19 June

業務に必要なシステムを現場の人間が自分で手軽に開発できる「kintone」

掲載日:2023年06月19日   
IT・ガジェット情報

業務を紙やエクセルで進めていると効率が悪いうえにトラブルも発生しやすい

今や業務にデジタルツールは欠かせません。メールやビジネスチャット、経理ソフト、給与計算ソフト、販売管理ソフトなどを日々活用していることでしょう。しかし、どんな会社にも、もっと細かい業務がたくさんあります。細かい業務のためにコストをかけた大きなシステムを導入することはできません。そもそも、独自のニーズに対応する製品がないことも多いでしょう。

そのため、独自の申請書や稟議書、在庫管理票、台帳、依頼書などが跋扈します。複写伝票で各課を回り、管理する際はファイリングし、棚にしまいますが、スペースはどんどん圧迫され、しかも再活用されることはほぼありません。やり取りに時間がかかり、簡単な決済に数日かかることもあります。業務フローがどこまで進んでいるかわからず、途中で紙が紛失したらやり直しです。SDGsの世の中で、大量の紙を浪費するのももったいないところです。

PCを使える企業であれば、エクセルが活用されてきました。とりあえず情報を書き込み、ファイルをみんなで共有しているのです。現在も、業務でエクセルファイルが飛び交っている職場は多いのではないでしょうか。

現在、業務が回っていると、エクセルを仕事で使うことがどれだけボトルネックになっているのがわかりにくいので、よくある課題を列挙してみましょう。

申請を紙で受け取り、エクセルに手間をかけて転記するのですが、入力ミスも発生します。エクセルから他のソフトに転記する際にも同様の工数とリスクが発生します。エクセルをメールでやり取りする場合、複数のPCにコピーがどんどん作成され、最新のファイルがわからなくなります。

エクセルファイルだとどこかで情報が漏洩してしまう可能性もあります。さらに、巨大なデータを扱っていると、エクセルファイルが破損することもあります。複数のメンバーが同時に作業することもできません。

紙やエクセルを使っている企業は、これらの課題のいくつかに心当たりがあるのではないでしょうか。しかし、人は変わりたくない、という心理が働いています。現状維持バイアスといい、これまでと変わらない不便を当然のように受け入れるのです。しかし、社会は進化し続け、DXを実現しなければ、生き残ることができません。その前段階であるデジタイゼーションとデジタライゼーションは急いで推進する必要があります。

さて、堂々巡りです。会計や給与計算、販売・在庫管理などは、専門のソフトがありますが、細かい業務はどうやってデジタル化すればいいのでしょうか。

必要なシステムは自分で作ってしまえばいいのです。

そんなことができればやってる、と思われるのも当然です。ここでは、情報システム部門にSEやプログラマを雇用して、スクラッチからシステムを自社で構築しましょうと言っているのではありません。ノーコード・ローコードツールを活用しましょう。

紙にまみれていては効率的な業務は見込めません。

 

kintoneで案件管理アプリを構築してみる

近年、ノーコード・ローコードツールが爆発的に普及しています。コードとはプログラムのことで、プログラミングが不要、もしくは少ないプログラミングでシステムを開発できるのが特徴です。つまり、システム開発会社に外注しなくても、自社の従業員がシステムを構築できるのです。

ノーコード・ローコードツールは古くからいろいろリリースされていますが、今回紹介するのはサイボウズの「kintone」です。2011年にローンチされたPaaSのクラウドサービスで、ウェブアプリケーションを簡単に開発できるのが特徴です。

今では、累計2万社が導入し、毎月500社以上のペースで導入が進んでいます。筆者が経営する飲食店でも、kintoneを導入しています。料金が月額1500円/ユーザー(スタンダードコース)と安いので、中小企業向けのサービスと思いがちですが、そんなことはありません。使い方次第で、大企業の業務でも十分使えるポテンシャルを秘めているのです。

例えば、日産やANA、毎日新聞、ソフトバンク、日清食品グループ、メルカリをはじめ、多くの有名企業がkintoneを活用して、業務改善にチャレンジしています。

テレビCMで見かけることも多くなってきた「kintone」。

 

本当に簡単に作れるのか、実際に作ってみましょう。kintoneアプリを作る方法はいろいろ用意されています。一番簡単なのが、今業務で使っているExcelを読み込ませることです。必要な項目がすべて入ったアプリが一発で作成できます。

様々な業種、業務で利用できるテンプレートも用意されており、選ぶだけで即、立派なアプリが完成します。ほかのユーザーが公開しているテンプレートファイルを利用することも可能です。

とは言え、せっかくなのでここでは「はじめから作成」をクリックしてイチから作ってみましょう。

kintoneのアプリ作成画面を開き、「はじめから作成」をクリックします。

 

