【NPO法人とインボイス制度】対応を考える上でのポイントを解説
税務ニュース
ご存知の方も多いと思いますが、令和5(2023)年10月1日から消費税の適格請求書等保存方式(以下「インボイス制度」)がスタートします。インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者として登録されていない取引先への支払いは仕入税額控除が認められません。(制度導入から6年間は経過措置あり)
NPO法人は消費税の免税事業者も多いため、インボイス制度への対応に苦慮している法人も少なくないでしょう。今回はインボイス制度の概要と適格請求書発行事業者に登録をすべきかの判断材料を整理したいと思います。
特に注意すべきNPO法人
株式会社などの営利企業には税務署からの郵送物や顧問税理士などからインボイス制度について周知が進められているところです。ただ、NPO法人は収益事業課税のため、収益事業を行っておらず基準期間の課税売上高が1000万円以下の団体は法人税・消費税ともに確定申告義務がありません。このような団体は税務署や税理士との接点が少ないため、インボイス制度に関する情報もあまり入っていない可能性があります。
このような収益事業を行っていない小規模のNPO法人にも関わる制度改正ですので、情報を正しく把握して団体としてインボイス制度への対応を検討する必要があります。
インボイス登録すべきかの判断基準
免税事業者であるNPO法人が適格請求書発行事業者へ登録すべきかの判断には、取引の相手先がどのような属性なのかが大きく影響します。具体的には次の表のとおりで、取引先が免税事業者や一般消費者の場合だけでなく、簡易課税を適用している事業者もインボイス制度が仕入税額控除へ与える影響はありません。
つまり、取引先が本則課税の事業者でなければ、適格請求書発行事業者にならなくても相手方への影響はないということになります。
取引先の属性 | 仕入税額控除への影響 |
---|---|
免税事業者・一般消費者 | 影響なし |
簡易課税 | 影響なし |
本則課税 | 仕入税額控除が制限される |
では、免税事業者であるNPO法人はインボイス制度に対してどのように対応すべきなのでしょうか。具体的な事業を例に挙げて検討していきましょう。
福祉事業の場合
生活介護事業や就労支援B型事業では、利用者が生産活動を行い、それを原資として工賃が支払われます。国保連からの収入など障害者総合支援法に基づく活動は消費税が非課税ですが、生産活動から得られる収入は課税取引とされています。
(福祉事業の消費税)
国保連からの収入 | 非課税 |
---|---|
生産活動など | 課税 |
この生産活動ですが、パンや菓子類の製造販売など一般消費者向けのもの以外にも、軽作業の受託など事業者向けの活動を行っている法人も多くあります。前者であればあえて適格請求書発行事業者になる必要性は低いと思いますが、問題は後者のように事業者向けに生産活動を行っている場合です。このような法人は、取引先と相談の上で判断をすることが最善策ではないかと考えています。
福祉事業を営むNPO法人は、収入の大部分が国保連からの収入であり、その多くが免税事業者です。そのため、免税事業者であることを明かした上で相談をしても取引先の信頼を失うようなことは考えにくいでしょう。
適格請求書発行事業者以外の取引先からの仕入税額控除の制限については6年間の経過措置が設けられているため、今後数年間は税込金額を変更せずに取引を継続するという判断になる可能性も考えられます。また、取引先の事業者が簡易課税の適用を受けている場合などは取引条件の変更を求められない可能性もありますので、必ずしも適格請求書発行事業者に登録する必要はないのではないでしょうか。
自治体の委託事業を受託している場合
全国の自治体で清掃業務や自治体の施設の管理など様々な業務を外部委託しており、 NPO法人の中には自治体から業務委託を受けている場合もあります。地方公共団体の予算には一般会計と特別会計があり、それぞれ消費税の取り扱いが異なります。一般会計は売上と仕入の消費税額を同額とみなすという規定があり、インボイス制度の導入後もこの規定は変わりません。つまり、一般会計においては消費税の納税が発生しない仕組みになっており、免税事業者へ業務委託をしても仕入税額控除への影響はありません。一方で特別会計にはこのような特例はないので、免税事業者からの仕入れについてはインボイス制度の影響を受けることになります。
自治体によって一般会計と特別会計の区分は異なる場合もありますが、一般論として次のような区分が多いです。
一般会計 | 広報誌の発行、公共施設の運営、庁舎の使用・運営など |
---|---|
特別会計 | 水道事業、市営バス・地下鉄、公立病院など |
受託事業の予算が一般会計であれば免税事業者であっても自治体の消費税の納税額に影響がないため、あえて適格請求書発行事業者になる必要はないでしょう。一方で、受託事業の予算が特別会計であれば自治体の消費税の納税額に影響するため、適格請求書発行事業者の登録を求められる可能性があります。
団体が受託している事業の予算が一般会計なのか特別会計なのかを把握した上で対応を検討するのが良いのではないでしょうか。
まとめ
インボイス制度への対応を考える上では取引の相手先がどのような属性かが重要なポイントとなります。本記事では福祉事業と自治体からの業務委託を例に挙げましたが、自団体の事業内容や取引先を踏まえて適格請求書発行事業者に登録すべきかの判断を行ってください。
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ABOUT執筆者紹介
税理士
1級ファイナンシャルプランニング技能士
金子尚弘
名古屋市内の会計事務所勤務を経て2018年に独立開業。NPOなどの非営利組織やソーシャルビジネスを行う事業者へも積極的に関与している。また、クラウドツールを活用した業務効率化のコンサルティングも行っている。節税よりもキャッシュの安定化を重視し、過度な節税提案ではなく、資金繰りを安定させる目線でのアドバイスに力を入れている。ブログやSNSでの情報発信のほか、中日新聞、日経WOMAN、テレビ朝日(AbemaPrime)などで取材、コメント提供の実績がある。
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