【夏のボーナス支給】社会保険料が不要になる「標準賞与額の上限額」とは
社会保険ワンポイントコラム
社員に賞与を支給した場合、必ずしも賞与の全額に社会保険料がかかるとは限らない。保険料計算の基になる標準賞与額には、保険料賦課の限度を定める「上限額」があるからである。今回はこの点を整理しよう。
厚生年金は「暦月で150万円」が上限
企業が社員に賞与を支給した場合、賞与にかかる厚生年金や健康保険の保険料は、支給額の1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に保険料率を乗じて決定される。ただし、標準賞与額には上限額が定められている。
厚生年金の場合、標準賞与額の上限額は150万円である。仮に、200万円の賞与が支給されても標準賞与額は150万円とされ、この額を基礎に保険料額が決定される。つまり、150万円を超過する部分には保険料がかからないわけである。
なお、賞与が同一月に複数回支給された場合には、標準賞与額の上限額は賞与を支給するたびに適用されるのではなく、1カ月の総支給額に対して適用される。
例えば、7月10日に100万円、同月30日に100万円の賞与が支給されたとする。このケースでは、1回の賞与支給額はいずれも、標準賞与額の上限額に満たない金額である。
しかしながら、上限額は1カ月の総支給額に対して適用されるので、7月に支給された賞与の総額200万円について、標準賞与額を150万円と決定することになる。その結果、賞与の総支給額のうち150万円にのみ保険料がかかり、残りの50万円には保険料がかからないのである。
健康保険は「年度で573万円」が上限
健康保険の標準賞与額の上限額は、4月1日から翌年3月31日までを対象とした1年度間の標準賞与額の累計額について、573万円と定められている。
仮に、7月に300万円、同年12月に300万円の賞与が支給されたとすると、年度の標準賞与額の累計は600万円になる。この場合には、上限額573万円が適用されるため、573万円を上回る金額には保険料がかからない。ただし、健康保険の標準賞与額の上限額は、加入する保険者単位で適用される。
例えば、転職などにより、加入する健康保険の保険者が賞与の支給ごとに異なるとする。この場合には、標準賞与額の累計は加入する保険者ごとに、別々に計算することになる。
そのため、仮に1年度間の標準賞与額の総累計額が573万円を超過したとしても、保険者ごとに計算した累計額が、それぞれ573万円を超えなければ上限額の適用はないため、標準賞与額の全額に保険料がかかることになるのである。
保険料を徴収しなくても記載が必要な『賞与支払届』
最後に、手続き上のポイントを見てみよう。
健康保険では「保険料の徴収対象外の賞与」も年度の累計額に含むため、当該賞与を支給した場合にも、『健康保険・厚生年金保険 被保険者賞与支払届』に記入して届け出なければならい。従って、資格喪失月に支給した賞与で支給日が退職日以前のケース、産前産後休業・育児休業の保険料免除中に賞与を支給したケースでも、忘れずに届に記載したい。
また、転職・転勤などにより、同一年度中に異なる職場で賞与支給があった場合には、「全ての職場で健康保険の保険者が同じである」「1年度間の標準賞与額を合算すると、573万円を超える」という2つの条件を満たすと、『健康保険標準賞与額累計申出書』の提出が必要となる。この届を提出しないと、標準賞与額の訂正手続きが正しく行われないため注意したい。ただし、年度を通して同じ職場で勤務する社員が上限額を超えた場合には、本届の提出は不要である。
なお、健康保険組合に加入している場合には、手続きが若干、異なるケースもあるようである。保険者にも確認を入れながら、適切な手続きを進めていただきたい。
ABOUT執筆者紹介
大須賀信敬
コンサルティングハウス プライオ 代表
(組織人事コンサルタント/中小企業診断士・特定社会保険労務士)
中小企業の経営支援団体にて各種マネジメント業務に従事した後、組織運営及び人的資源管理のコンサルティングを行う中小企業診断士・社会保険労務士事務所「コンサルティングハウス プライオ」を設立。『気持ちよく働ける活性化された組織づくり』(Create the Activated Organization)に貢献することを事業理念とし、組織人事コンサルタントとして大手企業から小規模企業までさまざまな企業・組織の「ヒトにかかわる経営課題解決」に取り組んでいる。一般社団法人東京都中小企業診断士協会及び千葉県社会保険労務士会会員。
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