最近話題のリスキリングとは?
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はじめに
最近リスキリングという言葉をよく耳にするようになりました。日本の雇用制度の変革や人生100年時代における働き方の多様化など、社会的な背景からもリスキリング、学び直しといったキーワードの注目度が高まっています。
2023年6月、政府において「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針)」というものが閣議決定されました。具体的には、「①リスキリングによる能力向上支援」、「②個々の企業の実態に応じた職務給の導入」、「③成長分野への労働移動の円滑化」の3つを柱とする政府の新しい改革の方向性を示すもので、この取り組みを「三位一体の労働市場改革」といいます。
三位一体の労働市場改革の考え方については、一人ひとりが自らのキャリアを選択する時代となってきた中、「職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自らの意思でリスキリングを行い、職務を選択できる制度に移行していくこと」が重要だとしたうえで、「内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、労働者が自らの選択によって労働移動できるようにすることが急務」としています。
ポイントは、「労働者が自らの意思で」の部分です。
人生100年時代、100歳まで人生が続くことが当たり前となった今、人生における仕事の期間がより長期化し、自らのキャリアにどう主体的に向き合っていくか(=キャリア自律)という視点がとても重要になってきています。ここで「自立」ではなく、「自律」の字が使われているのは、周囲からの助けを受けずに、自分の力だけで物事を進める「自立」に対し、周囲の声やニーズも把握した上で、自分自身の意思をベースに自己実現に取り組む意味合いが強いのが「自律」となります。今回は、三位一体の労働市場改革の柱の1つである、リスキリングについて触れてみたいと思います。
リスキリングとは?
リスキリングとは、技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、業務上で必要とされる新しい知識やスキルを学ぶことです。
経済産業省はリスキリングを以下のように定義しています。
企業側が従業員に学びの機会を提供するというこれまでのトップダウンの学びではなく、学ぶ本人自らの主体的な意思により学ぶという点がリスキリングの肝であり、『獲得する/させる』と表記していることの意味合いはそこにあります。
きっかけは、2020年のダボス会議において、「リスキリング革命」が発表されたことでした。岸田総理は、2022年10月、リスキリングのための支援制度を総合政策の中に盛り込む考えを表明しました。「人への投資」と「企業間の労働移動の円滑化」のために、受け入れ企業への支援や、リスキリングから転職までを一貫して支援する制度といった施策を新設・拡充したいと考えています。
岸田総理が掲げる「新しい資本主義」実現には、人への投資、すなわちリスキリングが重要であるとの考えを示しており、個人のリスキリング支援に5年で1兆円を投じるとのことから、リスキリングへの取り組みも活発化してきています。
企業がリスキリングを推進するメリット
企業がリスキリングを推進するうえで、以下のようなメリットが考えられます。
- 人材不足の解消につながる
- エンゲージメントの向上につながる
- 自律型人材の育成につながる
- 知識や経験値の最大化につながる
現在は国を超えて人材が流動化してきており、皆さんも日本国内で仕事をしている外国人を目にする機会が増えてきたことと思います。当然のことながら、人はより賃金の高い国へと流れる傾向にある為、国を超えた人材争奪戦とも言える状況が起きており、逆に日本人がより高い賃金を求めて海外に出稼ぎに出るケースなども出てきています。このような状況下で不足する人材を採用しようと思っても、求める人材の採用が難しい状況が起きており、内部人材にリスキリングを行い、必要なスキルを身に着けてもらうことの方が、企業にとって理にかなった選択肢といえます。
また、従業員に学びの機会を提供し、キャリア形成の支援をすることは、従業員エンゲージメントを高めることにつながります。従業員エンゲージメントとは、組織への貢献意欲のことです。リスキリングを推進することで、従業員のなかにも自分で新しいスキルを獲得しようという風土が生まれ、自発的に考えられる「自律型人材」が増えることを通じて、生産性は向上を目指すというものです。