ビジネスの中核にもなる案件管理アプリを作ります。必要なのは、顧客情報と案件情報です。案件ごとに進捗や確度を確認しながら売り上げを集計できるアプリを作成してみます。

アプリ作成画面で、案件管理に必要なフィールドを左側から右側にドラッグ&ドロップします。会社名が必要なので、まずは「文字列(1行)」フィールドをドロップし、フィールド名を「会社名」にして、「必須項目」にチェックし、「保存」をクリックします。

続けて同じように案件名、金額、確度のフィールドを追加します。案件に対しての活動履歴は、何回も積み重なる可能性があるのでテーブルにします。完成したら、フォームを保存し、アプリを更新すれば使えるようになります。

kintoneのアプリ作成画面です。左側から文字列フィールドをドラッグ&ドロップします。

 

フィールドの設定を行います。

 

他のフィールをも追加し、アプリを更新します。

 

アプリを開き、データを登録してみましょう。このアプリの作成時間は5分もかかっていません。どうですか?

もちろん、このままでは使い物になりません。会社名を毎回手入力するのは非効率ですし、誤入力したら別会社としてカウントされてしまいます。案件名だけでなく、担当者も必要でしょう。そのため、別の「顧客情報」アプリを作成し、会社名や住所、担当者などの情報をマスターとして登録して起き、「案件管理」アプリからはルックアップして、自動入力させると、手間も省けますし、ミスも起きません。

販売する商品も一つだけとは限りません。複数の製品を単価と販売数と共に登録する必要が出てくることもあるでしょう。確度だけでなく、見込み時期も欲しいとか、受注した場合は契約書も保管しておきたいとか、いろいろなニーズがあるでしょう。それもすべて、必要に応じてkintoneアプリに追加していけばいいのです。

シンプルなアプリであれば数分で作成できてしまいます。

 

kintoneだけでなく担当者やプラグインの予算の確保も必要

もちろん、kintoneを契約しさえすれば、会社の課題が夢のように解消できるわけではありません。社員が活用し倒してくれるようなアプリを作るには、いくつものハードルがあります。

思ったよりできないことが多い、というのもよく聞きます。例えば、紙をなくすことはできないので、印刷する必要があるが、kintoneの画面だと見にくい、という課題。顧客にウェブフォームから入力してもらった情報を自動でkintoneに入れたい、という課題。メールや電話での連絡もkintoneで管理したい、という課題などがあります。

確かに、kintone単体では対応できないのですが、多くのkintoneプラグインや連携サービスを使うことで解決できます。kintoneを導入する際は、kintoneだけでなく、プラグインや連携サービスの予算も確保しておきましょう。

kintoneを細かくカスタマイズできる連携サービス「gusuku Customine」。

 

業務で使い物になるアプリを作るまで、何度もトライ&エラーしなければなりません。ハードルに当たったら、ネットで調べたり、サイボウズや関連サービス企業のセミナーに出席したりして情報を収集する必要があります。適当に導入し、皆が片手間で使えるようになるわけではありません。きちんと、kintone担当者を決める必要があります。kintoneに詳しくなりたい、kintoneが好き、という人をアサインすると導入の成功率が高まります。

kintoneはユーザーコミュニティが充実しているのが特徴です。常にどこかでイベントやセミナーが開催されており、最新情報やユーザー事例を勉強できます。

現状維持バイアスは従業員にもあります。そのため、kintoneを導入し、担当者をアサインするだけでなく、経営者も全面的に理解し、トップダウンで担当者をバックアップすることが重要です。放置すると、担当者は従業員と対立して孤立し、潰れてしまうことがあるのです。

kintoneの導入に成功し、売り上げが上がったり、業務改善できたという事例は数多あります。ユニークなのが、kintoneによって社内の雰囲気がよくなったとか、みんなが夢を持てるようになったなど、羨ましいような事例もあります。

これは、社内情報が民主化されて風通しがよくなり、今までは我慢するだけだった課題を自分たちが動けば解決できることがわかったためでしょう。人は感情で動くことが多いですが、kintoneはここにも刺さるのです。

kintoneは試用もできます。経営層と担当者がやる気であれば、まずは触ってみることをお勧めします。サイボウズはサポートがとても充実しているので、存分に質問し、最初のアプリを開発してみましょう。本導入を検討したくなること請け合いです。

ABOUT執筆者紹介

柳谷智宣

ITライター/NPO法人デジタルリテラシー向上機構 代表理事
ホームページ

1998年からIT・ビジネスライターとして執筆活動を行っており、コンシューマからエンタープライズまで幅広い領域を手がけている。2018年からは特定非営利活動法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を立ち上げ、ネット詐欺や誹謗中傷の被害を減らすべく活動している。

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