従業員の副業がバレる?会社が住民税の決定通知書で確認すべき3つのポイント
税務ニュース
「住民税の決定通知書で従業員の副業がバレる」と言われます。それはなぜでしょうか。また、通知書のどこを見たら副業が分かるでしょうか。今回は、会社の経理や総務の方向けに、住民税のしくみと決定通知書のチェックポイントをお伝えします。
なぜ副業バレ?住民税のしくみを確認しよう
住民税の決定通知書で副業がバレるしくみを見る前に、住民税の計算や徴収の仕方を確認しましょう。
住民税は地方自治体が計算・徴収する「賦課徴収方式」
住民税は市町村(東京都23区は東京都)が賦課徴収する地方税です。課税されるのは、その年の1月1日時点で自治体内に住所のある人となります。
納税者自ら所得額と税額を計算して国に納める所得税と違い、住民税は各自治体が所得額と税額を計算します。納付書(住民税の決定通知書)が送付されたら、個人はこれを使って住民税を住んでいる自治体に納めるのです
住民税は「均等割」「所得割」が中心
税額計算も、所得税と異なります。所得税は「所得額×税率」で計算するのみです。一方、住民税は次の2つが中心です。
- 均等割:所得が一定額以上だと定額で課される住民税。2022年現在、一律5,000円(都道府県民税1,500円、市区町村民税3,500円)
- 所得割:前年の所得額に応じて課される住民税。税率は一律10%。
住民税は毎年6月から納付が始まります。このうち、所得割は前年の所得を基準に計算されているわけです。
住民税の徴収方法は2つある
「住民税なんて自分で納めたことはない」という人は少なからずいます。誰もが、住民税の決定通知書を受け取っているわけではないからです。
住民税の徴収方法は次の2つに分かれます。
- 普通徴収:自分で住民税を納付
- 特別徴収:給料、公的年金から天引きされる
副業が会社にバレる理由は「特別徴収」
会社に勤務していると、特別徴収で会社が代わりに払ってくれます。実は、この特別徴収が副業バレの原因です。
「特別徴収」で住民税の決定通知書は勤務先へ
会社の年末調整業務の一つに「給与支払報告書の提出」があります。自社が給与を支払っている役員や従業員の給与所得の情報を、それぞれの住む自治体に提供するのです。
このとき、翌年度の住民税の徴収方法を選ぶのですが、通常「特別徴収」を選択します。すると、翌年6月からの住民税の決定通知書が会社に届きます。これを使って、会社は給与から天引きした住民税を納付するのです。
確定申告で特別徴収を選ぶと所得情報が会社にバレる
住民税の徴収方法を選ぶ機会は、確定申告にもあります。確定申告書第二表の下の「住民税に関する事項」の欄を見てみましょう。「給与、公的年金等以外の所得に係る住民税の徴収方法」という項目があります。
ここで給与所得者が「特別徴収」にマルをすると、副業分も含めた決定通知書が会社に届きます。この通知書で、副業分も含めた所得額が勤務先に判明するわけです。
住民税の決定通知書で確認すべき3つのポイント
見方を変えると「会社は、住民税の決定通知書で従業員の副業を確認できる」わけです。会社が副業チェックを行うときは、次の点を意識するといいでしょう。
ポイント1:住民税額が例年より多いか
「住民税額が去年に比べて妙に多い」ときは、副業の可能性があります。ただし、「住民税額の急増=副業」とは限りません。「自宅や相続した家を売却した」「前の職場から退職金をもらった」など、副業でなくても一時的に所得が増えることがあります。
また、他の会社でバイトやパートをしているケースでも、住民税が増えます。給与支払報告書を通じて本人の住む自治体に給与の支払額が伝わるからです。年末調整をしたかどうかは関係ありません。
ポイント2:増えた所得はどれか
決定通知書でどの所得が増えているかを確認しましょう。所得税や住民税の課税対象となる所得は次の10種類に区分されます。
- 利子所得…預貯金や公社債の利子など
- 配当所得…株式の配当や投資信託の分配金など
- 不動産所得…アパートやマンション、店舗や駐車場などの賃貸料収入
- 事業所得…飲食店や農業、自由業など独立した個人事業主としての事業の収入
- 給与所得…正社員や派遣社員、バイト・パートなどとして働いて得た給料や賞与など
- 退職所得…退職金の他、iDeCoや小規模企業共済で受け取る一時金
- 山林所得…5年超保有していた山林を伐採・売却して得た収入など
- 譲渡所得…不動産や金、美術品、株式などの財産の売却収入
- 一時所得…懸賞金、ふるさと納税の返礼品、生命保険の満期返戻金など
- 雑所得…年金収入、非営業用の貸金の利子、原稿料や講演料、仮想通貨(暗号資産)の売却収入など上記9つの所得のどれにも当てはまらない収入
副業の可能性が高いのは3、4、10です。なお、2と8は株式投資で動くことがあります。ただし、8が計上されても、副業としての投資とは限りません。自宅や別荘の売却も譲渡所得となるからです。
ポイント3:所得額と住民税額が妙に少ないか
増えたときだけでなく、減ったときも要注意です。給与が変わっていないのに住民税が少ない場合、損益通算で所得額と納税額が減っている可能性があります。
損益通算とは、一部の所得で生じた赤字を他の所得の黒字と相殺することです。事業所得・不動産所得・山林所得の赤字は、他の所得と相殺できます。所得欄を確認し、事業所得や不動産所得が赤字なら、副業の可能性はかなり高いと言えます。ふるさと納税が妙に多いのは「副業による増税を抑えるため」かもしれません。
この他「ふるさと納税の控除額が多額で住民税額が少ない」といったこともあります。「税額控除前所得割額」の数字が例年より多かったら、副業の可能性を考えてもよさそうです。
従業員の副業が気になったときの注意点
従業員の副業が気になったときは、次の点に注意しましょう。
副業のルールを再確認
副業の可能性を感じ取ったら、本人に聞く前に社内のルールを確認しましょう。「副業禁止」を掲げているとしても、全面的に禁止しているのか、あるいは一部は容認されるのかは会社によって異なるからです。
特に不動産賃貸は、会社によっては副業に含めないことがあります。「親の相続で引き継いだ賃貸アパートをやむなくそのまま運営している」などといった事情もあるからです。
所得の増減の原因をチェック
「給与の額と所得額や税額のバランスが取れていない」といっても、ただちに副業しているとは限りません。生命保険の満期金を受け取っていたら一時所得が、前職を退職していたら退職所得が増加します。譲渡所得が増えていたとしても、自宅の売却が原因かもしれません。
まずは所得区分を一つひとつ確認し、その上で気になる箇所を本人にていねいに聞きましょう。
ABOUT執筆者紹介
税理士 鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒。ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。ZUU online、マネーの達人、朝日新聞『相続会議』、KaikeiZine、納税通信などで税務・会計の記事を多数執筆。著書に『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、共著)。
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