10 November

非農家から年商1000万円以上をめざす新規就農に必要なものは?

掲載日:2025年11月10日   
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コロナ禍をきっかけに地方移住が注目を集める中、新規就農に興味を持つ若い世代の人が増えています。最近ではお米や野菜などの農産物の高騰が続き、「自分でも野菜を作ってみたい」「農業を始めてみたい」という声は日増しに高まっていると感じます。

私は今から15年前の2010年に新規就農しました。フリーライターの活動と並行して農地を少しずつ増やし、現在では農業収入のみでコンスタントに年間1000万円以上を売り上げています。新規就農後は、自身が所属する組合の加入者獲得に乗り出し、非農家出身の就農希望者を受け入れてきました。今ではさまざまなキャリアを持つ40~60代の方が、自分らしい人生を謳歌しつつ、農業でそれなりの収入を得ています。

今回はこうした私の過去の経験から「新規就農に必要なもの」について考えてみたいと思います。これから就農を目指す方、今まさに就農準備を進めている方、まだ始めたばかりの新規就農者の方は、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。

新規就農者には大きく3つの種類がある

新規就農に必要なものを考えるうえで重要なポイントとなるのが、ひとくくりに「新規就農者」と言っても、人によって大きく前提条件が異なるということです。これをきちんと理解しておかないと、就農前後で思わぬ苦労を強いられることになります。

新規就農には、「①農家の親元に戻って農業を始めるケース(親元就農)」と「全くの新規で農業を始めるケース」の2つがあります。そして後者の「全くの新規で農業を始めるケース」には、さらに「②元々実家が農家だったケース(実家が農家)」と「③実家が農家ではないケース(実家が非農家)」の2つがあります。

そして、これら3つのケースのそれぞれの難易度は、ざっと以下のような感じになります。

①親元就農

難易度:とてもやさしい

②新規就農(実家が農家)

難易度:やさしい

③新規就農(実家が非農家)

難易度:とても難しい

一般の人が考える新規就農(≒農業での起業)はおそらく③だと思いますが、メディアなどで取り上げられる新規就農者は、①②も一緒に語られることが多いです。

「①親元就農」の場合、その実態は「親からの事業承継」です。土地や農機具を譲り受け、栽培や経営のノウハウまで身近な経営者(親)から学べる状況にあるため、農業を始めるにはとても有利な条件が整っています。

「②実家が元農家」の場合も、まだ手放していない農地や資材が残っており、それらを活用できるケースが多いでしょう。地域の農家との繋がりも維持されていて、「●●さんの息子なら土地を貸してやろう」といった具合に、規模拡大を図るための農地の確保などもしやすい環境にあります。

その一方で、「③実家が非農家」の場合は、このような後ろ盾が全くない状況からのスタートになります。農地や資材の確保からノウハウの習得、さらには地域とのネットワークの構築に至るまで、すべてゼロから始める必要があり、それなりの覚悟と根性が必要です。

新規就農者のイキイキとした姿がメディアで紹介され、それを見て「自分もやってみたい!」と考えている人も多いかもしれません。そんな人はぜひ「テレビやネットで見た理想の人」が①~③のどれに当てはまるかを今一度確認してみてください。自分がもし非農家からの新規就農であるにも関わらず、①の人をロールモデルに考えているとしたら、同じ道を辿るのは最初から「無理ゲー」である可能性があるので要注意です。

③新規就農(実家が非農家)で農業を始めるために必要なこと

ここまで見てきたように、新規就農は①~③で難易度が大きく異なり、最も難しいのが③になります。そこでここからは、私が辿ってきた③の就農に必要なものについて深掘りしてみようと思います。

栽培技術の習得

就農するうえでまず必要となるのが、栽培技術・ノウハウの習得です。今はYouTubeなどの便利なツールがあり、ある程度のことは動画で習得できる時代ですが、それだけで就農のために十分な技術を身に付けるのは不可能です。自治体などが運営する研修機関、地域を代表する大規模農家・農業法人などで一定期間学び、部会などの生産者組織に属する形で就農する流れが一般的ですし、個人的にもお勧めです。

