18 September

産後パパ育休スタートから1年!男性の育児休業取得促進のために会社と男性社員はどのような準備が必要なのか

掲載日:2023年09月18日   
社会保険ワンポイントコラム

令和4年10月から「産後パパ育休」制度が施行され、厚生労働省の「令和4年度雇用均等基本調査」によると、男性の育児休業の取得率はおよそ17%と、過去最高になったそうです。また、政府は、「産後パパ育休」制度を利用した場合でも実質的に手取り収入を確保できるよう給付金の水準を休業前の賃金の80%程度に引き上げる方向で最終調整しています。

国を挙げて男女ともに育児に積極的に参加する環境整備が進められていますが、男性の育児休業取得促進のために会社及び男性社員自身はどのような準備が必要なのでしょうか。

1.「産後パパ育休」とは?

「産後パパ育休」とは、正式には「出生時育児休業」といい、従来の「育児休業」とは別に、子どもが生まれたときに取得できる育児休業です。出産する女性以外の男性(※養子を迎える場合は女性も対象になります。)が、子の出生後8週間以内に、最長4週間(28日)まで取得することができます。

従来の育児休業との違いは次の図のとおりです。

  産後パパ育休 育児休業制度
対象期間
取得可能日数
子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能 原則子が1歳(最長2歳)まで
申出期限 原則休業の2週間前まで 原則1か月前まで
分割取得 分割して2回取得可能
(初めにまとめて申し出ることが必要)
分割して2回取得可能
(取得の際にそれぞれ申出)
休業中の就業 労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能 原則就業不可
1歳以降の延長 延長可能(育休開始日柔軟化により夫婦が育休を途中交代できる)
1歳以降の再取得 特別な事情がある場合に限り再取得可能

なお、「産後パパ育休」も育児休業給付(出生時育児休業給付金)の対象となりますし、労使協定を締結している場合は、休業期間中に就業することも可能となっています。男性からすると、従来の育児休業よりも取得しやすくなっているといえます。

2.「産後パパ育休」制度創設の背景は?

「男女共同参画白書(令和5年版)」によると、日本の男性は、諸外国に比べて有償労働時間(仕事、通勤・通学等の時間)が極端に長く、無償労働時間(家事、介護・育児、ボランティア活動等)が極めて短いことが特徴となっているそうです。このことが我が国の女性の社会での活躍、男性の家庭や地域での活躍を阻害する一因になっていると考えられています。

また、女性に家事・育児等が集中していることが職業生活において女性の活躍が進まない理由であると、女性の8割以上、男性の7~8割が、考えているそうです。

男性は年齢が低いほど、家事・育児参加に関しては抵抗を感じておらず、職場等、周囲の環境を改めることがより必要と考えています。職場・周囲の環境も変わることが求められています。

少子高齢化に伴い労働力人口が減少するなか、出産・育児による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児を両立できる社会を実現するためには、男性の育児休業取得を促進し、女性が出産後も継続的に働ける環境を整備することが必要とされています。

3.「産後パパ育休」で会社・男性社員自身はどのような準備が必要か

「産後パパ育休」導入においては、会社と男性社員の双方が協力して取り組むことが不可欠です。
令和4年4月1日より、「産後パパ育休」の申し出が円滑に行われるようにするため、会社は次のいずれかの措置を講じ、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備をしなければならなくなりました。

  1. 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
  2. 育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
  3. 自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
  4. 自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知

また、本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た従業員に対して、会社は育児休業制度等に関する次の事項の周知と休業の取得意向の確認を、個別に行わなければなりません。

  1. 育児休業・産後パパ育休に関する制度
  2. 育児休業・産後パパ育休の申し出先
  3. 育児休業給付に関すること
  4. 労働者が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会保険料の取り扱い

しかし、いくら「産後パパ育休」制度を導入・案内したとしても、職場での受け入れ態勢が十分でないと、男性の育児休業取得は難しいといえます。

「職場のハラスメントに関する実態調査報告書(令和2年度)」によると、男性が育児休業等のハラスメントを受けた際の行為者として、「上司(役員以外)」(66.4%)が最も多く、次に「会社の幹部(役員)」(34.4%)が多いという結果が出ています。年配の社員からすると、「自分のときはこうではなかった」という思いからハラスメントのような言動になる場合もあるようです。時代が変化していることを認識する必要があるといえます。研修により、育休を取得する男性のみならず、上司、周囲の同僚を対象にした意識改革は必要といえます。

そして、育児休業を取得する男性社員自身も、育児に関する知識を身につけることや、仕事に支障が出ないよう、引継ぎ等を計画的に行うことが必要です。そのためには、上司や同僚とコミュニケーションをはかり、育休前後の連携を円滑に行い、職場と家庭をバランス良く繋げることが肝要です。

「産後パパ育休」制度は、育児と仕事のバランスを取る新たな一歩だといえますが、育児を「手伝う」という意識ではなく、育児を「共に行う」という意識を夫に持ってほしい、という妻側の意見もあるようです。

「産後パパ育休」制度導入の成功には従業員の意識改革が必要ではと思います。「産後パパ育休」を活用することで、世の中の男性の育児に関する認識が変わり、男女共に育児と仕事の両立が実現できる社会になると良いなと切に思います。

ABOUT執筆者紹介

松田法子

社会保険労務士法人SOPHIA 代表

人間尊重の理念に基づき『労使双方が幸せを感じる企業造り』や障害年金請求の支援を行っています。
採用支援、助成金受給のアドバイス、社会保険・労働保険の事務手続き、給与計算のアウトソーシング、就業規則の作成、人事労務相談、障害年金の請求等、サービス内容は多岐にわたっておりますが、長年の経験に基づくきめ細かい対応でお客様との信頼関係を大切にして業務に取り組んでおります 。

原稿提供元株式会社ブレインコンサルティングオフィス「かいけつ!人事労務」

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