リスキリングは、今まで積み上げてきた経験、知識に新たなスキルを上積みしていくといったイメージです。必ずしも新規事業立ち上げの為に自社でプログラミングの技術者を育てる、といったものである必要はなく、急速に進むDX化に対応していく為に、そういったツールやサービスを活用できる人材を育てていくこともリスキリングに含まれます。取り組むべき内容はデジタル分野に限らず、業種によっても異なります。既存事業に精通している従業員が新たなスキルを身に着けることで、これまでに積み上げてきた知識や経験を最大化させ、外部から新たな人材を採用するよりも、よりスムーズに仕事が進むことが期待されます。
人材開発支援助成金のご紹介
岸田総理が個人のリスキリング支援に5年で1兆円を投じることを表明した内容が具体的に形になったのが、この「人材開発支援助成金」です。従来からあったこの助成金に「事業展開等リスキリング支援コース」というものが令和4年~8年度の期間限定で新たに創設されています。
人材開発支援助成金は、会社が従業員に対して専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。
「人材育成支援コース」
「教育訓練休暇等付与コース」
「人への投資促進コース」
「事業展開等リスキリング支援コース」
の4つのコースに分かれています。
「人材育成支援コース」
職務に関連した知識・技能を習得させるための訓練を計画に沿って実施した場合に、 訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成。
「教育訓練休暇等付与コース」
教育訓練休暇制度を導入し、従業員がこの制度を利用して自発的に訓練を受けた場合に、企業に助成。
「人への投資促進コース」
デジタル人材・高度人材を育成する訓練、従業員が自発的に行う訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)などを実施した企業に助成。
「事業展開等リスキリング支援コース」
新規事業の立ち上げなどの事業展開に伴い、企業が雇用する従業員に対して新たな分野で必要となる知識及び技能を習得させるための訓練を計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成。
最近はこれらの助成金申請も電子申請が可能となっており、急速にデジタル対応が進んでいます。
詳細は、厚生労働省ホームページをご確認ください。
最後に
以上のように、リスキリングというキーワードの背景には、「人への投資」という大きなテーマが存在します。人への投資の意味するところは、政府から人への投資、企業から人への投資に加え、自分から自分への投資、つまり自己投資が含まれます。今、日本は従来の年功序列、終身雇用の時代から、自己の主体的な取り組みによってキャリア形成をしていく時代へと、大きな転換点を迎えています。
私事ですが、かくいう筆者も、自己投資の一環として、来春から法政大学大学院キャリアデザイン学研究科に進学することが決まっており、リカレント教育への取り組みを実践していく予定です。「リカレント教育」は、社会人になってからも定期的に教育を受けることで、その時代・環境に適したスキルを身につける「個人のキャリア」を目的としているのに対し、「リスキリング」は、環境の変化に適応可能な企業へと成長する為に「企業の存続」を目的にしている点が異なります。社労士事務所の代表者である筆者のように、一社会人として、また、一経営者として、個人のキャリア形成「=リカレント教育」と事業の存続「=リスキリング」の両方の目的を併せ持つケースもあります。
この機会に皆さんもご自分の人生設計、キャリア形成について、今一度考えてみてはいかがでしょうか?
最後までお読みいただきありがとうございました。
ABOUT執筆者紹介
中山卓
社会保険労務士 キャリアコンサルタント 社会福祉士 保育士
社会保険労務士法人オフィスALPACA 代表社員
株式会社エンパワーメント・ジャパン 代表取締役
一般社団法人さくらキャンプ 代表理事
静岡県三島市出身。静岡県東部の会計事務所にて、主に福祉関係の顧問先を数多く担当。2013年より障害福祉事業に特化した社会保険労務士事務所として独立開業し、北は北海道、西は九州まで、オンラインと対面によるサポート体制により、全国の顧問先約200社超。2017年より放課後等デイサービス『さくらキャンプ』を立ち上げ、発達に課題を抱える児童の通所支援事業にも携わる。また、社会保険労務士による日本初の法律系ロックバンドWORKERS!のリーダーとしても活動中。「ロックで伝える社会保険」をテーマに社会保険、労働法をわかりやすく伝えるための活動を行っている。
社労士バンドWORKERS!と弁護士倉重公太朗氏と法政大学キャリアデザイン学部松浦ゼミの学生たちとのコラボ企画により「キャリア自律の歌 制作プロジェクト」が目下進行中。現在、法政大学大学院キャリアデザイン学研究科在学中。
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