パソコンやスマホの操作に疎い高齢農家のノウハウは、そもそもネットに出回ることはありません。また、ネット動画の収益源となる再生回数を稼げるのは、もっぱら一般人の家庭菜園向けであることが多く、本気のプロ農家が使うニッチなノウハウは、基本的にYouTubeなどでは得られないと考えた方が良いでしょう。

しかも、農業は本来、その地域の土壌・気象条件・風土などに基づいて最適化されており、一般化するのが難しいものです。まずは地域の農家に学び、その技術を吸収する。古臭く感じる人もいるかもしれませんが、人脈を作るという意味でもこのルートを辿ることが、結果的には就農の近道になると思います。

部会などの組織に属さず、ネットなどを活用して自分の力で野菜を販売することを考えている人もいるかもしれませんが、実はこれは、新規就農者が失敗する時の典型例の一つです。私は県の職員などと新規就農者の実態について話す機会もありますが、「こだわりの有機栽培をネットで売る」と意気込んで就農してきた人が、補助金を得ているにも関わらずある日突然消える――。そんなケースをたびたび耳にしてきました。

農業において最も難しいのは「販売」です。極端な話、野菜などを作ることだけなら、趣味で家庭菜園をしている人でもできてしまいます。問題なのは、利益を出せるだけの価格で販売すること。上記のように「自分で売る」のは、異業種で培ってきた販売力、営業力などに相当な自信のある人でないとかなり厳しいと考えた方がいいと思います。

私の周りには、最初のうちは自分で売り先を探して販売しようと考えていたけれど、結果的に部会に所属することに決めた人が結構います。それだけ個人で売るのは難しい。あえて挑戦するのであれば、就農の前段階から綿密に販売戦略を練っておくことをお勧めします。

農地の確保

農業を始めるうえで、おそらく最も高いハードルとなるのが「農地の確保」です。そもそも農地の取り扱いは、売買だけでなく賃借も含めて農地法で厳しく制限されており、農家の資格を持っていない人はどちらも不可能です。このことが、前述の①②の人と、③の人とで就農の難易度が大きく異なる一番の要因になっています。

まずは農地を借りる資格を得なければなりません。行政の窓口に足を運んで相談することになると思いますが、いきなり許可が下りることは100%ありません。僕が就農を考え始めた時も、最初は全く相手にしてもらえませんでした。最初は「そんなものだ」と割り切った方がいいです。ここで心が折れるようであればおそらく③の就農は無理なので、ある意味、就農に向けた覚悟ができているかどうかの「踏み絵」ともいえるかもしれません。

その後、自治体が主催する研修や、地元農家での見習いなどを経て、行政の担当者や農業委員会などに認めてもらうことができれば、晴れて「農地を手にする条件が整った」ということになります。

ただ、これはあくまで「農地を手にする条件が整った」だけであり、実際に農地を確保できたわけではありません。農地を購入する手段もありますが、相当な初期費用が掛かります。そこで「農地を借りる」という選択を取るのが一般的ですが、ここにも大きなハードルがあります。

まだ農業も始めていない人に、好き好んで自分の農地を貸し出す人は多くはありません。当たり前の話ですが、同じ地域には経験豊富な既存の農家がいるわけで、こうした先輩農家を差し置いて好条件の農地を借りるのは、農家の資格を得ること以上に大変なことなのです。

私の場合は、地域の農家が集まる組合に所属する形で就農したため、その紹介でたまたま離農するタイミングだった方から農地を借り受けることができました。ただ、その後は、なかなかいい条件の土地が見つからず、規模拡大を図ることができませんでした。そこで、「好条件の農地を借りたい」というこだわりを捨て、地域の耕作放棄地を積極的に借りるようにしました。

