生成AI時代は会計や税金の知識が不要に?!ビジネスに役立つ会計や税金の知識の身につけ方
起業応援・創業ガイド
1. 生成AI時代は会計や税金の知識が不要に?!
AI(人工知能)の進化により税理士の仕事がなくなると聞いたことがある方もいると思います。税理士の仕事がなくなると囁かれる原因となったと言われる『THE FUTURE OF EMPLOYMENT(雇用の未来)』(2014年、マイケル・A・オズボーン共著)が発表されて10年が経ちました。その後も、テクノロジーは日々進化し続けています。
では、実際はどうでしょうか。現時点では、税理士の仕事は減ることなく、むしろインボイス制度や電子帳簿保存法など複雑化する税制、またビジネス取引の国際化や多様化等により、その需要はますます増えているように感じています。自計化(自社で記帳)されている企業や個人事業の方々の会計データを見ていると、基本となる知識によって記帳の「質」に違いがあるように感じます。また、会計の活用状況も大きく異なります。
何気なく行っている日々の記帳かもしれませんが、その取引1つ1つが財務諸表(決算書)を構成します。決算書に誤りがあれば株主や銀行などの利害関係者に影響を与える可能性があります。また、誤った会計処理は、法人税や所得税、消費税等の税額計算にも影響を与え、意図的でなくても税金を少なく納付しペナルティを支払うことになる結果となったり、必要以上に多く税金を納めてしまうことにもつながります。日々の記帳が決算書や申告書の基礎となるため、日々の記帳はとても重要です。
だからこそ、AIが進化しても私たちには知識は必要であり、むしろAIの進化やビジネス環境の変化、税制改正に伴い、私たちの知識は継続的にアップデートさせていく必要があると考えています。
2. 経営の神様と会計~経営の神様は会計が得意だった?~
ところで、皆さんは会計や税金が得意ですか?
専門家以外は、「会計や税金が得意!」という方はほとんどいないと思います。
ここで、経営の神様のストーリーをご紹介します。
経営の神様と言われる27歳で京セラ株式会社を創業した稲盛氏でさえスタート地点は「ゼロ」でした。稲盛氏は元々技術者でした。そこから、ゼロから経営を学び、「経営の神様」と言われるようになりました。
『ゼロから経営を学んでいく過程で、会計は「現代経営の中枢」をなすものであると考えるようになった』(『稲盛和夫の実学‐経営と会計‐』、稲盛和夫、日本経済新聞出版)
と稲盛氏がその著書で述べているように、稲盛氏は「会計を重要なもの」と考えられていたようです。
経営の神様だって、会計知識はゼロからのスタートでした。ただ、「会計を重要なもの」と考え、その後の学ぶ努力があり、そして経営の神様と言われるようになりました。
誰だって最初は初心者です。経営の神様だって。
ただ、興味をもつかどうか、そしてそこから学ぶ努力をするかどうかがその後のビジネス人生に大きく影響を与えるのではないかと私は考えます。
3. 経営者や個人事業主に必要な会計や税金の知識の身につけ方
会計や税金は、専門用語がたくさん出てきます。また、基本の上に応用がありますから、基本が分からないとその先は分かりません。本物の知識を身につけるには基礎からであり、やはり時間がかかります。会計や税金を学ぶ機会がこれまでなかった方も多いでしょう。こうしたことが、会計や税金に対する苦手意識を生んでいるのかもしれません。
ただ、顧問税理士等がいる場合、経営者や個人事業主の方に高度な会計や税金の知識が必要かといえば、そうではないと考えています。しかしながら、経営者や個人事業主の方々が会計や税金の基本の知識をもっていれば、役立つ場面は多いです。管理会計をうまく取り入れれば…「どの部門で利益が出ているか?」「どの商品で利益が出ているか?」「前年と同じ月と比べてどうか?」など経営に活かすことができます。
また、「会計」という共通言語を理解していると社内の経理や外部の人との意思疎通もスムーズになります。変化の早い時代で新たなビジネスを行うときの判断にも役立ちます。ビジネスの場面でプラスに働くこともあります。
例えば、インボイス制度はビジネス環境に大きな影響を与えました。インボイス制度を理解するには、消費税の仕組みという消費税の基礎知識が必要です。ところが、消費税の仕組みを知らないままにインボイス制度を断片的に理解してしまい、結局のところインボイス制度がよくわからない、または間違って理解してしまって、その誤った認識を周囲に話してしまっているケースもあります。そうすると自社の取引先と話をしても「インボイス制度を理解していない」と理解不足がすぐにわかってしまいます。一方で、新しい制度に対して理解し対応をしていると安心してもらえ信頼アップに繋がることもあります。
さらに、情報が溢れる現代社会で私たちが触れる情報は正しい情報だけとは限りません。節税の話もそうです。自己の利益のために、又は注目を集めるために誇張した話をする方もいるのが現状です。そういった情報の提供者は責任をとってくれませんから、知識を持っておくとそういった情報に惑わされずに自社やご自身を守ることもできます。反対に、多く税金を払うこともせずに済みます。経営者や事業主が知識をつけるのは、会社のため、事業のため、自分のためでもあるのです。
「経済学者に騙されないために経済学を学ぶ」という言葉がありますが、「騙されないために会計や税金を学ぶ」ことも経営者や個人事業主にとっては大切ではないでしょうか。経営者や個人事業主としての生き方は長期間にわたって続き、人生の大部分を占めるビジネス人生で会計や税金の基本となる知識は必ず役に立つでしょう。最初は苦手意識があっても、興味をもち、学んでいくうちに理解が進みます。理解が進んでくれば、楽しくなってくるものです。
私の税理士事務所では、知識をつけていただくための支援をしています。また、インボイス制度や電子帳簿保存法など重要な税制改正などもオリジナルの資料を使って、なるべく分かりやすくポイントを説明するようにしています。そうした経験から、より多くの経営者や経理責任者の方々に知っていただきたい法人の税金のポイントをまとめた著書『スタートアップ企業の税金ToDoリスト』(中央経済社)を出版しました。スタートアップ企業、ベンチャー企業、法人化などの新設法人はもちろん、設立やEXIT以外の内容は他の企業の皆さまにも共通する内容となっています。
1年間の業務フローに基づいた構成で「いつ・何をするのかのToDo」がわかり、実務で役立つ「ToDoチェックリスト」を掲載しました。また、インボイス制度、税務調査、節税などにも触れ、損しないポイントも書きました。図解やイラストを交えて親しみやすい内容になっていますので、ぜひ『みんなの経営応援通信』とともに皆さまの知識アップとビジネスの発展にお役立てください。
ABOUT執筆者紹介
税理士 油谷景子
油谷景子税理士事務所 代表
日本の企業の99%を占める中小企業を税務会計面から支援する愛知県名古屋市の開業税理士。
四大税理士法人等(東京・名古屋)で上場企業等向け税務申告、国際税務、コンサルティング業務に従事。また、個人税理士事務所で中小企業向け税務会計サービス、相続税等の申告・相談など様々な実務経験を積んだ後、名古屋市で独立開業。ITや新しい技術を積極的に活用。自計化支援にも取り組んでいる。
著書『スタートアップ企業の税金To Doリスト』(2024年 中央経済社)