新入社員の早期離職が起きる原因と入社時から気をつけるべき注意点と予防策
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はじめに
求人募集数に対して応募がはるかに少ない超売り手市場が社会問題になっている採用難の現在、企業にとって人材確保は頭を抱える課題の一つになっています。
また様々な企業努力による取り組みの結果、採用できたとしても新入社員や中途採用の若手社員を中心に、雇用後3年以内の早期離職が約3割ということも事実です。人材採用や育成には一定のコストや時間等、採用担当者の労力がかかるためコストや時間をかけた従業員の早期離職は企業の損失はもちろん、所属部署の大きな負担となってしまいます。
昨今、大きな影響を受けているコロナ禍による影響もあるのではないかと感じる中で、この早期退職の割合は、約30年もの間、実は大きく変化はしていないのです。
では、なぜ従業員の早期退職は起きてしまうのでしょうか?
このコラムでは、早期退職の起こる原因と入社時から気をつけるべき注意点、予防策などをご紹介します。
早期離職が起きる原因とは?
若年労働者が早期退職する理由については、厚生労働省が発表した「平成30年若年者雇用実態調査の概況」の「転職しようと思う理由」によると、以下のようなものが上位に挙げられています。
- 賃金の条件の良い会社に転職したい 56.4%
- 労働時間・休日・休暇の条件が良い会社に転職したい 46.1%
- 仕事が自分に合った会社に転職したい 41.6%
- 自分の技能・能力が活かせる会社に転職したい 35.5%
- 将来性のある会社に転職したい 34.4%
- 人間関係のよい会社に転職したい 29.9% etc.
※引用元 平成 30 年若年者雇用実態調査の概況 より
上記の理由を見て、当てはまると感じる方やそうではない方など様々だとは思いますが、この結果がリアルな理由となります。6以外は全て、インターンシップや見学時、企業説明会や面接試験時に全て説明している事なのに、一体なぜなのだろう?と思う部分が大半だと思います。
結果からお伝えすると、就職したいという求職者の心理と一定数採用をしたいという採用担当者の心理が、説明をする段階でとても美化され、求職者にとって現実的な要素が把握しづらかった!との答えになるのではないでしょうか。
少なからず本人による差はあるものの、今の若者は…や、新人は…等、何かしらの方法で問題提起する事に対し嫌悪感を感じることはないでしょうか。ここでイメージしておきたいポイントはたった一つ、私たちも日常生活の中で調べて欲しかった物を買ったり、人気のお店のメニューを食べたりしても必ずしも想像通りの満足感を得られる機会は、そう多くはないのでしょうか。これらの事から新入社員が現況に違和感を感じる事は不自然ではなく、必然なのかもしれません。その為に、今から留意しなければならない事は、顧客サービスと同様に社員一人ひとりにおける日頃の様子を観察し小さな変化も見逃さず、所属部署内や人事担当者との連携を図ることです。出来事に応じた組織としての丁寧なフォロー体制が整っているかどうかが大きく左右してきます。
仮に新入社員の主張が間違っていても、また正しかったとしても、話を最後まで聞き入れた上で、どうしたら相手が納得してもらえるのか、真剣に向き合わなくてはなりません。競争社会に受容できる準備が出来ていない中で、色々な事が比較される競争社会。経験した事のない新入社員とって、逃げ道もない正論という現実をいきなりに突きつけてしまったらどうなるか…。
経験上、良く耳にするのは「仕事ってこういうもの」「最初はみんな経験することだから」等という、価値観の押し付けが一番相手を傷つけてしまう可能性の高いパワーワードです。理解しようともされず第一声が否定的な答えだったら誰であっても良い気はしないですよね。
まずは、自身と比較するのではなく新入社員の視点で考え、歩み寄ることが第一歩となります。
早期離職の防止策とは?
