社会保険の適用拡大
社会保険ワンポイントコラム
新入社員研修や保険加入手続きも終わり、事務担当者の方はようやく緊張がほぐれた時期ではないでしょうか。少しのんびりしたいところではありますが、今年の秋に大きな改正が控えていますので、今から改正内容と対象の有無について押さえておきましょう。
社会保険加入の対象者
社会保険に加入している会社の場合、原則としてその会社で雇用されている人は全員、社会保険加入の対象となります。ただし、例外的に、勤務している会社(事業場)で通常就労している社員の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3未満(以下、「4分の3要件」とする)のパート従業員(以下「パート」とする)については、健康保険及び厚生年金保険の適用除外となっていました。そのため「会社の社会保険料の負担を増やしたくないので正社員ではなくパートを採用している」という会社も多数あるものと思われます。
法律改正の背景
正社員ではなくパートの場合、上記のように4分の3要件を満たした者については社会保険加入の対象にはなりません。その分、会社も本人も社会保険料の負担がなくて済みますが、その反面、受けられる給付内容も金額も少なくなってしまいます。例えば、業務外での怪我や病気で休業した際の「傷病手当金」や、産前産後休業時に給付の対象となる「出産手当金」をもらうことができません。そして、将来的には老後にもらう老齢年金の額の差が大きく開きます(国民年金は満額で780,100円、厚生年金は報酬比例部分だけの平均で1,097,866円【厚生労働省発表】。厚生年金受給の方は報酬比例の部分に国民年金部分が加算されます)。このような背景から社会保険の加入対象にならないパートにもセーフティネットの強化を図るため、法律改正となりました。この改正は平成28年10月から実施されます。
社会保険の加入対象となるパートとは
パートでも社会保険の加入対象となるのは次のすべての要件を満たした場合です。
[1] 週の勤務時間が20時間以上、
[2] 月額賃金が88,000円(年収106万円)以上、
[3] 雇用契約の期間が1年以上(見込み)、
[4] 従業員数が501人以上
上記の[4]にあるように今回改正の対象となるのは従業員数が501人以上の会社のみになります。なお、この501人という数字は、今回の改正で社会保険の適用が拡大される前の人数で判断されます。また、[1]~[4]すべての要件を満たした場合でも、学生については社会保険加入の対象とはなりません。
準備と注意すべき点
従業員数が501人以上の会社については、法改正の施行開始となる10月より前に「適用となるパート労働者」の把握と準備をしておかなければなりません。対象となるパートの基礎年金番号および被扶養者の情報を収集しておかなければ、加入手続きがスムーズにできないからです。
また、パートの中には「社会保険の適用者になると社会保険料が給与から引かれるので入りたくない」という方も出てくると思われます。しかし、社会保険の加入に関しては本人の意思は関係ありません。法律における加入対象者に該当するか否かで決まります。もしも、加入させなければならない人を加入させていないことが年金事務所等の調査で発覚した場合、さかのぼっての加入を指導される場合もあります。このようにならないためにも今から対象者をピックアップし、事前に10月から社会保険の加入になることをお伝えしておく必要があります。
やってはいけないこと
社会保険のパート加入者が増えれば、会社の社会保険料負担は増加します。しかし、この負担を減らすことを目的として現在のパートに対して会社側から労働時間を一方的に20時間未満に減らすことをしてはいけません。労働条件の一方的な不利益変更になると共に、法改正内容の潜脱行為に該当してしまうからです。