12 April

従業員数50人以上の会社の"人事労務担当者"が知っておくべき5つのポイント

掲載日:2023年04月12日   
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はじめに

従業員規模が拡大するにつれ、企業として対応すべき労務管理上の義務が新たに発生します。人数規模による企業の義務は、幾度となく法改正を繰り返して基準も変化しており、実務対応に頭を悩ませている人事労務担当者も多いのではないでしょうか。

本記事では、従業員数が50人以上になった場合に発生する5つの義務について、人事労務担当者が知っておくべきポイントを解説していきます。

そもそも従業員数50人とは?

従業員数50人には、フルタイムの常勤社員のみならず、パートタイマーも含むものとされています。また、労働安全衛生法令では、事業場を場所的観念によって考えます。つまり、営業所や工場、施設等、拠点を複数持つ企業においては、会社全体で50人の判定をするのではなく、拠点ごとに50人の判定をする必要があります。

(1)産業医の選任

従業員の健康管理を適切に行う為に「産業医」を選任しなければならないことになっています。「産業医」は、医師の中でも特別な研修を受けた者が有する認定資格であり、医師であれば誰でもよいわけではありません。この「産業医」探しになかなか苦労することがあります。労働安全衛生法令を管轄する労働基準監督署に相談すると探し方の相談には乗ってもらえますが、労働基準監督署が特定の産業医を紹介することはありませんので、自社で探さなければなりません。「地元の医師会に相談」「近隣の医療機関への相談」などの方法が一般的ですが、最近だと産業医を紹介する人材紹介会社もあります。

産業医の先生と企業が直接契約をすることになるのですが、報酬相場はピンキリです。筆者のクライアントでは月額30,000円というケースもありましたが、人数規模や、どこまでの内容をお願いするかによっても異なりますので、具体的には産業医の先生に直接相談されてみるのがよいと思います。「雇用契約」または「業務委託契約」のいずかの契約形態になるかと思いますが、所得税の源泉徴収義務が発生しますので、そのあたりの注意も必要です。また、選任したら「産業医選任届」を労働基準監督署に提出する必要があります。産業医が変更になった場合も同様です。

(2)衛生管理者の選任

衛生管理者というのは、労働環境の衛生的改善を担う国家資格です。第一種衛生管理者と第二種衛生管理者があり、業種によって置かなければならない要件が第一種と第二種とで細かく分かれており、第一種の方が業種の制限がありません。衛生管理者は、少なくとも毎週1回は現場を巡回し、危険箇所を確認し、必要に応じて健康障害を防止するため措置を行わなければなりません。自社で資格保有者がいなければ、早めに誰か候補者を立てて、資格取得の為の勉強を始めてもらう必要があります。外部委託という選択肢もなくはないのですが、名ばかり外部委託(いわゆる名義貸し状態)にならないよう、きちんと実務が行えることも含めて、最適な担当者を立てなければなりません。また、選任したら「衛生管理者選任届」を労働基準監督署に提出する必要があります。衛生管理者が変更になった場合も同様です。

(3)衛生委員会の設置

衛生委員会は労働災害防止の為に設置する委員会です。

従業員を危険や健康障害から守る前の基本となるべき対策などについて、会社と従業員が一体となって、従業員の健康や安全に対する企業側の意識向上と整備に加え、従業員側の現状の報告、改善を話し合う場です。

衛生委員会は月1回以上開催され、議長、産業医、衛生管理者、及びその会社の従業員で衛生に関する経験があるメンバーで構成されます。衛生委員会には産業医の同席が望ましい為、産業医の職場巡視の日程と合わせるとよいと思います。

(4)ストレスチェックの実施

ストレスチェックは、「ストレスに関する質問票」に従業員が記入し、それを集計・分析することで、従業員のストレスがどの状態にあるのかを調べる検査です。ストレスチェックの第一の目的は、メンタルヘルス不調の防止です。従業員本人が自分のストレスの状態を知ることで、うつなどの状態になる前に適切な対処を行うことができます。また、実施者は匿名化し集計したデータから、職場環境の改善に繋げることができます。

ストレスチェックの実施者になれる資格者は法律で定められており、医師、歯科医師、保健師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師などが担当します。資格者なら誰でもよいわけではなく、特定の研修を終了した者でなければなりません。職場内に資格者がいない場合は外部委託も可能です。

(5)定期健康診断報告

従業員に対する健康診断は、入社時の他、基本的に年1回の定期健康診断を受診させる必要があります。受診の対象となるのは1年以上雇用しているか、雇用予定の者で、正社員の4分の3以上の働き方をするパートやアルバイトも含まれます。社会保険加入者以上といったところです。

