税金、似た用語多過ぎ問題-インボイス編
税務ニュース
入り乱れる用語
どうにも税金にまつわる用語には、似た用語が多く分かり難いです。試しに、消費税制について、正確性に全振りして分かり易さを完全放棄した文章で説明してみます。読み難すぎて、むしろ面白い文章になりました。
この、知っている人にしか通じない文章の中に、請求書という言葉が4種類登場しています。そして、面倒なことに4種類とも少しずつ意味が違います。現実問題としては、用語が多少交錯していてもやるべきことだけ押さえておけば困ることはないです。とは言え、よく分からない単語を使い続けるのも気持ちの良いものでもないので、今回はインボイス制度にまつわる用語を整理し、何故巷をこれだけ大騒ぎさせているのか改めて確認したいと思います。
インボイス制度ってなに?
まずは、インボイス制度とは何のことかをもう一度整理します。そのためには、税務署に納めるべき消費税額の計算式が必要となります。通常、商売において消費税は、売上代金と一緒に受取る一方で、必要経費の支出時に支払ってもいます。従い、計算式は次の通りです。
納付額=売上に含まれている消費税―仕入などに含まれる消費税
この「仕入などに含まれる消費税」の引き算を「仕入税額控除」と呼びます。そして、直感的に「仕入税額控除が大きくなれば納付額が小さくなって有利」ということもご理解頂けるかと思います。仕入税額控除とは、言うなれば、消費税における必要経費的ポジションです。
そうしますと、帳簿を付けて領収書を取っておくことが求められそうな気がして来ます。実際、仕入税額控除には帳簿に記載して、領収書などの書類を保存することが必要です。この保存すべき書類の細かな違いにより、請求書等保存方式なり、区分記載請求書等保存方式なり、適格請求書等保存方式なりと名称が変わって来ました。
歴史的移り変わり
かつて、消費税率が品目によらず8%など1種類だけだった頃は、単に「領収書などを保存する」というルールで、請求書等保存方式と呼ばれていました。この用語、大抵は領収書を取っておくのに請求書等となっていますが、・・・・・気にしたら負けです。
その後、軽減税率が導入されると、「軽減税率の対象と一般税率の対象が区分して記載された領収書などを保存する」とルールが変更されて、区分記載請求書等保存方式と呼ばれる様になりました。令和5年9月30日まではこの方式です。コンビニで雑貨と食料品を買うと、食料品にだけマークが付けられたレシート(以下画像)を渡されます。これが区分記載請求書です。レシートですが、区分記載“請求書”です。
更に、令和5年10月1日からはインボイス制度が開始され、領収書に仕入税額控除出来るものと出来ないものが生じます。そのため、「軽減税率の対象と一般税率の対象を区分した上で、仕入税額控除できることが明示された領収書などを保存する」というルールに変わります(以下画像)。これを適格請求書等保存方式と呼びます。インボイス“制度”というのは、仕入税額控除のために保存すべき書類の内容を示しているのです。
適格請求書のことをインボイスと呼ぶことにしました
本来、invoiceというのは、請求書や運送荷物の送り状を意味する言葉です。領収書であれば、receiptです。しかし、我が国の消費税の分野では、上で説明した様に令和5年10月1日以降に仕入税額控除できる領収書のことをインボイスと呼ぶ様になりました。消費税法上の用語では、適格請求書とされています。
先程から、「領収書なのに適格請求書」などと申しておりますが、請求書でも納品書でも、複数書類の合わせ技でも要件を満たせば適格請求書になります。これらは、すべてインボイスと呼んで差し支えありません。
ただし、インボイスという単語は、登場する場面により多少広がったり狭まったりしている様です。例えば、適格請求書ではない仕入明細書などもインボイスに含まれていそうなケースもあります。こうして見ますと、インボイスという用語は、多少のいい加減さを残して便利に使う目的の用語のようにも感じます。こうしたことから、「いわゆるインボイス」などと表現されるケースもあります。
どうして大騒ぎしているのか
「適格」というのは、「仕入税額控除のため法律に定められた記載事項を全て記載している」という意味です。この「法律に定められた記載事項」の中に、「適格請求書発行事業者の登録番号(上画像)」が含まれており、この番号が割り振られるためには、今まで消費税の申告納付義務が免除されていた小規模な事業者でもそれらの義務を負担しなければなりません。もちろん、今まで通り免除を受ける道もありますが、その場合は、自身が発行する領収書は適格請求書(インボイス)にはなりません。
発行した領収書がインボイスにならないと、得意先は仕入税額控除できないので、値下げを要求される可能性があります。また、大量に処理しなければならない領収書にインボイスではないものが含まれると経理が煩雑化するため、インボイスを発行できない事業者との取引が打ち切られるという可能性もあります。
これらを解決する為にインボイスを発行できる様に手続をとると、消費税に関連して事務負担や金銭的負担が増加するという、当に前門の虎後門の狼状態で小規模な事業者の死活問題となっています。
結び
本稿では、インボイス制度に関連する税法用語を整理して、インボイスとは何かを解説しました。これにより、インボイス制度の小規模な事業者に対する影響が重大であることを、より明確に感じられたのではないでしょうか。
インボイス制度の開始が迫り、政府が小規模な事業者への負担緩和措置を検討しているとの報道も出ております。この制度は、消費税制の大きなターニングポイントとなりますので、今後の動向にもしっかりと注目してください。
ABOUT執筆者紹介
税理士 柳下治人
柳下治人税理士事務所
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1978年埼玉県生まれ
明治学院大学経済学部 卒業
日本大学大学院経済学研究科修士課程 修了
税理士事務所勤務を経て柳下治人税理士事務所を設立
中小企業の経理、税務、経営のサポートやセミナー講師を手がけている。また、外国籍経営者やギグワーカーとも深く関わりを持ち、YouTubeにて「yagishitax税理士チャンネル」を運営し、UberEatsなどの配達員に必要な経理、申告のHowTo動画など税金にまつわる情報を公開している。
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