認定NPO法人のメリットと申請する上での注意点について
税務ニュース
NPO法人にとって寄付金は事業を支える柱となり得るものであり、特に新型コロナウイルスの流行以後はクラウドファンディングやマンスリーサポーターなどで寄付金を募る団体が増加しています。実際に、弊所の顧問先や私が理事を務めるNPO法人でもクラウドファンディング等を実施した団体があります。
認定NPO法人の制度には寄付者に対する税制優遇があるため、認定を受けることでさらに寄付金を集めやすくなることが考えられます。そのため、コロナ禍で認定の取得を検討する団体が増えている印象もあります。認定NPO法人が急激に増加したのは東日本大震災以降であり、2011年度は244団体だったものが2012年度には407団体、2013年度には630団体となりました。
認定を取得し多くの寄付を集め、被災地域の復興の一端を担ったNPO法人も多くあります。その後は年間50団体程度のペースで増加していますが、コロナ禍を経て再び認定NPO法人に注目が集まっていると感じています。
今回は認定NPO法人のメリットや申請する上での注意点などを解説します。
認定NPO法人のメリット
認定NPO法人に対する寄付金には税制優遇の制度が設けられており、認定NPO法人は寄付金を集めやすくなるというメリットがあります。
寄付者が法人の場合は、特定公益増進法人等に対する寄付金として特別損金算入額(税務上の経費に相当する金額)が適用されます。一般の寄付金に比べて損金算入額が大きくなるため、税負担を抑えることにつながります。また、寄付者が個人の場合は所得控除または税額控除を受けることができます。このように法人・個人ともに寄付者の税負担が減少することとなり、寄付をするインセンティブとなります。
そのため、認定NPO法人は広く寄付を集めやすくなり、財政基盤を安定させることに繋がります。また、寄付金を主な収入源とするNPO法人はもちろんですが、事業収入を柱とするNPO法人でも賛助会員やマンスリーサポーターなどから多くの寄付を受けている団体があります。活動に賛同が集まれば事業型のNPO法人でも寄付金を集め認定NPO法人となることは可能です。
認定NPO法人を申請する際の注意点
認定NPO法人となるためにはいくつかの要件が定められていますが、多くの団体で課題となるのがパブリックサポートテスト(PST)です。PSTにはいくつかの基準がありますが、寄付額3,000円以上の寄付者が年間で100人以上であるという「絶対値基準」が主な基準となります。これ以外にも、寄付金額が総収入金額の20%以上であるという「相対値基準」など別の基準もありますが、計算が複雑であるためここでは詳細は割愛します。
認定NPO法人の申請を行うためには、実績判定期間(初めて申請する場合は申請前2年間)においてこれらの基準をクリアしている必要があります。つまり、認定NPOとして認められるためには、申請の時点で一定の寄付が集まっていることが条件とされているのです。認定NPO法人の制度は、広く市民から支えられている団体を税制面から支援するためのものであり、申請の時点から基準を設けているということです。
また、認定NPO法人には運営組織が適正という要件もあるため、事務面でもいくつか注意点があります。まず、認定NPO法人の申請にあたっては、実績判定期間において事業報告書が期限内に提出されていることも要件の1つです。申請を検討されている団体は、事業報告書を必ず期限内に提出するようにしてください。また、認定の審査においては、内部管理体制なども確認されることとなります。
例えば、多くの団体で社員総会や理事会の議事録については議事録署名人を選定して署名すると定款で定められています。ただ、一部のNPO法人では議事録署名人の署名を省略するなど適切な方法で議事録を作成していない事例も見受けられます。総会や理事会の定足数が守られているなど定款に則った運用がされていることはもちろんですが、適切な形で議事録を残すようにする必要があります。
PSTの対象となる寄付金とは
認定NPO法人の申請にあたって寄付金として取り扱われるものは、必ずしも寄付の名目で受け取ったものだけではありません。この典型的な例は賛助会員の会費です。正会員は社員総会の表決権を有しているため、これは対価性があると認められ寄付金として扱うことはできません。一方で賛助会員は表決権を有しておらず、高額な返礼品などがなければ寄付金として取り扱われます。
一方で、寄付金であってもPSTの対象とならないものに、役員やその家族からの寄付があります。認定NPO法人の趣旨の一つに広く市民から支えられているということがありますが、役員等からの寄付は団体の外部からの寄付ではないことからPSTの対象とされていません。申請に際してはこの点をしっかりと理解する必要があります。
まとめ
日本は海外と比べて寄付文化が浸透していないとも言われますが、寄付に支えられ運営しているNPO法人は数多く存在します。多くの寄付を集められる団体の特徴は活動の社会的意義が高いことはもちろんですが、寄付者への情報発信に力を入れていることも挙げられます。寄付は一方的に受け取るものではなく、その寄付がどのように生かされているかを寄付者へフィードバックすることが非常に重要だと感じています。こうした工夫をすることで、寄付者はより活動を理解し、支援するという好循環が生まれます。寄付を集める際には、これらの視点も持って取り組むべきだと思います。
ABOUT執筆者紹介
税理士
1級ファイナンシャルプランニング技能士
金子尚弘
名古屋市内の会計事務所勤務を経て2018年に独立開業。NPOなどの非営利組織やソーシャルビジネスを行う事業者へも積極的に関与している。また、クラウドツールを活用した業務効率化のコンサルティングも行っている。節税よりもキャッシュの安定化を重視し、過度な節税提案ではなく、資金繰りを安定させる目線でのアドバイスに力を入れている。ブログやSNSでの情報発信のほか、中日新聞、日経WOMAN、テレビ朝日(AbemaPrime)などで取材、コメント提供の実績がある。
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