経営相談の現場から[シリーズ第18回]値上げができる会社は何が違う?
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筆者は経営コンサルタントとして、日々経営者の方々のお悩みを伺っています。このシリーズは「経営相談の現場から」というテーマで、中小企業経営者や個人事業主の方から実際にあったご相談内容を取り上げます。
今回は、革製品の卸会社Qを営むQ社長の、値上げに関するお悩みを取り上げます。物価高で採算の悪化に悩む状況でも、十分に価格転嫁できない中小企業は多いようです。今回は、「値上げができる会社」は何が違うのか、紐解いていきましょう。
値上げ交渉は気が重い
Q社長 「わが社は上質な革製品を国内外から買い付けて、小売店に卸しています。ここのところメーカー各社の値上げが続いて、利益が出なくなってきました。」
筆 者 「国内は物価高が進んでいますものね。」
Q社長 「はい。海外品は数年前から円安や輸送費高騰で仕入れが高くなっていたのですが、最近は国内品も値上がりして。きついです。」
筆 者 「今まで卸先様に価格改定の交渉はしていないのですか?」
Q社長 「交渉したいですが気が重くて、まだしていません。アパレル会社を経営する友人は迷いなく値上げに踏み切っていました。羨ましい、私には出来ません。」
値上げできる会社は、利益の構造をきちんと把握している
筆 者 「値上げ交渉に慎重になるのは当然ですよね。値上げ交渉は一発勝負ですから。」
Q社長 「本当に一発勝負です。一度値上げを持ちかけたら、『やっぱりもうちょっと値上げさせて』とか『やっぱりいいです』なんて言えません。」
筆 者 「そうですよね。Q社長、新しい価格表は完成していますか?」
Q社長 「まだです。どれくらい値上げすべきかぼんやりしたイメージはありますが、正直、本当にそれで大丈夫なのか分からなくて。」
筆 者 「そうおっしゃる社長はたくさんいらっしゃいます。今回Q社長は『利益が出なくなってきたから値上げを検討したい』ということですが、そもそもいくら値上げすれば利益を確保できるか、把握できていますか。」
Q社長 「恥ずかしながら出来ていません。会社全体の利益は見ていますが、商品や卸先によって利益率が違って、複雑なもので・・・。」
筆 者 「そこなんですよね。利益の構造を把握するのは大変ですが、商品別や取引先別の採算を具体的に把握することが第一歩です。どの商品、どの取引先の採算が悪いのか、最低限いくら値上げすれば許容範囲になるのか。」
Q社長 「利益の構造を把握していれば、自信を持って新しい価格表を作れますね・・・。値上げできる会社は、それが出来ているということですね。」
筆 者 「その通りです。」
値上げできる会社は、値上げ理由を前向きに説明している
筆 者 「価格表が出来たらいよいよ交渉ですが、値上げ理由の伝え方も大切です。」
Q社長 「どんなふうに伝えれば良いのでしょうか?」
筆 者 「単に『仕入れ値が上がったから』『エネルギーコストが上がったから』という外部の要因だけだと、卸先様にご納得いただくのは難しいですよね。前向きな理由も添えて伝えましょう。」
Q社長 「前向きな理由ですか。『サービス品質の維持のため』等という言い回しをよく見かけますが、そういう伝え方でしょうか。」
筆 者 「そうです。Q社様のような卸会社なら『価格改定を機に、これまで以上にスピーディーな納期対応、欠品防止、アフターフォローの強化を推し進めます』といった前向きで具体的な取り組みを添えるといいですね。企業努力の姿勢が伺えて、好ましく思っていただけるのではないでしょうか。」
Q社長 「なるほど。『単なるコスト転嫁ではなく、御社がお取り扱いしやすいように体制を強化するための前向きな改定でもあるので、何卒ご理解のほどお願いします』・・・というシナリオですね。こんなシナリオなら私自身も話しやすいです。」
値上げできる会社は、日ごろから顧客満足に向けた努力を惜しまない
筆 者 「一番大切なことは、日ごろから卸先様にご満足いただく努力を惜しまないことです。」
Q社長 「耳が痛いですが、そうですね。『今後もQ社さんとお付き合いしたい』と思って頂けていれば、多少値上げしてもお取引は続きそうです。」
筆 者 「Q社様のような卸会社なら例えば、配送で破損する事態をなくすために梱包に独自の工夫をしたり、倉庫の温湿度管理にこだわったり・・・。Q社様ならではの取り組みで卸先様に喜ばれたものは何かありませんか?」
Q社長 「ひとつあります。アフターフォローの対応品質を上げるために、社員にホスピタリティ教育を施したら、『Q社さんは感じがいいね』と喜んでいただけています。」
筆 者 「それはいいですね!そのようなQ社様ならではの企業努力が、値上げの成否に効いてきます。」
Q社長 「日ごろ努力していなかったら、値上げ交渉は諦めたほうがいいでしょうか。」
筆 者 「値上げ交渉の1か月前からでも、何か新たな努力を始めると良いですよ。『おっ、最近頑張ってくれるね』と見直していただいておくと交渉しやすいでしょう。もちろん、値上げ後もその努力を継続するのが大前提です。」
値上げのときこそ商売の基本に立ち戻ろう
値上げができる会社は、利益の構造をきちんと把握しています。顧客に対して前向きな説明ができ、顧客満足に向けた日ごろの努力を惜しみません。
これらは特別な裏技などではなく、商売の基本姿勢です。値上げの時こそ、商売に真摯に取り組む基本的な姿勢が問われるということですね。物価高で採算の悪化に悩む近年の状況でも、変わらず正しい努力を続けましょう。価格改定が必要になっても、「わが社は価格以上の価値を提供している」という自信を持って交渉できる状態が理想ですね。
ABOUT執筆者紹介
経営コンサルタント 古市今日子
株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士
外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件