従業員数が50人以上になった場合は、さらに健康診断の結果を労働基準監督署へ報告する義務が生じます。「定期健康診断結果報告書」を労働基準監督署に提出します。

【従業員51人以上の義務】社会保険の適用拡大

社会保険の適用拡大の動きが進んでいます。従来は、正社員=加入、パートタイマー=正社員の4分の3以上の働き方をしている場合に加入、というものでした。正社員が週40時間勤務の場合、週30時間以上勤務している方にも社会保険に加入してもらうというものです。このルール自体が現在も継続しているのですが、一定の従業員数規模の会社に関しては、週30時間ならぬ、週20時間以上勤務する方にも社会保険に加入してもらうことになりました。

2022年10月1日の法改正で、現在は従業員数101人以上の規模の会社が上記を義務付けられていますが、2024年10月1日からは従業員数51人以上の規模に引き下がります。

ここでいう従業員数51人以上というのは、前述の労働安全法令における5つの義務の場合とは異なる数え方をします。あくまでも社会保険加入の対象者となる人数の総数で見るのであって、週20時間未満の者が多く在籍している場合には、実際の従業員の総数とは乖離します。また、こちらは事業場という拠点単位ではなく、会社全体でみます。

【従業員43.5人以上の義務】障害者の雇用義務

従業員が43.5人以上の規模の事業主は、従業員に占める障害者の割合を「法定雇用率」以上にしなければなりません。常用雇用労働者数43.5人以上の会社については、1人以上の障害者雇用を実施しなければなりません。この43.5人というのは、民間企業が達成すべき障害者の法定雇用率2.3%(100人に対し2.3人)を障害者1人に対する従業員数に読み替えたものです。この法定雇用率が2024年4月1日から法定雇用率が2.5%に引き上げとなり、常用雇用労働者数40人以上となる見込みです。

ここでいう従業員数は、前述のいずれの数え方とも異なる数え方をします。週30時間以上勤務の者を1人としてカウントし、週20時間以上30時間未満の者を0.5人とカウントします。また、こちらは事業場という拠点単位ではなく、会社全体でみます。50人と近い数字なので、一緒に覚えておくとよいでしょう。

最後に

筆者も従業員数40名ほどの通所児童福祉施設の経営に関わっておりますが、従業員数が増えるほどに背負うものの重さ、社会的責任の重さをひしひしと感じます。そして、法の義務ではありませんが、初めての障害者雇用を始めました。50名という基準は、あくまでも行政が決めた線引きにすぎず、人を雇用し始めたところから企業としての社会的責任は始まっています。何か事件が起きると徹底的に企業の社会的責任を追及されることからもわかるように、適切な安全衛生管理体制をもっていないと、安全配慮義務違反によって企業の法的責任を追及されるリスクが高まります。

これらの取り組みは、「法律で義務付けられているから仕方なくやる」のではなく、「安全な職場環境作りの為」「従業員の研修の一環として」「よりよい人材を確保する為に」といった視点で捉えてみると、人数規模にかかわらず取り組むことへの価値を見出せるのではないかと思います。

法令遵守の体制は今までにも増して厳しく見られるようになってきています。本記事を参考に、早めの準備に取り掛かっていただけたら何よりです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ABOUT執筆者紹介

中山卓

社会保険労務士 キャリアコンサルタント 社会福祉士 保育士
社会保険労務士法人オフィスALPACA 代表社員
株式会社エンパワーメント・ジャパン 代表取締役
一般社団法人さくらキャンプ 代表理事

 

静岡県三島市出身。静岡県東部の会計事務所にて、主に福祉関係の顧問先を数多く担当。2013年より障害福祉事業に特化した社会保険労務士事務所として独立開業し、北は北海道、西は九州まで、オンラインと対面によるサポート体制により、全国の顧問先約200社超。2017年より放課後等デイサービス『さくらキャンプ』を立ち上げ、発達に課題を抱える児童の通所支援事業にも携わる。また、社会保険労務士による日本初の法律系ロックバンドWORKERS!のリーダーとしても活動中。「ロックで伝える社会保険」をテーマに社会保険、労働法をわかりやすく伝えるための活動を行っている。

社労士バンドWORKERS!と弁護士倉重公太朗氏と法政大学キャリアデザイン学部松浦ゼミの学生たちとのコラボ企画により「キャリア自律の歌 制作プロジェクト」が目下進行中。現在、法政大学大学院キャリアデザイン学研究科在学中。

社会保険労務士法人オフィスALPACA
株式会社エンパワーメント・ジャパン
一般社団法人さくらキャンプ
社労士バンドWORKERS! オフィシャルWEBサイト

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