未成工事支出金の仕入税額控除とインボイス制度の留意点
税務ニュース
中小企業の建設業会計の未成工事支出金
中小企業の建設業会計には、工事完成後に売上計上する「工事完成基準」と、工事の進捗状況の出来高割合で売上計上をする「工事進行基準」の方法があります。工事に関する原価等の認識は、売上計上のタイミングと合わせることとなりますので、売上計上できるまでは、「未成工事支出金」として会計処理を行います。
つまり、材料の仕入や下請先に対する外注工事費などは、これらを支払った日の費用とはせず、未成工事支出金勘定で経理し、そのうえで、売上の認識が工事完成基準であれば、請け負った工事等の完成引き渡し時に、工事進行基準の場合は、工事の出来高割合に合わせて売上計上した金額に対応する部分を、原価等に振り替える処理となります。
なお、工事の進行途上において、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には、工事進行基準を適用し、この要件を満たさない場合には工事完成基準を適用するとされています。
※ 収益認識基準が任意適用の中小企業を前提としております。
法人税法上の考え方
法人税法上も、建設業会計と同じように、収益・費用の認識基準として「工事完成基準」と「工事進行基準」とがあります。原則は、工事完成基準となりますが、工事の規模に応じて、工事進行基準が強制適用されます。会計処理上、未成工事支出金としたものは、法人税法上も損金となりませんので、法人税法上の考え方と会計処理の考え方は、ほぼ同じとなります。
消費税の仕入税額控除の時期
消費税法では、考え方が異なります。
未成工事支出金に該当するものであったとしても、材料等の仕入れを行った日(引き渡しを受けた日)や、下請先が行う役務提供が完了した日の属する課税期間において、仕入税額控除の対象となります(原則)。ただし、未成工事支出金として経理した金額を、請負工事の目的物の引き渡した日の属する課税期間の課税仕入れとすることを、継続して適用しているときは、その処理が認められています(例外)。
- 原則:課税仕入を行った日の属する事業年度で仕入税額控除を行う
- 例外:工事完成基準を適用し、目的物の完成引き渡し日の属する課税期間に原価計上
➡完成引渡し時に消費税の仕入税額控除を行う
<インボイス制度の留意点>
原則
課税仕入を行った日が令和5年10月1日以降の場合は、インボイス制度の要件を満たしたインボイスの保存が必要となります。
例外
令和5年9月30日までに行った課税仕入については、未成工事支出金にかかる仕入税額控除の時期の特例により、令和5年10月1日以後に仕入税額控除を行う場合においても、インボイスの保存は「不要」です。(区分記載請求書等の保存により仕入税額控除の適用を受けることができます。)
出来高検収書基準
建設工事等を請け負った元請事業者が、その建設工事等の全部又は一部を他の下請業者に請け負わせる場合において、①元請業者が下請業者の行った工事等に出来高について検収を行い、②検収の内容及び出来高に応じた金額等を記載した書類(出来高検収書)を作成し、③それに基づき請負金額を支払っているときは、その出来高検収書は、消費税法上の「請求書等の範囲」に規定する書類に該当するものとして取り扱われ、その出来高検収書に記載された内容で、仕入税額控除を行うことができます。
<インボイス制度の留意点>
令和5年10月1日以降は、こちらの出来高検収書についても適格請求書等(インボイス)として扱われますので、インボイス制度の6つの記載事項等の要件を満たす必要があります。
まとめ
- 消費税法の原則:課税仕入を行った日の属する課税期間で、仕入税額控除(会計処理、法人税法上の収益費用の認識基準とズレます)
- 工事完成基準に合わせる場合:継続適用を要件に、完成引渡し時に仕入税額控除
- 下請業者の進捗状況に合わせる場合:出来高検収書(インボイス制度の要件を満たす)の作成及び確認を受けることで、出来高検収書の確認を受けた日の属する課税期間で仕入税額控除
会計と法人税法の考え方、消費税法の考え方の違いを意識していただくと理解しやすいかと思います。中小企業の場合は、工事完成基準で会計処理を行っていることが多いため、消費税についても、継続適用をすることで、同時期に仕入税額控除を受けることができます。また、未成工事支出金は税務調査でも指摘を受けやすい項目です。複数の工事を同時期に請け負う場合には、工事ごとの収益・原価等をしっかりと管理されることが重要です。
ABOUT執筆者紹介
代表社員税理士 筒井亮次
会計事務所勤務を経て大手税理士法人に入社。資産税、財務・税務デューデリジェンス業務を中心に従事。2011年4月に税理士法人 経世会に入社。2018年より現職。愛知県半田市・名古屋・東京の3拠点体制でお客様の幅広いニーズをカバーしている。スタッフ目線を大事にした業務改善・働き方改革を実行し、ワンチームで事務所拡大へ向けた挑戦を続けている。
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