早期離職防止の取り組みを実施するにあたっては、「自社における離職原因の正確な把握」が最も大切です。「離職者が何を原因に退職を決断し、自社の問題点はどこにあるのか」という点を正確に把握しなくてはなりせん。ここで更なるポイントとして理解しなければならないのが、新入社員・中途社員に関係なく退職申出者が、離職しようと見切りをつけた本当の原因は会社に伝えないという事です。事前に相談もなく退職の意思を申し出てきた段階まで来てしまうと、既にコミュニケーションとしては成立しておらず何よりも現況を変えたいという気持ちが上回り、穏便に受け入れてもらいたいという心理が働くため、会社の待遇や人間関係への不満を伝えてくるケースは稀だと思います。
逆に、そのような様々な不満を申し出てきた場合は、アフターケアの仕方によっては考えを改め好転するケースもあります。結果論とはなりますが、本音で真相を伝えられる環境が社内風土としてあるかないかにより離職原因の傾向を明らかにでき、離職データを多角的に分析し早期離職防止の方策を見出さなければなりません。時には既存社員に対し匿名のアンケートを実施するといった従業員満足度を把握する等、日頃より社員とのコミュニケーションを深めなければなりません。その結果として、様々な面から離職原因を調査する事ができ、離職原因や組織内の問題が明らかになれば、その後の対策は取りやすくなります。
冒頭に挙げた主な理由を3つ、細かく解説していきます。
賃金の条件の良い会社に転職したい 56.4%
この理由に関しては業態における平均金額を下回る場合を除き、主に説明不足が原因です。
様々な賃金構成により算出されている給与支給金額の内訳や控除対象となる部分をしっかりと理解できていないケースがあります。特に、求人票などに総額で表記している場合は可能性として高まります。法人ごとに賃金規定が異なるように、実際受け取る事のできる金額を明示した上で入社している場合と、そうでない場合は「説明を受けた内容と違う」と、一方的に誤解をされてしまうケースが散見されます。特に新入社員の場合は、同じタイミングで就職した知人の間で初任給や賞与支給額を比較し合ったり等、簡単に多くの情報を手に入れる事のできる社会が故に、間違った選択をしてしまうケースも多々あります。
何事もそうですが、想像から上回る場合は期待を抱き、想像より下回る場合は絶望感しかありませんよね。
過度に期待を持たせるような言動には気をつけましょう。
労働時間・休日・休暇の条件が良い会社に転職したい 46.1%
慢性的に長時間労働が必要であったり、休暇取得ができなかったりすることは、従業員の不満に繋がるだけでなく業務効率も悪化させ、企業価値も低下させてしまいます。特に近年では、長時間労働が問題視され、労働時間の適正な管理が企業に求められるようになりました。早期離職を防ぐためには労働時間の管理を徹底し、無理な残業をせずに済む環境を作り休暇取得に対し高い関心を持っている姿勢を感じてもらう事が大切です。
特に繁忙期や月末月初等にイレギュラー対応が必要な場合は、事前にリアルな説明をしておかなければ、ここでも「説明を受けた内容と違う」と、誤解を招いてしまう原因になってしまいます。また休暇を取得しやすい雰囲気を作ることも働き続けたいと思う事のできる大きなポイントとなります。
仕事が自分に合った会社に転職したい 41.6%
何を持って合う、合わないというのは、その時々の社員を取り巻く環境で大きく変化します。特に入社して間もなく、ワークライフバランスの構築や良好な人間関係が構築出来ていない中で、一見普段と変わらない様子であっても精神的に無理をしながら平常心を保っていることも多く見受けられます。学校では成績は良かったのに…。アルバイトでは頼られていたのに…。等、本人でないと判断できない事情があるのも事実です。
人は成長とともに、次第に素直になる事が難しくなりますよね。自身の思うように仕事が進まなかったり、認められなかったり、出来る事であっても、できない事を前提とした説明を淡々と受けなくてはならなかったり等、企業担当者は良かれと思って行ってきた事なのにも関わらず、ここでも大きな誤解を招く結果となるケースもあります。感じ方は人それぞれですが、時にはもっとレベルの高い仕事をしたい。反対に、こんなレベルの高い仕事をする自信が持てない…等、「自分に合った」という感情は、天気の如く日々目まぐるしく変化します。