耕作放棄地を畑に戻すのは想像以上に大変ですが、若くて体力のある人であれば、地域の人たちから喜ばれますし、次の農地を紹介してもらうことにもつながるのでお勧めです。自治体の担当者も困っているケースが多いので、「耕作放棄地を借りたい」と言えば紹介してもらえることもあると思います。

資金の確保

農業は相応の資金が必要です。頭に入れておきたいのは主に2点。「初期費用として大きな金額が必要なこと」と「お金の流れを把握しておくこと」です。

農業を始める際には、作物に応じて大型の農機具やビニールハウス、倉庫などが必要になります。少なく見積もっても数百万、場合によっては数千万円から億単位の初期費用がかかるのが一般的です。特に若い世代の人は「初期費用をどう捻出するか?」が課題になることが多く、補助金や融資をうまく活用しながら資金を調達することになると思います。

農業は、ざっくり言うと「巨額の初期投資額をいかに回収していくか」を考えるビジネスです。短期で利益を上げるのは難しく、長い時間をかけて投資分を回収していく。これが一般的な流れになります。私が運営するnoteには、「もうじき60歳になるけれど今から本格的に農業を始めたい」といった趣旨の相談が来ることがありますが、私はご高齢の方の就農はあまりお勧めしていません。それは前述の通り、農業はビジネスの仕組み上、「長期間で元を取る構造」にあるため、高齢になってから大規模に始めると、元を取る前に離農のタイミングが来てしまう可能性が高いからです。趣味として割り切るのであれば問題ありませんが、ビジネスとしては「退職金を投入したけれど赤字に終わった」といった結果になりがち。そのため、「今から農業を始めてどれぐらい続けられるのか」は、初期投資額を考えるうえでとても重要なポイントになると思います。

ちなみに新規就農時には、お得な補助金が色々と用意されています。代表格ともいえるのが「就農準備資金・経営開始資金(旧農業次世代人材投資事業)」です。

ただ、この補助金を受けられるのは、独立・就農時に49歳以下であること。この点を勘案すると、③のケースで本気の大規模農家を目指すのであれば、45歳がタイムリミットと考えるのが妥当かもしれません。それ以上の年齢で③の新規就農を目指すのであれば、自己資金で始められる小さな農業、ニッチな作物などを選んで独自に販路を開拓し、将来的には年金+αの副収入(+自給自足)を目指すスタイルを志向するのがベターだと思います。

私は新規就農者を受け入れながら「農業次世代人材投資事業」の申請などにも関わっていますが、「年々認定される条件が厳しくなっている」というのが正直な感覚です。もちろん自治体ごとに事情は異なると思いますが、不正受給などに対する世間の目も厳しくなっていますし、よほど丁寧に事前準備を進めない限り、受理されるのは難しくなっていくだろうと見ています。

もし「数年後に補助金を使って就農しよう」と考えている人がいたとしたら、「早めに進めた方がいいかもしれない」とアドバイスしたいと思います。ただ、補助金はあくまで「補助」であり、十分な自己資金を用意しておくという起業の大前提は忘れないでほしいと思います。

以上、ざっくりとですが、僕がこれまで非農家から就農して15年歩んできた経験から、「新規就農に必要なこと」をまとめてみました。細かい部分では言い足りないことがたくさんありますので、また別の機会があればさらに詳しく書いてみたいと思います。自身のnoteでも色々と書いていますのでご興味のある方はそちらも覗いてみてください。「これから農業をしてみたい」という新規就農希望の方に少しでも役立てていただけたら幸いです。

ABOUT執筆者紹介

ひらっち

note

大学を卒業後、ブラック企業で営業職を経験。その後、ほぼ未経験からフリーライターとして独立、さらに数年後、非農家から新規就農を果たし、現在はライターと農家の二刀流を実践中。2級FP技能士・APF、認定農業者。農業情報サイト『マイナビ農業』などで執筆するほか、自身のnoteでも「農業」「フリーランス」「お金」などをテーマに情報発信している。

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