24 November

今年度の最低賃金は平均6.3%の引き上げに。最低賃金の基礎から実務上の注意点まで解説

掲載日:2025年11月24日   
社会保険ワンポイントコラム

2025年度の地域別最低賃金は全国加重平均で1,121円となり、ついに全都道府県で1,000円を上回ることとなりました。新しい最低賃金は10月から順次適用されていますが、対応・対応準備は済んでいるでしょうか。最低賃金の引き上げは、人件費の増加に繋がるため企業経営に大きな影響を与える上に、適切な対応を怠れば法令違反のリスクも生じます。

そこで今回は、最低賃金の基礎知識から、実務で見落としがちな注意点を解説します。

最低賃金の基礎知識

最低賃金とは、給与1時間当たりの最低額を定めたものです。都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業ごとに定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があり、決められた金額以上の支払いが義務付けられています。

皆さんによく知られているのは地域別最低賃金の方です。地域別最低賃金は毎年見直され、10月頃から順次、見直し後の最低賃金が適用されます。今年度は全国的に引き上げ額が大きく、都道府県により適用開始の日も大きく異なるため要注意です。

一方、特定(産業別)最低賃金は、特定の産業でのみ定められています。こちらはニュースなどでもあまり話題になりませんが、自社の事業が対象産業に含まれているか、1度確認することを推奨します。

なお、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金のどちらも適用される事業場では、金額の高い方が優先的に適用されます。

【参考】

最新の地域別最低賃金
最新の特定(産業別)最低賃金

地域別最低賃金の実務上の注意点

ここからは、地域別最低賃金に関する実務上の注意点を解説します。

複数拠点ある場合の最低賃金

地域別最低賃金は事業所の所属する都道府県のものが適用されます。例えば、本社が東京、支社が大阪にある場合、東京本社所属の従業員には東京の最低賃金が、大阪支社所属の従業員には大阪の最低賃金が適用されることになります。他都道府県にある店舗へのヘルプや出張などで日によって働く都道府県が異なる場合も、元々どこの事業場に所属しているかで判断します。「事業場ごと」「本人の所属」がポイントです。

近年ではテレワークを導入する企業も増えましたが、テレワークの場合にも「その従業員が所属する事業場があるのはどこか」で判断します。東京の企業で、沖縄在住の人をテレワークのみの働き方で雇用した場合、適用されるのは東京の最低賃金です。

月給制の場合の最低賃金の確認方法

最低賃金は時給でしか定められていません。そのため、月給制の場合には次の式で時間単価を計算し、最低賃金以上かどうかを確認します。

月給 ÷ 1か月平均所定労働時間※ ≧ 最低賃金
※1か月平均所定労働時間 = 1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間÷12

先ほどの式の「月給」には、含んではいけないものがあります(下表左列参照)。手当の名称が一致していなくても、同じ目的の手当であれば除外対象ですので、計算時には気をつけましょう。

もう1つ注意したいのが、割増賃金の時間単価とは異なる点です。割増賃金の時間単価を出すときにも、先ほどの計算式と同じで「月給 ÷ 1か月平均所定労働時間」を使います。しかし、「月給」から除外するものが異なります(下表下線部参照)。

時間単価の計算において月給から除外するもの

最低賃金 割増賃金
臨時に支払われる賃金(例:結婚手当)
1か月超ごとに支払われる賃金(例:賞与)
家族手当
通勤手当
精皆勤手当
時間外・休日・深夜労働に支払われる賃金
臨時に支払われる賃金(例:結婚手当)
1か月超ごとに支払われる賃金(例:賞与)
家族手当
通勤手当
別居手当
子女教育手当
住宅手当

給与計算システムなどで従業員ごとの時間単価を自動で算出してくれるものもありますが、その時間単価を見て最低賃金以上かを確認するのは危険です。どの手当が含まれているのか、最低賃金用なのか割増賃金用なのかは、明確にしておくことを推奨します。

扶養範囲内で働く従業員への影響

パート・アルバイトなど扶養の範囲内での働き方を希望する方にとって、最低賃金と共に時給が引き上げられれば、働き方の見直しを検討する方もいるでしょう。扶養の範囲内の基準となる各年収の壁も、2025年12月以降、引き上げ、ないしは撤廃が予定されています。改正内容を確認するとともに、今後の働き方のシミュレーションや対象従業員との面談などの対応が求められます。

社内の賃金バランスの検討

法令遵守のために最低賃金ラインの従業員の賃金だけを毎年引き上げていくと、等級や能力に応じた適切な賃金差を維持できなくなっていきます。賃金差がなくなっていくと、当然、社内のモチベーションの低下や会社不信、ひいては離職に繋がるリスクもあります。良好な組織を保つためには、最低賃金の引き上げ対応に留まらず、社内全体の賃上げ(毎年一定の人件費増加)や賃金制度をはじめとする人事制度全般の見直しの計画が企業に求められているとも言えます。

求人広告の賃金の見直し

意外と忘れがちなのが求人広告の記載です。求人広告は応募者に限らず多くの人が目にする機会があるものです。最低賃金は労働者の関心も大きく、古い最低賃金に準拠したままの賃金が記載されていると「法令を守っていない企業」「きちんとしていない企業」とのイメージを持たれるおそれがあります。特に、新しい最低賃金の適用日をまたいで求人広告を出している場合には、忘れずに記載を確認しましょう。

ABOUT執筆者紹介

内川真彩美

いろどり社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士 / 両立支援コーディネーター

成蹊大学法学部卒業。大学在学中は、外国人やパートタイマーの労働問題を研究し、卒業以降も、誰もが生き生きと働ける仕組みへの関心を持ち続ける。大学卒業後は約8年半、IT企業にてシステムエンジニアとしてシステム開発に従事。その中で、「自分らしく働くこと」について改めて深く考えさせられ、「働き方」のプロである社会保険労務士を目指し、今に至る。前職での経験を活かし、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方のための制度設計はもちろん、誰もが個性を発揮できるような組織作りにも積極的に取り組んでいる。

 
原稿提供元株式会社ブレインコンサルティングオフィス「かいけつ!人事労務」

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