09 November

本当のところは税務調査は怖くない?質問検査権は何かを理解しよう!

掲載日:2022年11月09日   
税務ニュース

本当の税務調査が怖くない理由

強権的な税務調査。このような言葉を聞いたことがあると思いますが、税務調査は国家権力を背景に、高圧的な国税調査官が、皆様の命の次に大事なお金を奪っていくものです。税務調査にはこのようなイメージが大変強いため、税務調査を大変怖がっておられる方が多いという印象があります。

私のクライアントで、非常に気難しい方がいらっしゃいました。その社長、仕入れ先などの取引先はもちろん、税理士に対する要求も相当に大きく、不手際があれば即怒号をあびせる方でしたので、月次試算表の報告などの際は、税理士である私も非常に緊張するような方でした。このような方でさえ、「ウチの会社の税務調査は、本当に大丈夫なんですかね?」と、非常に心配しながら毎月の巡回の際は必ず聞く始末で、如何に納税者にとって税務調査が怖いものなのか、痛感させられました。

しかしながら、税務調査を法律的に考えると、税務調査は全く怖いものではないことが分かります。というのも、税務調査の主導権は税務署にはないとされているからです。誰にあるかと言えば、私たち納税者にあるのです。なぜなら、税務調査は納税者の承諾を前提とした任意調査と言われるものだからです。任意調査というのは、刑事事件で皆様が思うような強権的な捜査とは一線を画すものです。イメージしやすいように申し上げますと、「税務調査をさせてください」と税務署の方が頭を下げて、 納税者がそれに許可をし、調査をさせてあげている、というのが法律の建前なのです。

任意調査と強制調査の違い

とはいえ、真っ黒なスーツを着た恐ろしい税務署の調査官が捜査に来た、といったニュースもあります。このため、やはり税務調査は怖い、と反論される方もいますが、このような税務調査のほとんどはマルサ(国税局査察部)が実行している調査になります。マルサは脱税を追う国税の部署で、脱税は犯罪行為ですから、特別な部署です。特別な部署だからこそ、国税組織の中でも特殊な部署で、彼らには任意調査にとどまらず、強制調査という権限も付与されています。

強制調査は任意調査と真逆で、多くの方がイメージする怖い税務調査そのものです。具体的には、裁判所から令状を取ったうえで、その令状に基づき、納税者を拘束したり、納税者の資料を押収したりすることが強制調査では認められます。非常に強硬的な捜査だからこそ裁判所の許可が必要ですし、このような捜査を受ける方に対しても、国家権力の圧力に屈して、本位でないことを自供させられる不利益を受けないようにするため、「黙秘権」と言われる権利なども認められます。まさに、刑事ドラマで取り上げられる捜査が強制調査であり、それを担っているのがマルサという部署なのです。

一方で、マルサが入るとなると、多額の脱税をしている納税者の調査であることが通例です。言い換えれば、脱税のような不正行為をしていない、大多数の納税者に対しては任意調査である税務調査が実施されます。このため、大多数の税務調査において主導権は納税者にあり、税務署は下の立場ですから、怖い思いをする必要は全くないということになります。

質問検査権の行使には「承諾」が必要

この点について、質問検査権という税務調査の権限を考えてみるとよく分かります。税法では、税務署の国税調査官の権限として、調査先の税金計算に関する資料を見たりその資料を提出させたり、税金計算に関する事項のヒアリングをしたりする権利が認められています。この権限を質問検査権と言いますが、その権利は納税者の「承諾」を得て行使することが当然であるという前提で作られています。この前提が条文には明確には書いていないため間違える方も多いのですが、これは紛れもない事実です。実際のところ、税務署では調査をする際、「きちんと納税者の方の承諾を得て調査を進めなさい」と国税調査官に厳しく指導されています。

このような建前を申し上げると、そうはいっても偉そうな調査官がプレッシャーをかけてきて、見られたくない個人的なメールなども見られた、といった話を耳にします。実は、この「承諾」には盲点があります。それは、承諾を受ければ、国税調査官は何をやってもいい、ということです。個人的なメールは税金計算にも関係ありませんし、他人に見られたくはないものですが、「見てもいいです」と承諾をしてしまうと、国税調査官はそれを見ても問題ないとされます。

「承諾」についての注意点

もう一つ。これは注意点ですが、承諾が必要になる、とはいっても、承諾をしなければならない場合があります。それは、税金計算に関する資料を見せたり、税金計算に関する質問に答えたりすることです。これらは、先に述べた税務署の質問検査権の範囲内ですから、それを承諾しないと税務署の権利を侵害することになり、後ほど本当にとんでもない目に合います。

このため、承諾すべき範囲をきちんと理解すること。それが税務調査では必要になるのです。

ABOUT執筆者紹介

元国税調査官・税理士 松嶋洋

昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。

著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。

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