねぇ。でも会社も人間と同じく、経済活動をすればいろいろ社会的な責任が生じるから必要なのよ」
よ「?」
ま「ちょっと聞くけど、会社の経済活動にはどんなものがあると思う?」
よ「こんな感じかなぁ」
ま「こういった活動の1つ1つに税や社会保険がかかわるのよ。こんな感じ」
ま「税や社会保険がかかわるのなら、事前に『事業活動してます』という届出がそれぞれの行政機関に必要なの。それがないと、」
よ「税金や社会保険料を払うのは気が重いね。会社作るだけでもお金かかるのに」
ま「何言ってるの。税金は日本で暮らす会費のようなものよ。税金なかったら色々な行政サービスはない。社会保険料だって、会社の社長や従業員が病気や事故、老後の生活保障に役立つのよ」
よ「そうか」
ま「法人と言ってもいろいろある。ここでは前回と同じく、株式会社に限定して必要な手続きを説明するね」
法人成りの後で必要な手続き①税務
よ「会社を作った後、税務ではどんな手続きが必要なの?」
ま「『会社作りました!』というお知らせと、作った会社の事情に応じて必要な手続ね。ほとんどが税務署に対するものだけど、都道府県や市町村に対するものもある」
税務署での手続き
書類の名称 | 提出する法人 | 提出期限 |
---|---|---|
法人設立届出書 | ほぼすべて (公益法人等は不要) |
法人の設立登記の日から2か月以内 (定款等の添付が必要) |
青色申告の承認申請書 | 青色申告の特典を受けたい法人 | 基本的に「設立日以後3か月以内」か「事業年度終了の日」のいずれか早い日の前日まで |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 役員や従業員への給与を支払うこととなった法人 | 開設の事実があった日から1か月以内 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 給与を支払う人数が常に10人未満である法人 | 特例の対象としたい月の前月中 (明確な期限はない) |
適格請求書発行事業者の登録申請書(※1) | インボイスを発行し、かつ消費税の課税事業者として消費税を申告・納税する意思のある法人(BtoBビジネスなど) | 対象となる課税期間中(※2) |
※1 2023年10月1日から2029年9月30日の属する課税期間まで、この用紙の提出だけで消費税の課税事業者となる
※2 法人の新規設立は「課税期間の初日から登録を受けようとする旨」を記載すれば、設立の日からインボイスの発行が可能となる
※法人成りの場合、たいてい売上があるので届出前に検討しましょう
都道府県や市町村での手続き
書類の名称 | 提出する法人 | 提出期限 |
---|---|---|
法人設立・開設届出書 | すべての法人等 | 地方自治体ごとに異なる ※定款等と登記簿謄本の添付が必要 |
法人設立に必要な手続き②労務
ま「法人成りしたら、労務でも手続きが必要よ」
労働基準監督署
書類の名称 | 提出する法人 | 提出期限 |
---|---|---|
労働保険関係成立届 | 労働者を雇用した法人 | 適用事業所となった日の翌日から10日以内 |
概算保険料申告書 | ||
適用事業報告 | 遅滞なく |
公共職業安定所(ハローワーク)
書類の名称 | 提出する法人 | 提出期限 |
---|---|---|
雇用保険適用事業所設置届 | 労働者を雇用した法人 | 適用事業所となった日の翌日から10日以内 |
雇用保険被保険者資格取得届 | 被保険者となった日の属する月の翌月10日まで |
年金事務所
書類の名称 | 提出する法人 | 提出期限 |
---|---|---|
健康保険・厚生年金保険新規適用届 | すべての法人等 | 事実発生から5日以内 |
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 | ||
健康保険被扶養者(異動)届 | 役員・従業員に対象となる家族がいる場合 | |
国民年金第 3 号被保険者届 |
注意点
ま「税務・労務でも法人成りは注意しないといけないことがあるの」
よ「どんなこと?」
個人事業の廃業の手続きを忘れずに
ま「1つ目は『個人事業の廃業の手続きも忘れずに』ってことだね」
よ「そうか。個人事業でもあちこちの役所で手続しているもんね」
ま「そう。だから会社設立と並行して次の手続きもしておかないといけない」
【税務署】
- 個人事業の開業・廃業等届出書
- 所得税の青色申告の取りやめ届出書
- 消費税の事業廃止届出書の提出
- 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書の提出
【都道府県税事務所】
- 個人事業税の事業廃止届出書
【労働基準監督署】
- 確定保険料申告書
- 労働保険料還付請求書(概算保険料額が確定保険料額より多いとき)
【公共職業安定所】
- 雇用保険適用事業所廃止届
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 雇用保険被保険者離職証明書
よ「これ以外にも健康保険や厚生年金に加入しているケースとかあるんじゃない?」
ま「常時5人以上の従業員が働いている店舗や事務所を経営している個人事業主のことね。確かに、年金事務所で廃止の手続きが必要よ」
固定資産の引き渡しに注意
ま「法人成りは、個人事業主のときのの固定資産を会社に引き渡すことがあるんだけど」
よ「確かに」
ま「現物出資や売却、贈与や賃貸になると思うけど、個人への課税は意識しておいた方がいい」
よ「出資や贈与でも?」
ま「譲渡所得が発生するのよね。所得税と個人住民税が課税されるの。出資は取得株式や出資持分で、贈与は贈与時の時価が売った金額とされる」
よ「じゃあ賃貸は…」
ま「賃貸は賃貸料収入が事業所得や不動産所得、雑所得として課税されるよ」
よ「法人成りは事前にいろいろ確認しておいた方がよさそうだね」
ABOUT執筆者紹介
行政書士 鈴木良洋
1974年生まれ。1996年行政書士試験合格、1998年中央大学法学部政治学科卒業。2002年行政書士登録。建設業、司法書士事務所、行政事務所勤務を経て2004年独立開業。20年超、外国人の在留手続を専門に外国人の起業・経営支援を行う。これまでの取扱件数4000件超。元ドリームゲートアドバイザー。
ABOUT執筆者紹介
税理士 鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒。ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。ZUU online、マネーの達人、朝日新聞『相続会議』、KaikeiZine、納税通信などで税務・会計の記事を多数執筆。著書に『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、共著)。