06 September

これから変わる?職場における今後の定期健康診断の方向性

掲載日:2024年09月06日   
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職場の健康診断における現行の診断項目が適当かどうかについては様々な意見があり、2023年に発足した厚生労働省の「労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会(以下 検討会)」でまさに議論が進んでいる最中です。いろんなステークホルダーが絡むためにまだどこに着地するかははっきりしていないのですが、会議録から読み取れる今後の方向について、私見を含めまとめてみます。なお、検討会の議事録は厚生労働省のサイトに掲載されています。

国民の健康を支える職場の健康診断

職場で行われる健康診断は、「一般健診」と「特殊健診」に大きく区別されます。

一人でも労働者を雇用している事業主には労働者に「一般健診」を受けさせる義務があり、労働者は受ける義務があります。オフィスワーカーが年に1回(夜勤などがある人は半年に1回)受けているのはこの「一般健診」です。これに加えて、例えば有害な薬剤に接する人や、放射線に関わる業務に携わっている人などはその作業に応じた「特殊健診」を受ける義務があります。

市町村で実施している住民に対する健診は義務ではない一方、多くの人々が労働者の義務として健診を受けていることから、労働者の定期健康診断は国民の健康に関して重要な意義を持ちます。

現行の健康診断項目の問題点とは?

「一般健診」は1972年に義務化され、その後労働者の高齢化に伴い心血管疾患の予防に資するような項目が加えられてきました。検討会ではまさにいま一般健診の在り方について議論が進んでいる最中です。一般公開されている会議録を読み解いてみましょう。

まずは内閣府規制改革推進会議に参加していた医師メンバーから、動脈硬化性疾患に関する因子(血圧、コレステロール等)は、がんスクリーニング(義務としての定期健診には含まれないが多くの大企業ではオプションとして実施している)とともに、むしろ住民健診で取り扱うべきという意見や、定期健診全般についてエビデンスに基づいた議論が少ないという指摘がなされています。

産業保健側からは、配置転換や残業時間の削減等の措置につながらない検査項目は入れるべきでないという意見や、職業が多様であり一つのエビデンスでは語れない、巡回健診が相当の割合を占めるので巡回健診程度の設備で行える項目にするべきといった意見が出ました。また追加する項目として、日本人の失明原因の一位である緑内障に関する眼底検査、肝疾患の状態を調べるものとしての血小板検査、高齢女性に対する骨粗鬆症検査など挙げた一方、心電図検査は雇い入れ時などに1回行いその後は現行よりもっと間隔をあける案や、胸部X線や心電図は精度管理が重要であることを強調する意見が示されました。

一方、中小企業の団体からはコストが増えるから項目を増やすのには基本反対、できれば減らしたいという意見が、労働組合の団体からは自らの健康を把握するうえで重要であることから項目を減らすのは反対という意見が出ました。

一筋縄ではいかぬ健診の改革

この原稿を書いている2024年8月時点で、検討会の論点は3つに絞られてきています。女性労働者特有の健康問題、現行の健康診断項目の検討、健康診断に対する事後措置として保健指導も含めるか、です。今は1つ目を議論しています。

女性労働者特有の健康問題の中には月経困難症や更年期障害が含まれます。これらは本人の健康のみならず、それによる労働生産性の低下という点からも企業にとって切実な問題です。検討会では、女性労働者固有の問題の把握の方法として問診を追加するという方向性は示された感があります。ただ職場に知られたくない労働者も相当数いることが予想されその対応をどうするのか、さらに問題を把握した職場がどういった配慮や措置を取ればいいのか。そもそも月経困難症などについては本人が気づいていないことも多く、まだ検討するべきことがたくさん残っている印象です。

今後、健康診断項目の検討に入る予定だろうと思いますが、ここは費用の問題や検査へのアクセスの問題が大きく絡むこともあり、議論の難航が予想されます。

例えば骨訴訟症の検査です。第14次労働災害防止計画の柱の一つとして高年齢女性労働者等の転倒骨折防止が挙げられています。転倒骨折には筋力や敏捷性の低下に加え、骨粗鬆症の問題があるのですが、そもそも巡回健診の設備では骨粗鬆症を調べることができません。さらに骨粗鬆症がわかったという理由で今の仕事から外すべきなのかどうかといった、措置についても議論が必要です。緑内障の眼底検査に関してもコストはかかりますし、検査の品質管理も問題になります。

まだまだ先は長そうに思えますが、定期健康診断の検討結果は一般健診の実施やコストに大きな変化をもたらす可能性があります。産業衛生に関わる職種のみならず、人事や労務部門で働いている方々もアンテナを張っておくことをお勧めします。

ABOUT執筆者紹介

神田橋 宏治

総合内科医/血液腫瘍内科医/日本医師会認定産業医/労働衛生コンサルタント/合同会社DB-SeeD代表

東京大学医学部医学科卒。東京大学血液内科助教等を経て合同会社DB-SeeD代表。
がんを専門としつつ内科医として訪問診療まで幅広く活動しており、また産業医として幅広く活躍中。

原稿提供元株式会社ブレインコンサルティングオフィス「かいけつ!人事労務」

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