損害賠償が発生するケースも!?監査役の業務と責任を詳しく解説
中小企業おすすめ情報
監査役って、何をする人ですか?
会社を作るときに、「定款のひな形に、取締役や監査役があるようだ」と設置したものの、何をする役割なのかよく分からない、という企業からのご質問をよくいただきます。
監査役とは、会社の経営が正しく行われているかを検査する人です。
経営を行うのは、取締役です。しかし、取締役が、会社のためとは言えない方針をとる場合があります。監査役は会社の経営を客観的に見て、その経営をすべきか、すべきではないかを会社に伝えなくてはなりません。
監査役には、会計だけを監査する監査役と、会計だけに限らず、経営まで監査する監査役の2種類があります。会計だけの監査に限定する場合は、定款でその旨が定めてあります。ご自身の会社の監査役は、会計だけの監査をするのか、経営まで監査する監査役なのか、ご不明な場合には、登記簿謄本にも記載がありますので、確認をされた方が良いと思います。
さて、実際のところ、監査役の業務とは、何をどのように行うのでしょうか?
会計に限定された監査役の場合、領収書と会社の会計帳簿、貸借対照表や損益計算書の計算が合っているか、などの検査をします。
ちなみに、私がある団体の監査役を務めたときは、領収書の原本を一枚ずつチェックし、会計帳簿と一致しているかを照らし合わせました。会計帳簿は、普段、経理の社員が行っていますが、単純な仕分けのミスがあれば訂正してもらったり、領収書に不明な点があれば、会社の経理には入れないなどの判断を行いました。会社様によっては、税理士の月次報告などに監査役を立ち会わせることもあります。そのようにして貸借対照表や損益計算書が間違っていないかのチェックを行い、監査報告を作成し、署名、捺印します。それらは株主総会の報告書類として提供し、最終的には株主の承認をもらうことになります。
会計に限定されない、経営まで監査する場合には、同じように領収書や会計帳簿のチェックをした上で、費用対効果を考え、経営のためにすべきでないと思ったことは、取締役に伝えなくてはなりません。あまりに高額な費用がかかるのに、効果が出ないことを行うのは、会社のために行っているとはいえないからです。つまり、監査役は経営を客観的に判断する必要があります。経営に携わっていないからこそ、見える視点で判断してみましょう。
監査役の責任
それでは、監査役の責任はあるのでしょうか?
監査役も、取締役と同じように、業務を怠れば、会社に対して損害賠償などの責任を負います。つまり、監査役がきちんとチェックをしていれば、分かったはずのことを見落としていた場合には、損害賠償を請求されることになるのです。
令和3年7月に判決が言い渡された最高裁判所の事例を見てみましょう。ある会社の従業員が、会社の金を約10年にわたって横領していました。会社側は、横領した元経理担当の従業員と、監査役の両方に損害賠償を請求しました。このことについて、どのようにお思いになるでしょうか?
ご自身の会社の監査役を思い浮かべてください。
監査役を、形式的に報告書に単に署名、捺印をする人だと思っていませんか? ましてや、監査役が横領に気付かなかったとしても、それは監査役の責任とはいえない、経理担当従業員の責任だけを追求できるのではないかと思われませんか?
最高裁判所の判断はそうではありませんでした。その会社の監査役は、経理担当者からカラーコピーで偽造された残高証明書や白黒コピーを渡され、チェックしていました。そのことについて、「計算書類等に示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認すれば、常にその任務を尽くしたといえるものではない」と判断しました。つまり、会社の会計帳簿が正しいものだという前提で監査せずに、「会計帳簿の作成状況等につき取締役等に報告を求め、又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合がある」と述べています(令和3年7月19日 最高裁判所第二小法廷判決)。
監査役は、会計帳簿に不明な点や、怪しいところがあれば、取締役などに問い合わせ、会計の資料を確認する必要があるということです。たしかに、このケースの場合、監査するときに、わざわざ経理担当者がコピーした残高証明書を持ってきたことそのものが怪しいとも思えます。コピーをする手間をかけるよりも、原本を用意したほうが時間もかかりません。にも関わらず、なぜわざわざコピーを出してきたのでしょうか? また、残高証明書と通帳の照らし合わせもしていなかったのでしょうか。これら一連の行為には、経理担当者の裏があったと考えるべきだったかもしれません。
監査役と役割の確認をしましょう
会計帳簿と領収書を突き合わせる作業は、細かい作業ですが、これを間違うと、会社の財産を間違うことになります。ひいては、決算書や法人税の申告にも影響します。それに、領収書や帳簿を一つ一つ見ていくと、気付くことはたくさんあります。前年度よりも増えた勘定科目がある、その分の効果はあるだろうか? 一か月にこれだけの費用が支出されているが、それは会社のためなのか?
経理担当者が単に帳簿付けをするのと違い、会社のための支出なのかを考えるのです。文字にすると難しいことのように感じますが、やってみると誰もが自然と考えることのように思います。ぜひ、監査役と会社の経営を話し合ってみてください。新たな発見があるかもしれません。
ABOUT執筆者紹介
司法書士・行政書士 小平磨弓
司法書士・行政書士 南宇都宮法務事務所
栃木県宇都宮市にて、平成26年開業。相続や売買による不動産の手続き、会社の設立や株式会社の登記の変更、定款変更、裁判書類作成、成年後見業務など、幅広く承ります。「近所の困りごと」のご相談を受けることが多く、和解書や合意書のご提案も行っております。
弁護士、税理士、社労士等と連携し、弊事務所1か所で用事を済ませることができます。
お気軽にお声がけください。
[democracy id=”289″]