02 February

アフターコロナの経営[シリーズ第1回]コロナで変わった世の中に対応しよう

掲載日:2024年02月02日   
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新型コロナウイルスは世界中の企業経営に影響を及ぼしました。日本では2020年から政府が実施した行動制限や営業自粛要請で「売上がゼロになる」というまさかの事態に至った事業者も少なくありません。

コロナ禍は、経営へのインパクトにおいて間違いなく戦後日本経済トップクラスの出来事です。アフターコロナの今、経済動向をあらわす様々な指標がコロナ前の水準に戻ってきましたが、経営者は、苦しかったコロナ禍を忘れて今まで通りの経営を続けてよいのでしょうか?

このシリーズでは「アフターコロナの経営」というテーマで、この時代を生きる経営者が持っておきたい視点を取り上げてまいります。

コロナ禍が変えたことの筆頭「消費者の衛生観念」

アフターコロナの街に賑わいが戻った後も、なかなか「これで元通り」とはいかないことがいくつかあります。その筆頭が「消費者の衛生観念」です。コロナ禍の最中に政府が発した「3つの密を避けましょう」「ソーシャルディスタンス」という呼びかけは、人々の脳裏に強烈に刷り込まれました。「人ごみ」「不特定多数の人が触れる物」「他人やスタッフとの交流や触れ合い」を避ける意識はコロナ前とは比べ物にならないくらい浸透し、今も色濃く残っています。

コロナ禍でつくられたこの新しい衛生観念は、この先多少緩和することはあっても、完全に元に戻ることはないと見たほうがよいでしょう。

新しい衛生観念のもと、受け入れられにくくなったやり方

コロナ禍でつくられた新しい衛生観念は、特に店舗型のビジネスに直接影響して、コロナ前には一般的だったやり方が受け入れられにくくなりました。

例えば、試食や化粧品等の店頭テスターは姿を消し、それを楽しむ客の賑わいがなくなりました。試食やテスターで購買を促していた商品は、それに代わる何らかの工夫をしない限り売れゆきが落ちたままです。また、パンや総菜などの食品を作りたてそのままにむき出しで陳列する売り場風景も、あまり見られなくなりました。今では多くのお店が個包装するやり方に変わっています。この包装資材の費用や包装にかかる人件費は、コロナ前にはなかった費用です。

不特定多数が使うトイレや、飲食店の客席の机やビュッフェ台で使うトングなどは、誰かが触った形跡や汚れが許容されづらくなり、お店側には清掃や消毒作業の負担が増しています。

お店のスタッフと利用客の接触は極力省く方向に変化し、セルフレジやセルフチェックインなどのデジタルツールが全国の店頭で一般化しました。現金を触らずに決済できるキャッシュレス化も進みました。お店に行かずに商品を買える配達サービスやECサイトの導入、教育サービスのオンライン化も一気に進みました。

また、「にぎわう場所を避けたい」という衛生観念によって、他の利用客と十分な距離を取れないお店は受け入れられにくくなりました。近い距離で接するのは親密な仲間に限定し、他人とはできるだけ距離を置きたいという価値観です。大勢のお客様を集めるやり方で長年賑わっていたお店は、今後のやり方を考える必要に迫られました。

コロナで変わった世の中に対応しよう

衛生観念の変化のようにコロナをきっかけに変わった事柄の多くは、この先おそらく完全に元に戻ることはなく、この状態がアフターコロナのスタンダードになると考えるのが賢明でしょう。そう考えると、景気動向指数が回復しても人々のお金の使いどころがコロナ前と同じになるとは限りません。したがって経営者には、アフターコロナの経営を今まで通りのやり方で続けても良いのか、点検する姿勢が必要です。

店舗型ビジネスの場合、アフターコロナの経営で対応すべきこととして以下のようなことが挙げられます。

<増えたコストに対応しよう>

例えばむき出しの陳列で販売していたパンや総菜などの個包装資材の費用、こまめな清掃・消毒にかかる経費など、アフターコロナには新たな費用がかかるようになったお店が多くあります。当然、その費用が利益を圧迫します。利益を維持するには業務の効率化や費用の削減、価格改定(値上げ)などの方策が必要です。

<設備投資後の経営管理を確立しよう>

コロナ禍を乗り切るために、セルフレジなどのデジタルツール、オンライン対応、キャッシュレス対応などに伴う設備投資をしたお店が多くありました。コロナ禍で収支が悪化したことに加えて、このような設備投資が資金繰りを圧迫しています。さらに、コロナ関連の融資を利用した事業者はその返済原資の管理も必要です。

以上のように、お金の出入りがコロナ前と大きく変わった事業者が多いはずです。果たして自社は1年後も健全な資金繰りができそうなのかどうか。今まで通りの感覚では見通しをつかみにくくなっているのではないでしょうか。アフターコロナにおいては収支と資金繰りをきちんと管理することの重要性が一層増しています。

<ビジネスモデルを再点検しよう>

コロナ禍を境に自社のお客様のニーズが変わっていないかよく見渡した上で、今まで通りのビジネスモデルがこれからも通用するのかを点検しましょう。例えば店舗型ビジネスにおいては、利用客同士の距離が確保できるようなスペースの使い方が好まれるようになったことで、“薄利多売”のマーケット規模がコロナ前に比べて小さくなったと考えられます。薄利多売のお店というのは例えば、大人数で利用する宴会や宿泊施設、安い客単価で高回転率を確保する飲食店などが挙げられます。アフターコロナには一定数の人がこうしたお店を使わなくなった可能性を考慮し、これからのビジネスモデルを検討する必要があります。

低価格で大勢のお客様を入れて利益を確保していたお店が、お客様が減っても利益を確保するには、客単価を上げなければなりません。そのためには今まで通りの商品・サービスではなく、何らかの付加価値をつけたり、根本から見直したりする取り組みが必要です。飲食店では例えば50席あった客席を40席に間引いてゆったりしたスペースにし、メニューも見直したうえで価格帯を上げるといった取り組みが考えられます。旅館では露天風呂付の客室や離れ、コテージ、部屋食といったサービスを用意して客単価を引き上げるといった取り組みが考えられます。

もし薄利多売のビジネスモデルを引き続き貫く場合は、小さくなったマーケットの中で十分な客数を確保しなければなりません。そのためには今までより一層の「選ばれる努力」が必要です。

下図のチャートは、ここまで解説したアフターコロナの経営で対応すべきこと(店舗型ビジネスの例)をまとめたものです。

変化に対応する必要があるのは店舗型ビジネスに限った話ではありません。店舗型ビジネスがさらされている変化は、彼らと取引する卸やメーカーなどの経営にも波及します。全く別の業界でも、例えば出張需要に応える会議室や交通や宿泊などのサービスは、コロナ禍を境にオンライン会議が浸透したことで大きな変化にさらされています。あらゆる業種の経営者に、アフターコロナの経営を今まで通りのやり方で続けても良いのか、点検する姿勢が求められます。

このシリーズは「アフターコロナの経営」というテーマで、次回以降もこの時代を生きる経営者が持っておきたい視点を取り上げていきます。次回第2回のコラムでは、アフターコロナの人手不足で取り組みたいことを取り上げます。

ABOUT執筆者紹介

経営コンサルタント 古市今日子

株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士

外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積み、2016年独立。
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営指導員などを務める。
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件

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