15 September

これまで通り個人事業を続ける?それとも会社を設立する?~経営面を比較して解説します~

掲載日:2021年09月15日   
税務ニュース

個人事業主として事業をしている場合、会社を設立しようかどうしようかを迷う方もいらっしゃるでしょう。コロナ禍といわれていますが、増益の企業が多数出ています。個人事業主でも、増益している方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。税金面では、ある程度の収入が出るようになれば、節税のために法人を設立した方が税金が安くなると言われています。では、経営面では、個人事業主と会社設立はどちらを選んだらよいのでしょうか。

個人事業主? 取締役?

まずは、会社の仕組みから考えていきたいと思います。

そもそも、会社を立ち上げるためには、発起人が出資して、株式を持ちます。つまり、発起人(株主)が出資したお金を使って、会社を経営する、と言う仕組みです。株主は出資した分だけの責任を負うことになります。言い方を変えれば、出資した以上の責任を負うことはありません。それに、株主がお金を出資しているため、会社の意思決定で重要なことは、株主が決定します。

では、取締役は何をするかというと、その出資したお金を使って利益を出す方法を考え、その業務を行います。一方、個人事業主の場合、出資もありません。経営も、すべて自分が執り行います。そのため、誰かに何かを説明する必要もありませんが、すべて自分の責任です。

会社の信頼性の高さ

会社の情報は、誰でも法務局で登記簿謄本を取ることによって、知ることができます。会社名と本社の所在が分かれば、法務局で、あるいはインターネットの登記情報閲覧サイトでも、情報を取得できます。登記簿謄本には、資本金や取締役の氏名などが記載してあります。

このような会社の情報を提供することで、会社名で金融機関の銀行口座を作れますし、融資も個人事業主よりも比較的受けやすくなります。融資を行う立場から考えると、資本金の額から、最低限このくらいの金額までは保証されるという安心感があります。そのため、金融機関からの融資を受ける場合には、会社の方が有利に働くのです。

個人事業主には、このような仕組みはありません。

会社と個人

経営の面では何が違うのでしょうか?
「会社」といっても、取締役や監査役、株主が何人いるかなどで、会社の経営の仕方が変わってきます。

例えば、個人事業主から株式会社を設立する場合、はじめは小さな規模から、と考えるのが通常です。発起人が出資して、自ら取締役になる(発起人=取締役)場合が多いものです。このような会社は、特に個人事業主と異なるところはありません。しいて言えば、個人事業主の事業年度は1月から12月ですが、会社は自由に事業年度を変えられるところでしょう。つまり、事業内容を考え、執行したり、融資を受けるべきかどうかを検討したりするのは、会社も、個人事業主も、取締役や個人事業主自身ということになります。

しかし、会社は、規模を大きくすることができます。もっと資金を得たいときには、新株を発行して、資金を得ることができます。また、経営面で一緒に経営したい人がいれば、取締役に就任してもらうことができます。取締役の選任は、株主総会で決めますので、株主の意見を無視して取締役を決めることはできなくなります。一方、会社の経営は取締役の決定で決めることになりますから、株主は出資をしているとはいえ、経営の細かいところには参加しなくなります。こうなると、株主は、取締役の経営を監視するために、監査役の設置を求めるようになります。

このように、会社の規模が変われば、会社を構成する役員も変わるのです。

事業承継

もっとも、個人事業主と会社が異なるところは、事業承継しやすいかだと思います。

個人事業主の場合

自分の事業を引き継いでもらうか、廃業するかの選択します。どちらの選択をしても、完全に事業主が変わりますので、税務上の青色申告届や雇用の届け出も、新規で出しなおすか、廃業届を出すことになります。雇用契約なども再度契約しなおすことになり、従業員も不安定な環境で働くことになります。

会社の場合

取締役など、経営陣が交代したり、株主の比率を変えることはありますが、会社自体が無くなりません。そのため、従業員を雇用しながら事業を継続でき、事業を守ることができます。経営陣も、徐々に交代するか、一度に交代するかなど、事業承継の方法を決められます。

廃業のとき

事業がうまくいかなくなって、やめようと決断するときはどうでしょうか。

個人事業主の場合

その事業主が、「止める」という判断ひとつで、やめることができます。事業内容を清算した後、税務上の申告や、雇用の届出、申告などを済ませて、届出を行えば、いつでも廃業することができます。

会社の場合

会社は資金を集めていますので、それらの清算を行う必要があります。取締役が止める決断をするだけでは止められません。株主総会を開いて、株主の承認を得、清算人を選任します。その後、会社の清算手続きを行い、清算結了登記を行うまで、会社は無くならないのです。これは、会社は、多くの人が関わることが想定されています。そのため、集めた資金を分配するのか、借金の返済に回すのかを決めたり、必要に応じて、説明を行ったりする機会を設けるためです。

まとめ

個人事業主と会社の設立、それぞれにいいところ、悪いところがあります。個人事業主は始めるのも終わるのも、決断ひとつですが、知名度を上げたり、融資を受けたりすることは難しいのが現実です。

一方、会社は、発起人(株主)から資金を集めるため、融資を受けたり、事業を大きくすることには向いています。経営についても、多様な形態が考えられています。会社に何が必要か、誰を経営者にすべきか、経営に対する監視体制はどうすべきかを、経営陣が厳しく判断する必要があります。経営陣に対する責任は重く、経営を怠れば、損害賠償の対象になることもあります。資金を集める以上、会社を廃業するときも、簡単にはできません。そのような会社の特質を知ったうえで、時期を逃さずに起業することをお勧めします。

ABOUT執筆者紹介

司法書士・行政書士 小平磨弓

南宇都宮法務事務所

司法書士・行政書士 南宇都宮法務事務所

栃木県宇都宮市にて、平成26年開業。相続や売買による不動産の手続き、会社の設立や株式会社の登記の変更、定款変更、裁判書類作成、成年後見業務など、幅広く承ります。「近所の困りごと」のご相談を受けることが多く、和解書や合意書のご提案も行っております。
弁護士、税理士、社労士等と連携し、弊事務所1か所で用事を済ませることができます。
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