経営相談の現場から[シリーズ第17回]契約を取りたい!BtoBサービスの商談の勘所
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筆者は経営コンサルタントとして、日々経営者の方々のお悩みを伺っています。このシリーズは「経営相談の現場から」というテーマで、中小企業経営者や個人事業主の方から実際にあったご相談内容を取り上げます。
今回は、企業のマーケティング活動を支援するP社長の、営業に関するお悩みを取り上げます。
BtoBサービスの商談は難しい
P社長 「昨年、ホームページ制作会社を創業しました。今はホームページ制作だけでなく市場調査や商品企画も請け負って、企業のマーケティング活動を幅広く支援しています。」
筆 者 「お客様のご要望に応じて柔軟にサービスの幅を広げておられるのですね。」
P社長 「『マーケティングに関することなら何でもやります』という気概で頑張っています。でも私は商談が苦手で、なかなか契約が取れません。特に、ご紹介もない初対面の企業様とはうまく会話をつなげなくて。コミュニケーションスキルの問題でしょうか。」
筆 者 「コミュニケーションスキルに関わらず、BtoBサービスの商談は難しいものですよ。」
BtoBサービスの商談が難しい理由
P社長 「BtoBサービスの商談は難しいって、どういうことですか?」
筆 者 「物販であればご注文通りの品を納品すれば良いのですが、BtoBサービスの場合、お客様のご依頼を言葉通りに受け止めて対応するだけではご満足いただけないことが多々あるからです。例えば『ホームページを刷新してほしい』というお問い合わせがあったら、P社長はどんな商談を進めますか?」
P社長 「そのご依頼について詳しく伺います。『今のホームページはどんな状態か』『どこを直したいか』など。」
筆 者 「そうですよね。でもお客様は、自社が抱える問題を言葉にできていないことが多いんです。例えば、売上が落ちたからとりあえずホームページの刷新を、とお考えになったとします。その場合、ホームページのどこが悪いのか、お客様は把握していらっしゃるでしょうか。」
P社長 「どこが悪いのかは分かっていないことが多いでしょうね・・・。そうだとするとお客様に『どこを直したいか』と聞いても、答えられませんよね。」
筆 者 「それに、もしかしたらそもそもホームページは売上が落ちたことと無関係かもしれません。」
P社長 「もしそうなら、お客様の言葉通りにホームページを刷新してもご満足いただけないですね。だけど、それはこちらのせいではないでしょう?」
筆 者 「もちろんP社長のせいではありません。ですがもし、お客様が抱える問題は何か、その解決策は何なのか、一緒に考えて寄り添ってくれる会社があったら、お客様はそういう会社に頼みたいと思うのではないでしょうか。」
P社長 「BtoBサービスの商談ではそこまで求められるということですね。たしかに単純なセールスとは違う、高度な商談です・・・。」

BtoBサービスの商談は「提案型営業」
筆 者 「BtoBサービスの商談は、まずお客様が抱えている“真の”問題をしっかり聞き出して、その問題に対応するオーダーメイドのサービスを提案する、という流れが基本です。これは『提案型営業(ソリューション営業)』と呼ばれる営業方法です。」
P社長 「提案型営業という言葉は聞いたことがあります。でも私がやっている商談は提案型とは呼べませんね、お客様のご状況も聞かずにいきなりサービスラインナップと価格表の説明をしていました・・・。」
筆 者 「提案型営業は、コンサルティングやシステム開発などの商談で取り入れられるスタイルです。お客様によって抱える問題が異なる場合に適しています。P社長がご提供するマーケティング支援サービスも、提案型営業のスタイルを取り入れるのが良さそうです。」
P社長 「具体的にはどんなふうに商談を進めれば良いのでしょうか。」
筆 者 「訪問を2回に分けましょう。1回目の訪問はヒアリングに徹して、2回目の訪問で商談をすると良いですよ。」
BtoBサービスの商談の基本 ~1回目は「ヒアリング」、2回目に「商談」~
P社長 「最初の訪問はヒアリングに徹するのですか?サービスのご説明や金額のご提示はしないということですか?」
筆 者 「はい。最初の訪問はヒアリングだけにして『今日のお話を踏まえて後日ご提案をお持ちします』と言って一旦おいとまして、後日改めて商談に伺うと良いですよ。」
P社長 「どうしてその場でサービスの説明をしないのですか?」
筆 者 「ご提案するサービスは、お客様が抱える問題に応じてオーダーメイドで整えたいからです。既存のサービスをそのまま提案できる場合でも、お客様の問題の解決策になるという因果関係をつないでご提示したいからです。そういう提案資料を準備する時間が必要なので、商談は日を改めることになります。」
お客様が抱える問題を聞き出す会話のコツ
P社長 「『初回訪問はお客様の問題をつかむヒアリングに徹する』。今後、やってみようと思います。例えばお客様が『ホームページを刷新してほしい』等といった具体的なご要望を仰っていても、そのご要望の裏にある問題を聞き出す、ということですね。」
筆 者 「その通りです。ご要望のホームページ刷新を具体的に詰めるのは、ちょっとだけ横に置いておきましょう。」
P社長 「どんな会話をすれば、その言葉の裏にある“真の”問題を聞き出せるのでしょうか。」
筆 者 「例えば、具体的なご要望については『かしこまりました』と受け止めた上で、『参考までに、それをする背景、理由をお聞かせいただけますか?』等と話を広げる聞き方がありますよ。」

P社長 「なるほど。でも、初対面の私に会社の事情を簡単に話してもらえるでしょうか。」
筆 者 「初対面でもたくさん話していただくには会話のコツが必要ですよね。コツは2つあります。」
お客様にたくさん話していただくコツ
コツ① オープンクエスチョンで質問しましょう
「はい」「いいえ」で答えられる質問ではなく、「なぜ」「どんな」「何が」等を問い、お客様にできるだけ自由に話していただける形で質問しましょう。
コツ② お客様の事業に、心からの関心とリスペクトを示しましょう
「仕事だから聞いている」ということではなく、「自分個人があなたの話をぜひ聞きたいのです」という姿勢を、声や表情に大いに表わして質問をしましょう。
P社長 「2つのコツを意識すれば、今までより上手く対話ができそうです。」
筆 者 「お客様のほうも『初対面の業者さんに、お願いする仕事に直接関係ない話をするのは申し訳ないかな』と遠慮していらっしゃることがあります。こちらがお聞きすれば案外喜んで話していただけることがありますよ。2つのコツを意識しながら、たくさん話していただきましょう。」
商談では、「サービス紹介」ではなく「解決策の提案」を
1回目の訪問でお客様が抱える問題を聞き出せたら、その解決策をオーダーメイドで整えて、後日改めて訪問して提案しましょう。既存のサービスメニューをそのままご提案する場合は、それがお客様の問題の解決策になることを丁寧にお示ししましょう。
BtoBサービスの商談を成功させる勘所は、単純に「サービスを売る」のではなく「お客様が抱える問題の解決」を目的とする姿勢で商談に取り組むことです。その姿勢がお客様に伝われば信頼獲得につながって、よい結果につながるはずです。
ABOUT執筆者紹介
経営コンサルタント 古市今日子
株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士
外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件















