「変動費」と「固定費」の考え方
税務ニュース
事業のもうけを増やすためにどうしたらいいでしょうか。戦略を立てる際に役立つ考え方のひとつに、費用を変動費と固定費に分ける考え方があります。事業のもうけ(利益)は、売上から費用を差し引いて計算されますが、さらに費用を変動費と固定費に分けることで、利益の予測をしやすくなります。今回は、変動費と固定費の考え方から、分け方、使い方までお伝えします。
変動費と固定費
それでは、変動費と固定費とはなんでしょうか。名前を聞いたことがある方も多いと思います。「変動費」は売上に応じて増えたり減ったりする費用、「固定費」は売上に応じて増えたり減ったりしない費用です。つまり、売上の増減に影響を受けるかどうかで、「変動費」と「固定費」を判断することになります。
変動費と固定費に分けるメリット
最初にお伝えしましたが、変動費と固定費に分けるメリットとしては、第一に利益の予測をしやすくなることが挙げられます。変動費と固定費に分けることで費用を予測しやすくなるので、売上から費用を差し引いて計算される利益も予測しやすくなるのです。
他にも、費用削減の対策を考えやすくなることが挙げられます。売上と関係なく支払うことが決まっている固定費を削減すると効果が大きく、また、一度削減すると今後もずっと削減した状態になるので、効果が持続します。家計の節約対策でも、最初に家賃や通信費などの固定費を減らすことが挙げられるのと同じ考えです。
変動費と固定費の分け方
それでは、事業では変動費と固定費をどのように分けたらいいのでしょうか。わかりやすい方法は、損益計算書の勘定科目で分ける方法です。これは、勘定科目の性質を見ることになります。
例えば、売上原価に含まれる材料費や外注費は、売上の増減に応じて増減するので、変動費になります。Webデザインの仕事だと、ホームページで使う素材を用意する場合、素材を購入したり、デザイナーにデザインしてもらったりするかもしれません。そのかかる費用は、変動費に含まれます。
一方、販売費および一般管理費に含まれる通信費は、固定費になることが多いです。具体的には、動画編集のソフトをサブスクリプションで利用したり、インターネット利用料が毎月定額でかかったりする場合は、売上と関係なく支払うため、固定費になります。
また、勘定科目毎に変動費と固定費が混じっている場合もあります。例えば、人件費について、正社員の基本給など毎月支払いが決まっている給料は固定費ですが、残業して残業代が上乗せされた部分は売上を増やすために追加される部分と考えられるため、残業代部分は変動費になります。この場合には、同じ勘定科目でも変動費と固定費を分けて考えると、より正確に利益を予測できることになります。
限界利益と損益分岐点
では、具体的に変動費と固定費を使って、どのように利益を予測できるでしょうか。
売上から変動費を引いたものを限界利益といいます。売上が1単位増加した場合に増加する利益、つまり、稼げる限界の利益という意味です。
おにぎり屋さんのシンプルな例で考えてみます。今回、おにぎり屋さんの変動費は材料費のみとします。のり・梅干し・米を60円で購入して1つのおにぎりを作り、100円で販売する場合、限界利益は40円(=売上100円―変動費60円)と計算できます。おにぎりを1つ売る毎に限界利益40円が積みあがっていきます。
また、おにぎり屋さんの固定費はお店の家賃のみで1カ月15万円とします。つまり、おにぎり屋さんは何もしなくても、お店の家賃15万円が毎月かかってきます。おにぎりを売らないと毎月15万円、利益はマイナスです。
そのため、まずは利益がマイナスにならないように、売上と費用が同じになる売上(利益がゼロ)を目指します。おにぎりをいくつ販売したら利益がゼロになるかは、固定費を限界利益で除して求めることができ、今回の場合は3,750個(=固定費150,000円÷限界利益40円)販売すると利益はゼロになります。つまり、3,750個超えるとようやく利益がプラスになるのです。これは売上金額が375,000円(=売上@100円×3,750個)になり、費用も同じ375,000円(材料費@60円×3,750個+家賃150,000円)になります。このような売上と費用が同じになる時点を、損益分岐点と呼びます。
安全余裕額
他にも便利な指標として、安全余裕額があります。これは、現在の売上高がいくら減ったら赤字になってしまうかを表します。
具体的に、今回のおにぎり屋さんの場合、現在、月に500,000円の売上があるとすると、安全余裕額は125,000円(=500,000円―375,000円)になります。つまり、今よりもおにぎりが1,250個(=125,000÷1個当たりの売上@100)販売できなくなると赤字になることがわかります。これは、事業の現在地を把握することができ、値上げをすることで限界利益を大きくしたり、家賃が安い場所へ移転したりするなど、次の作戦を考えるひとつの目安になります。
まとめ
このように、費用を変動費と固定費に分けることで、事業の状況を足し算や引き算、割り算で簡単に把握することができます。新規事業をはじめる時に固定費を少なくする方がいいと言われるのは、売上が上がらなかった場合のマイナスを少なくすることができるからです。事業は、固定費分マイナスからスタートします。変動費と固定費を分けることで、そのことがより浮き彫りになり、これからの事業の目標や戦略を考える1つの材料として役立てられたらと思います。
注意点としては、変動費と固定費の分け方に正解はありません。何回か実際にやってみて、ご自身の経営判断にはこれくらいの正確性が必要だという良い頃合いがわかるまで、いろいろ試してみてください。変動費と固定費を正確に分けることにこだわるよりも、試行錯誤して、ご自身のやりやすい方法を決めていくのがオススメです。
ABOUT執筆者紹介
公認会計士・税理士 喜多弘美
2010年公認会計士試験論文試験合格後、上場会社経理部に所属。その後、大手監査法人で会計監査、グループ会社で内部監査・人事に携わる。2020年4月から個人事務所を開業し、2020年11月税理士登録。現在は、管理会計支援、税務業務をメインに従事している。
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