アフターコロナの経営[シリーズ第2回]補助金も新設!アフターコロナの人手不足対策
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新型コロナウイルスの流行は、経営へのインパクトにおいて間違いなく戦後日本経済トップクラスの出来事でした。アフターコロナの今、様々な場面でコロナ前の風景が戻ってきました。経営者は、苦しかったコロナ禍を忘れて今まで通りの経営を続ければよいのでしょうか。
このシリーズでは「アフターコロナの経営」というテーマで、この時代を生きる経営者が持っておきたい視点、知っておきたい情報を取り上げています。前回(第1回)のコラムでは、コロナ禍を過ぎて元通りになったかに見える世の中も決して元通りではない、という視点をお示ししました。今回のコラムでは、アフターコロナの人手不足に関して知っておきたいことを取り上げます。
人流の極端な変化が招く、アフターコロナの人手不足
長かったコロナ禍を過ぎて、2023年は賑わいを取り戻した年でした。日本では2020年4月の緊急事態宣言が決定打となって全国の街から人が消え、その状態が3年近く続いた後、徐々に人流が戻ってきたところです。
日本人の動きも大きく変動しましたが、インバウンドは特に激しく変動しました。コロナ前、政府は東京2020オリンピック・パラリンピックに向けた政策を展開していて訪日外国人旅行者数がうなぎのぼりに増えていました。そこにコロナ禍が始まったのです。2020年3月にはインバウンドは急転直下でほぼゼロになり、その状態が3年近く続いた後に回復に向かい、2023年末にはコロナ前の水準を超えています。
2020年から2023年にかけて、日本中がこのような人流の極端な変化にさらされたのです。
人流が戻ると宿泊業や飲食業などの観光関連の業種を中心に売上が回復しますが、嬉しいばかりではありません。需要が激減していた期間はお店を閉めたり人員を削減したりして耐えていたのですから、この急激な需要増に対応できる人手がないのです。2024年は、このようなアフターコロナの人手不足への対策がテーマとなる事業者が多いことでしょう。
2024年の経営を揺るがす人手不足
観光関連の業種を中心としたアフターコロナの人手不足のほか、物流・運送業界にも「2024年問題」と呼ばれる人材確保上の問題があります。これは2024年4月から適用される残業時間の上限規制によって人手不足が生じる問題です。また、かねてからの労働人口の減少や働き方改革の中での人材確保は、全業界共通の問題です。
人手不足は売上の機会損失を招きます。「人手があれば、つまり稼働できていれば、得られたはずの売上が失われる」という状態です。実際にホテルや旅館では、空き部屋があっても人手がなくて予約を断るという事態が起きています。宿泊業では10万人分の人手不足があると毎月7000万人分の宿泊売上を失うという試算があります(出典:三井住友トラスト基礎研究所)。アフターコロナににぎわいが戻っても、人手不足をなんとかしなければ業績につなげることができません。
人手不足対策① 待遇改善による人手確保
賃上げなどの待遇改善をすると利益を圧迫すると思われるかもしれませんが、人手不足による機会損失がある場合は、賃上げをしてでも人手を確保することが業績改善につながります。
実際、アフターコロナの人手不足が顕著な北海道のニセコエリアでは、人手確保のためにアルバイトの時給を東京の水準を超える金額に設定しました。このことは2024年1月に日本経済新聞の記事で取り上げられて以来多くのメディアで話題になりました。インバウンドが活況を呈する観光地などは特に、人手を確保するには待遇改善も積極的に検討するべきでしょう。
人手不足対策② 省人化のための設備投資(DX化)
人手が確保できなくても業務を回せるように、DX化に取り組むのも方策のひとつです。顧客管理システムなどの業務システムのほか、IoTやロボットといった設備も人手不足の解消に役立ちます。近年は以下のようなものが浸透してきました。
- 宿泊業における自動チェックイン機や清掃ロボット
- 飲食業や介護施設における配膳ロボット、自動調理ロボット
- 農業におけるビニールハウスの温湿度管理を自動制御するIoT機器
- 建設業における点検用ドローンや運搬ロボット ・・・等
こうした設備は実際に身近に見かけるようになりました。とはいえ大きな投資を伴うことから、中小企業はなかなか手が出せないというのが実際のところです。
2024年3月、省人化投資の新たな補助金がスタートする
この状況を踏まえて、2024年に新たな補助金が始まります。中小企業が上述のようなIoTやロボットといった設備投資をする際に使える「省力化・省人化補助金(中小企業省力化投資補助金)(仮称)」です。公募開始は2024年3月の予定です。
本記事の執筆時点(2024年1月)では補助金の詳細は公表されていませんが、経済産業省や中小企業庁などの資料によると補助率は2分の1(つまり設備投資に要した金額の2分の1相当の補助金を受けられる)、補助上限額は以下の通りです。
- 従業員数5名以下 200万円(賃上げ要件を達成した場合300万円)
- 従業員数6~20名 500万円(賃上げ要件を達成した場合750万円)
- 従業員数21名以上 1000万円(賃上げ要件を達成した場合1500万円)
2024年は人手不足の解消が大きな経営課題となりそうです。中小企業においても賃上げや省人化投資は決して無関係ではありません。補助金の活用も視野に入れて積極的に取り組んでいきたいところです。
このシリーズは「アフターコロナの経営」というテーマで、次回以降もこの時代を生きる経営者が持っておきたい視点や情報を取り上げていきます。次回第3回のコラムでは、延長を重ねてきたコロナ融資の多くが終了することを受け、今後のために知っておきたい融資の基礎知識を取り上げます。
ABOUT執筆者紹介
経営コンサルタント 古市今日子
株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士
外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件