社内環境はそれぞれの企業で異なり、取るべき策にも違いがあります。これらの誤解を招かぬよう、フォローアップの一として定期的なアンケートやヒアリングなどを実施し、現場の実態を把握する取り組みを行いましょう。「誰もが働き続けたいと思える会社」を目指した環境整備が行われれば、新入社員・既存社員に関わらず離職率は低下するはずです。各々の従業員が「今どんな状態でどんな悩みを抱えているか」企業が把握することで、従業員が離職を考える前に解決策を講じることができます。
また、新入社員に対するオンボーディング(=新しく組織に配属されたメンバーの教育・育成をする施策)を行ったり、若手社員にメンターをつけたり等、どんなにフォローがしっかりしていても企業に対しての魅力が薄れてしまっては、元も子もありません。先々の自身における成長過程を見立てる事ができ、今、何が不足していて、何に対し評価を得ているのか。働き続ける上で、評価に納得できるという事はモチベーションの維持向上にとても重要です。更には「モチベーション向上に繋がる評価制度の導入」や「ワークライフバランス支援策導入」、「ハラスメント防止の徹底」等の安心材料となり得る将来設計がし易い制度がなければ、企業に対する将来性を感じられなくなってしまいます。今一度、社内制度や就業規則を時代背景に合わせた内容に見直せると良いかもしれませんね。
最後に
今回ご紹介した内容は、ほんの一部の取り組みや考えでしかありません。何度もお伝えしますが、一番大切なことは身の丈に合った制度とは何か?今、社員に対して提供できる環境とは何か?を洗い出し、一つひとつ“見える化”をしていく事です。ざっくりとした考えや取り組みではなく、ゴールを定めた上で過程の課題に対し対策を講じる事が何より大きな結果をもたらします。
極端な話、会社を大きく立派したい!という思いに対し、大きくの基準は何なのか?立派とは何を持って立派と言えるのか?人の数だけ答えも変わります。私も多くのお客様の会社に顧問として関わらせてもらっていますが、どの会社も魅力的ある考えの元、様々な取り組みをされています。同時に、社内風土として浸透している場合もあれば、一部にとどまってしまっている場合があるのも事実です。「ヒト・モノ・カネ」で成り立つ経営に関して、既存従業員の離職はコストだけではなく、ノウハウを持った人材が育っていかない=企業成長が困難になるという経営問題に直結します。
このような課題に対しては、早期離職の防止策を実行するだけではなく、ノウハウを情報として残していくという対処も必要です。早期離職の防止やノウハウの情報化には、ナレッジマネジメントツール(=人材や部署に蓄積されたノウハウや知識を、会社全体でスムーズに共有するためのツール)を使用することもひとつの方法です。自社に合ったツールを用い、社員定着への対策を検討していきましょう。
https://workhappiness.co.jp/blog/trend/shinsotsutaishoku/
ABOUT執筆者紹介
中山卓
社会保険労務士 キャリアコンサルタント 社会福祉士 保育士
社会保険労務士法人オフィスALPACA 代表社員
株式会社エンパワーメント・ジャパン 代表取締役
一般社団法人さくらキャンプ 代表理事
静岡県三島市出身。静岡県東部の会計事務所にて、主に福祉関係の顧問先を数多く担当。2013年より障害福祉事業に特化した社会保険労務士事務所として独立開業し、北は北海道、西は九州まで、オンラインと対面によるサポート体制により、全国の顧問先約200社超。2017年より放課後等デイサービス『さくらキャンプ』を立ち上げ、発達に課題を抱える児童の通所支援事業にも携わる。また、社会保険労務士による日本初の法律系ロックバンドWORKERS!のリーダーとしても活動中。「ロックで伝える社会保険」をテーマに社会保険、労働法をわかりやすく伝えるための活動を行っている。
社労士バンドWORKERS!と弁護士倉重公太朗氏と法政大学キャリアデザイン学部松浦ゼミの学生たちとのコラボ企画により「キャリア自律の歌 制作プロジェクト」が目下進行中。現在、法政大学大学院キャリアデザイン学研究科在学中。
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社労士バンドWORKERS! オフィシャルWEBサイト
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